法定後見制度の枠組みについて
1 はじめに
2024年6月3日掲載のゆとりーなコラム(「成年後見制度の見直しについて」)において、成年後見制度の見直しに向けた検討がなされてい ることをご紹介いたしました。今回のゆとりーなコラムでは、法定後見制度の枠組みにつき、現行の制度を概観しながら、見直しに向けてどのような議論がなされているかご紹介いたします。
2 現行法の枠組み
⑴ 判断能力の程度に応じた三類型
現行の法定後見制度は、判断能力の程度に応じて、三段階(補助、保佐又は後見)の保護の内容を定めております。
⑵ 補助
補助の制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である方を対象としております。その具体例としては、重要な財産行為について、 自分でできるかもしれないが、 適切にできるかどうか危惧がある(場合によっては、本人の利益のためには、誰かに代わってやってもらった方がよい)場合が挙げられます。
本人等が選択した特定の法律行為について、補助人に、代理権や同意権(同意を得ないでした法律行為は取り消すことができます。)が付与されます。
⑶ 保佐
保佐の制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な方を対象としております。その具体例としては、日常の買物程度は自分ですることができるが、重要な財産行為は、自分で適切に行うことができず、常に他人の援助を受ける必要がある(場合によっては、誰かに代わってやってもらう必要がある)場合が挙げられます。
不動産の売却など民法13条1項に規定する重要な財産行為につき、保佐人に同意権が付与されるとともに、本人等が選択した特定の法律行為について、保佐人に代理権が付与されます。
⑷ 後見
後見の制度は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方を対象としております。その具体例としては、通常は、日常の買物も自分ですることはできず、誰かに代わってやってもらう必要がある場合、ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所等)が分からなくなっている場合、 遷延性意識障害(いわゆる植物状態)の状態にある場合等が挙げられます。
後見の制度では、補助や保佐と異なり、成年後見人に、本人の財産に関する広範な代理権及び取消権が付与されます。
3 現行の三類型に対する指摘
第二期成年後見制度利用促進基本計画においては、成年後見制度に関し、「三類型を一元化すべき」といった制度改正の方向性に関する指摘がされていることを踏まえ、その見直しに向けた検討を行うこととされております。
その背景として、必要性や補充性の原則を導入すべきとの考え方があると思われるほか、特に後見の制度に関し、保護者が有する権限が本人にとって現実に必要と考えられる部分を超える事案があると考えられ、自己決定に対する大きな制約となっている点が挙げられております。
4 見直しの検討の際の視点
現行の三類型の趣旨を踏まえて何らかの形で現行の三類型を維持する考え方のほかに、 現行の三類型を見直す考え方があり、現行の三類型を見直すとしても、現行の後見の制度のような包括的な保護の仕組みを設けるか否かといった視点があります。
例えば、遷延性意識障害によって意思を表明できない場合を想定して、現行の後見の制度のような包括的な保護の仕組みを維持することを支持する意見もあります。さらに、個々の必要性に応じて保護者に個別的な権限を都度付与するような制度のみを設ける場合には、本人の状態によっては、本人及び社会において、過大なコストの負担が生じることを懸念する意見も出されております。
他方で、特に、現行の後見の制度について、成年後見人に本人の財産を管理する権限と包括的な代理権が法定の権限として認められる仕組みは、本人が適切な支援を受けて自ら法律行為をすることのできる可能性のある事項についても成年後見人が当然に代表し得ることとなるため、本人の自己決定の尊重という観点から見直して、本人にとって必要な権限のみを保護者に付与する制度とすることを支持する意見も出されております。
5 まとめ
このように、本人保護と自己決定の尊重の調和を図るという観点から、あるべき成年後見制度について議論がなされております。
法務省に設置されている法制審議会の民法(成年後見等関係)部会における最新の議論状況については、法務省:法制審議会-民法(成年後見等関係)部会 からご覧いただくことができます。
〈参考資料〉
・法制審議会民法(成年後見等関係)部会第9回会議(令和6年10月22日開催)における部会資料6
