会長声明・意見書

裁判官1名・裁判員4名の合議体による裁判員裁判の実施を求める会長声明

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更新日:2020年03月31日

2020年(令和2年)3月31日
第二東京弁護士会 会長 関谷文隆
19(声)第12号

1 裁判員制度は、施行から10年が経過し、1万件を超える裁判員裁判が実施され、9万人以上の市民が裁判員・補充裁判員を経験した。
 裁判員制度は、それまでの供述調書に依存した刑事裁判から、法廷で見て聞いて分かる刑事裁判への大転換を促すとともに、市民感覚を事実認定及び量刑判断に反映し、司法への国民の主体的参加を得て司法の国民的基盤をより強固なものとして確立するという目的を相当程度に達してきた。

2 しかし、裁判員制度について、改善すべき点があることは事実である。その一つとして、司法の国民的基盤をより強固なものとするため、裁判官と裁判員の人数比を改め、裁判員の割合を増やすべきであるという問題がある。
 すなわち、裁判官3名・裁判員6名の合議体による裁判には、裁判員の関与が受動的または形式的なものにとどまるおそれがあり、裁判内容に裁判員の市民感覚が反映されにくく、司法に対する国民の理解と信頼を深めがたいという問題がある。当該事件のみを担当する裁判員が、主体性をもって自由に意見を述べ、裁判官とより対等に評議し、裁判内容の決定に実質的に関与するためには、裁判員の割合を増やす必要がある。
 裁判員の主体的かつ実質的な関与を確保することは、裁判員制度の趣旨及び存在意義に関わる重要な課題である。

3 そして、この問題について、裁判員法の改正によるほか、以下のとおり、現行法においても取り得る解決策がある。
 すなわち、裁判員裁判は、裁判官3名・裁判員6名の合議体を原則としているが、「公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるもの」については、裁判官1名・裁判員4名からなる合議体による審理及び裁判を行うことが認められている(裁判員法2条3項)。
 裁判官1名・裁判員4名の合議体であれば、裁判官3名・裁判員6名の合議体より、裁判員が裁判官とより主体的かつ実質的に評議することが可能となる。また、裁判員裁判を担当する裁判官が1名であれば、裁判官3名の日程調整が不要となり、単独裁判官のみで期日指定することが可能となり、より速やかに公判期日を開くことができる。さらに、公訴事実に争いがない裁判員裁判に要する人員を削減することにより、否認事件や複雑困難事件の裁判員裁判の審理が充実することも副次的に期待することができる。
 ところが、これまで行われた1万件以上の裁判員裁判において、「公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められる」事件が存在したことは明らかであるにもかかわらず、裁判官1名・裁判員4名の合議体による裁判員裁判が実施されたことは、一度もない。

4 現在、世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルスは、日本においても感染が拡大し、市民の日常生活にも多大な支障が生じている。裁判員裁判においても、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、公判期日が延期されている状況にある。
 しかし、公判期日が延期されて被告人の勾留が長期間に及ぶことは、被告人の身体の自由及び迅速な裁判を受ける権利を侵害するものであり、判決において身体拘束期間を未決勾留日数の算入にあたり考慮するだけでは足りない。
 この点、裁判官1名・裁判員4名の合議体による裁判員裁判を実施すれば、裁判員を6名選任する場合より、選任手続の際に裁判員候補者が間隔を空けて着席することや評議の際に間隔をあけて着席することが容易となり、新型コロナウイルスの感染拡大防止策を講じつつ、裁判員裁判を実施することが可能となる。
 また、裁判官1名で裁判員裁判を実施すれば、公判期日の調整が容易となり、迅速な公判期日の指定が可能となる。

5 よって、当会は、裁判員がより主体的かつ実質的に関与することを実現するとともに、裁判員裁判をより迅速に実施して被告人の身体の自由及び迅速な裁判を受ける権利を確保するため、裁判員裁判のうち公訴事実について争いがないと認められる事件については、事件の内容その他の事情を正しく考慮し、裁判官1名・裁判員4名の合議体による裁判員裁判を実施することを求める。

裁判官1名・裁判員4名の合議体による裁判員裁判の実施を求める会長声明(PDF)

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