コラム

死後事務について(専門職の方もご一読ください。)

1 はじめに

 本人の死亡により法定後見は当然に終了しますが、相続人がいるときであっても、遺体の火葬等が速やかにされず、成年後見人において、遺体の引き取り、火葬等の手続といった死後事務を行うことが期待される場合があります。

 現在、法定後見制度の見直しについて議論がなされており、この死後事務のあり方についても、現行の後見の制度のような包括的な保護の仕組みを設けるか否かに関連して、議論がなされております。後記2にて現行制度につき紹介しつつ、後記3にて死後事務の見直しについてどのような議論がなされているか紹介いたします。

2 現行の死後事務について

 ⑴ 成年後見人の死後事務について

 成年後見人は、本人が死亡した場合において、必要があるときは、本人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、家庭裁判所の許可を得て、本人の死体の火葬等に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為をすることができるとされております(民法第873条の2第3号)。

 なお、この民法第873条の2第3号が制定された後においても、制定前と同様に、成年後見人が家庭裁判所の許可を得ることなく、応急処分又は事務管理の規定に基づいて、火葬等に関する契約の締結など死後事務を行うことは許容されると考えられております。

 ⑵ 保佐人や補助人について

 これに対し、保佐人や補助人にはこのような規定は設けられておりません。

 もっとも、上記1のとおり、仮に相続人がいるときであっても、火葬等の手続等を行うことを期待される場合があることは成年後見人の場合と同様ですので、保佐人や補助人が、応急処分や事務管理の規定に基づいて死後事務を行うことは必ずしも否定されておりません。

 なお、現行法の三類型(後見・保佐・補助)については、2025年1月6日掲載のゆとりーなコラム「法定後見制度の枠組みについて」をご参照ください。

3 死後事務の見直しの議論について

 ⑴ 見直しの議論の背景について

 成年後見人が火葬等に関する契約の締結等をすることができるとされる民法第873条の2は、成年後見人が本人の財産について包括的な管理権を有していることを前提としております。

 もっとも、後見制度の改正により、成年後見人等の保護者が必要な範囲で代理権を有する制度とする場合には、その前提が変わるため、死後事務に関するルールの見直しについても議論されております。

 以下、①事理弁識能力を欠く常況にある者の保護者には一定の代理権を法定する仕組みを設ける場合と、②特定の法律行為について保護者に権限を付与する仕組みのみ設ける場合(①の仕組みを設けない場合)に分けて、死後事務のあり方についての議論を紹介いたします。

 ⑵ ①事理弁識能力を欠く常況にある者の保護者には一定の代理権を法定する仕組みを設ける場合

 ア 上記1⑴のような現行法の規定の背景を踏まえ、①事理弁識能力を欠く常況にある者の保護者には一定の代理権を法定する仕組みを設ける場合には、そのような保護者について現行法の規律を維持することが考えられます。

 イ これに対し、事理弁識能力を欠く常況にある者の保護者以外の保護者(特定の法律行為について権限を付与される保護者)については、Ⓐ現行法の保佐や補助と同様に死後事務に関する規律を設けないする考え方と、Ⓑ火葬等に関する契約の締結に限って行うことができるとする考え方のいずれの組み合わせもあり得ると考えられております。

 なお、Ⓐに関し、死後事務に関する規律がなくとも、保佐人や補助人が、事務管理等の規定に基づいて死後事務を行うことが必ずしも否定されていないことは上記2⑵のとおりです。。

⑶ ②特定の法律行為について保護者に権限を付与する仕組みのみ設ける場合

 ア 火葬等に関する契約の締結に限って行うことができるとする考え方

 現行制度において、保佐人や補助人の場合であっても、成年後見人の場合と同様に、火葬等の手続等を行うことを期待される場合があることは上記2⑵のとおりです。

 また、民法第873条の2が、成年後見人が本人の財産について包括的な管理権を有していることを前提としていることは上記⑴のとおりですが、火葬等に関する契約は、包括的な財産管理権と関連すると考える必要はないのではないかとの考え方もあり、これを前提とした場合、保護者が包括的な財産管理権を有しない②の場合であっても、火葬等に関する契約を行うことが直ちに否定されるものではないことになります。

 これらを踏まえ、②の場合であっても、保護者は火葬等に関する契約をすることも可能であると考えられております。

 イ 現行の規律を削除する考え

 民法第873条の2が、本人の財産について包括的な管理権を有する成年後見人に限って一定の死後事務を行う権限を認めていることからすると、保護者が必要な範囲で代理権を有する仕組みのみとする②の場合には、本人の死亡後の保護者の事務に関する規律を設けない(現行の規律を削除する)ものとする考え方があり得るとされております。

 もっとも、仮に現行の規律が削除されても、上記2⑵のように事務管理等の規定に基づいて死後事務を行うことは否定されないことも考えられます。

 

4 まとめ

 このように、現行の後見の制度のような包括的な保護の仕組みを設けるか否かとも関連して、死後事務のあり方について議論がなされております。法務省に設置されている法制審議会における最新の議論状況については、法務省:法制審議会-民法(成年後見等関係)部会 からご覧いただくことができます。

 

〈参考資料〉法制審議会民法(成年後見等関係)部会第15回会議(令和7年2月25日開催)における部会資料11