成年後見制度における代理権の見直しに関する議論について
1 はじめに
2024年6月3日掲載のゆとりーなコラム(「成年後見制度の見直しについて」)において、成年後見制度の見直しに向けた検討がなされていることをご紹介いたしました。今回のゆとりーなコラムでは、成年後見制度における代理権につき、現行の制度を概観しながら、見直しに向けてどのような議論がなされているかご紹介いたします。
なお、公益社団法人商事法務研究会の「成年後見制度の在り方に関する研究会報告書」(令和6年2月)や、法制審議会の民法(成年後見等関係)部会における最新の議論状況については、以下のURLからご覧いただくことができます。
・成年後見制度の在り方に関する研究会報告書
→https://www.shojihomu.or.jp/public/library/2237/report0602.pdf
・法制審議会の民法(成年後見等関係)部会における最新の議論状況
→https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003007_00008
2 現行の制度の概要等
⑴ 代理権の制度
成年後見制度は、本人を保護するための方法の一つとして、第三者である成年後見人等に代理権を付与する制度を設けております。代理人(成年後見人)は、単独で本人のために法律行為をすることができ、その効果は有利又は不利にかかわらず本人に帰属します(民法第99条)。
⑵ 現行の法定後見制度における代理権
後見の制度では、成年後見人は、本人の財産に関する法律行為全般について包括的な代理権を有します(同第859条第1項)。
保佐の制度では、保佐人は、申立てがなければ代理権を有しないため、本人の同意等に基づき、個別の審判により定められた特定の法律行為についてのみ、代理権が付与されます(同第876条の4第1項、第2項)。補助の制度も保佐の制度と同様です(同第876条の9第1項、第2項)。
3 検討の必要性
上記のとおり、現行の後見の制度では、本人の判断能力の程度に直結して後見人に包括的な代理権が付与されることから、本人の自己決定権を必要な範囲を超えて制約するものであるという指摘がなされております。
また、障害者権利条約第12条は、判断能力の不十分な方の法的な保護、 支援の在り方に関し、代理・代行的な意思決定から自己決定支援(意思決定支援)への転換を求めるものと解され、障害者権利委員会の勧告では、成年後見制度による代行的意思決定についての懸念が示されており、代行決定の仕組みを廃止して、法的行為の行使を支援する仕組みを構築するよう求められていると考えられております。
このような指摘を受け、後記4のような検討がなされております。
4 検討
- 包括的な代理権の廃止
現行の後見の制度のように、包括的な代理権を付与するのではなく、現行の保佐や補助の制度のように、特定の事項ごとに代理権を付与することが検討されております。
⑵ 代理権付与の必要性
現行の保佐や補助の制度においても、明文上、代理権付与の必要性は要件とされておりませんが、必要性が求められると解釈されております。この必要性の具体的な内容についても議論がなされております。
例えば、この必要性の認定に際して、①本人が特定の法律行為や事務を行うかどうかの意思決定をする必要(事務の必要性)があるにもかかわら ず、②支援を受けても自ら意思決定することができず、第三者に代理権等の付与をして保護すべき具体的な事情(保護の必要性)が求められるという意見があります。現行の法定後見制度では、本人の判断能力は、特定の法律行為や事務についての必要性を離れて、全般的(属人的)に判定され、後見状態と判定された場合には包括的な代理権が付与されますが、上記意見では、本人の能力は、特定の法律行為や事務を念頭に、②保護の必要性の有無を判断する際における重要な要素と位置付けられております。
かかる必要性に加え、代理権付与以外に方法がないとする補充性(より制限的でない他の方法によることができるか)も要件とすべきという意見もあります。
⑶ 本人の同意
見直し後の法定後見制度では、現行の保佐や補助の制度のように、代理権の付与に際しては、原則として本人の同意等を要件とすることが検討されております。
さらに、代理権の付与に本人の同意を原則としつつ、本人保護の観点から例外的に本人の同意がない場合でも代理権の付与を認めるか否か、仮に認めるとして、どのような場合に例外を認めるべきかについても議論がなされております。
