コラム

民事信託のススメ

 最近、民事信託(家族信託)の相談が増えている印象です。少し前までは、相続全般の相談の中で、弁護士の方からメニューの一つとして民事信託を提示していました。これが、最近では、相談者やその紹介者から、ずばり「民事信託」を依頼されるケースも多くなってきました。
 高齢者が取り組む民事信託は、生前の財産管理の委任と遺言を合わせたような役割があります。例えば、高齢者が存命中は、高齢者の財産を息子に管理してもらう。さらに、高齢者に相続が発生した場合には、信託契約に定めた通りに信託された財産を帰属させる。例えば、息子と娘に半分ずつなどです。
 民事信託上の役割名称としては、高齢者が委託者兼受益者、息子が受託者となります。

 民事信託のいいところは、高齢者が元気なうちに財産調べができることです。その上でどの財産を信託するかを決めます。もう一つのいいところは、民事信託は契約なので、遺言のように書換合戦にならないことです。民事信託の内容が気に入らない高齢者を(いったん)味方につけた他の親族が横やりを入れてきたとします。しかし、信託契約上、契約の変更や終了が、息子である受託者の同意がなければできないようにしておけば、高齢者(実質他の親族)限りで契約の変更や終了はできません。

 民事信託をしたいというご相談も増えていますが、他方で、かつて取り組んだ民事信託に関係するトラブルのご相談も増えています。民事信託を止めたい、受託者を解任したい、あるいは高齢者を味方につけた他親族からそういう申し出による攻撃を受けている、などがあります。実際の裁判例も出始めています。
 このようなトラブルを誘発する信託契約書は往々にして不完全なものが多いようです。したがって、弁護士など民事信託に知見のある専門職に契約書を作ってもらうのが安全でしょう。また、将来への禍根を残さないためにも、手順として親族全員の了解のもとに作るというのもお勧めします。