会長声明・意見書

大崎事件第3次再審請求棄却決定及び三鷹事件再審請求棄却決定に関する会長声明

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更新日:2019年09月12日

2019年(令和元年)9月12日
第二東京弁護士会会長 関谷文隆
19(声)第5号

 2019年6月25日、最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)は、原口アヤ子氏等が請求したいわゆる大崎事件第三次再審請求事件の特別抗告審において、検察官の特別抗告には理由がないと判断したにもかかわらず、特別抗告を棄却せず、鹿児島地裁及び福岡高裁の各再審開始決定を職権で取り消して再審請求を棄却するという前代未聞の決定を行った。
 大崎事件は、1979年10月、原口氏が、その元夫、義弟との計3名で共謀のうえ被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。確定審においては、共犯者とされた元夫、義弟およびその息子の3名の自白、自白で述べられた犯行態様と矛盾しないという程度の法医学鑑定、共犯者の親族の供述等を主な証拠として、懲役10年の有罪判決が下された。
 原口氏は、第一次再審請求において、2002年3月、再審開始決定を勝ち取ったが、検察官の抗告により同決定が取り消され、その後、再審請求棄却決定が確定した。
 第二次再審請求においても、再審の扉は閉ざされたが、原口氏と共犯者とされた元夫の遺族がさらに再審を請求したのが、今回の第三次再審請求である。
 弁護人は、自白が遺体の解剖所見と矛盾するとの法医学鑑定と親族の目撃供述に関する供述心理学鑑定を新証拠として提出し、裁判所による鑑定人らの証人尋問や証拠開示勧告等の積極的な訴訟指揮を経て、鹿児島地裁(第三次再審請求審)及び福岡高裁宮崎支部(即時抗告審)は、殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できないとして、再審開始決定をした。
 このように、再審請求審及び即時抗告審において2度も再審開始の判断がなされた大崎事件においては、とりわけ慎重な判断が求められるべきであったが、人権救済の最後の砦であるはずの最高裁判所は、緻密な事実認定をした各決定を書面審理のみで覆した。
 同決定は、再審制度における無辜の救済の理念や、再審の判断に当たっても「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されるとした白鳥決定、再審開始のためには新旧証拠を総合的に評価し確定判決の事実認定と証拠構造に合理的疑いを生ぜしめれば足りるとした財田川決定の趣旨を没却するものと言わざるを得ない。
 そして、白鳥・財田川決定の趣旨を没却する決定を行ったのは、大崎事件だけではない。
 2019年7月31日、東京高等裁判所第4刑事部(後藤眞理子裁判長)は、竹内景助氏の遺族を請求人とするいわゆる三鷹事件の第二次再審請求について、これを棄却した。
 三鷹事件は、1949 年7 月、国鉄三鷹電車区において、7両編成の電車が暴走し、6名が死亡した事件である。竹内氏を含む10名が往来危険電車転覆致死罪で起訴されたが、東京地裁は、竹内氏以外に無罪の判決を下し、竹内氏にのみ無期懲役の有罪判決を下した。その後、東京高裁は、竹内氏の一審の無期懲役判決を破棄して死刑判決を下し、最高裁大法廷においては、8対7と結論が別れるほどの微妙な判断であったが、この判決が確定した。
 竹内氏は、再審を請求したが(第一次再審)、10年間にわたって放置され、1967年、病死されたことにより再審請求の手続は終了した。そして、2011年、竹内氏の遺族が2回目の再審請求を行ったのが本件第二次再審請求である。
 本件において、竹内氏の犯人性を示す唯一の直接証拠はその自白だけであったが、竹内氏の供述は、否認、単独犯行自白、共犯自白、単独犯行自白、否認、単独犯行自白、否認と多数回にわたり変遷しており、その信用性には多大な疑問があった。
 また、竹内氏の自白によれば、本件電車の先頭車両だけで電車を発車させる操作をしたことになるが、本件は複数人による犯行である可能性が高いとの観点から、弁護人はこの自白内容について専門家の鑑定書等を新証拠として提出したにもかかわらず、本決定は、完全な解明ができていないことや反対仮説が成り立つ可能性があることを理由として、同鑑定書等の信用性を否定した。
 竹内氏の自白を裏付けるとされた竹内氏を現場の近くで目撃したという目撃証言についても、弁護人は心理学の専門家の目撃実験結果に関する鑑定書等を新証拠として提出して目撃証言の信用性を争ったが、本決定は、事件当時の状況を十分に検討することなく、形式的な判断で、同鑑定書等の信用性を否定した。
 しかしながら、本件は、自白の偏重によるえん罪の疑いの濃い事案であり、少なくとも鑑定書を作成した専門家の尋問を行い、鑑定書等の信用性について十分に吟味・検討した上で、自白の信用性や目撃証言の信用性について判断すべきであった。本決定もまた、充分な審理を尽くさないままなされたものと言わざるを得ず、白鳥・財田川決定の趣旨を没却するものであり、本決定に対して、弁護人らは、2019年8月5日、東京高等裁判所に異議申立をした。
 当弁護士会は、引き続き、大崎事件及び三鷹事件の動向を注視していくとともに、手続規定の不整備ゆえに裁判所によって審理に格差が生じている現状や、再審開始の判断が検察官の抗告により再審請求審で審理が繰り返される現状を変えるため、再審開始要件の緩和、全面的証拠開示手続、検察官による不服申立て禁止等、無睾の救済という再審制度の理念に沿った刑事法制の改正に全力を尽くす決意である。

大崎事件第3次再審請求棄却決定及び三鷹事件再審請求棄却決定に関する会長 声明(PDF)

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