会長声明・意見書

検察庁法の一部改正案中の検察官の勤務延長及び定年の特例措置に反対する会長声明

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更新日:2020年05月15日

2020年(令和2年)5月15日
第二東京弁護士会会長 岡田 理樹
20(声)第2号

1  政府は、第201回通常国会において、検察庁法の一部改正案を含む国家公務員法等の一部改正案を提出した。同改正案では、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げ、63歳に達した次長検事及び検事長にはいわゆる役職定年制を適用するものとしつつ、内閣が、職務の遂行上の特別の事情を勘案し、公務の運営に著しい支障が生ずると認めるときは、その後も当該官職で勤務させることができるものとし、検事総長、次長検事及び検事長が65歳の定年に達した場合にも、同様の事由により当該職務に従事させるため引き続き勤務させることができるものとし、これらの更新も可能としている。そして、検事正及び上席検察官の勤務延長並びに検事及び副検事の定年延長についても、法務大臣において同様の措置をとることができるものとしている。
 当会は、検察官を含む国家公務員の定年を延長すること自体に反対するものではないが、上記改正案は、内閣又は法務大臣の裁量により、検事総長、次長検事及び検事長又は検事正及び上席検察官について、勤務延長や定年の延長を通じて、検察人事に介入することを可能とするものであり、検察官の独立性及び公平・中立性を損ない、検察組織全体に対する国民の信頼を大きく揺るがすことになりかねない。
現に、検察庁法一部改正案に対しては、SNS上において、著名人・検察官OBを含む多数の国民から、批判や抗議の声が類例をみないほど広がっている。

2  そもそも検察官は、検察庁法第4条が定めるとおり、公益の代表者として、刑事事件について公訴の提起を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、裁判の執行を監督するなどの権限を有している。全ての犯罪につき、原則として検察官が公訴を提起し(起訴独占主義)、起訴・不起訴についての裁量権を有しており(起訴便宜主義)、公訴権を行使する前提として、強大な捜査権限が認められている。そして検察官は、心身の故障その他の事由がある場合に、検察官適格審査会の議決を経るなどの手続を経ない限りは罷免されない(検察庁法23条)。検察官にこのような身分保障が認められているのは、政治的な事件を含めて、公正中立な立場で、捜査権及び公訴権を行使することを可能にするためであり、憲法の基本原理である三権分立の原則に基づくものである。検察官の権限行使に恣意的な介入を許すときには、刑事司法の運用は根底からゆがめられることになりかねない。
 現行の検察庁法32条の2が、同法第22条の定年制の規定について、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、国家公務員法附則第13条の規定により、同法の特例を定めたものとしているのも、以上のような趣旨に基づいている。

3  しかも上記法案の審議の在り方も大きな問題を含んでいる。
 新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づく緊急事態宣言は4月7日に発出、4月16日には対象地域が全国に拡大され、5月4日には、その期間が5月31日まで延長されている。このような状況下において、政府は、4月16日、検察庁法一部改正案を、国家公務員法等の一部改正案との一括法案とした上で、衆議院内閣委員会に付託し、法務委員会との連合審査ともすることなく、性急に審議を進めようとしている。
 本法案の成立を急ぐ必要も理由もないにもかかわらず、緊急事態宣言の基本的対処方針において、外出、移動や密集の自粛などが掲げられ、集会、デモ行進など、直接民主主義的な表現の自由が事実上大きく制約されている状況下において、審議・採決を強行しようとする政府の姿勢は、国民の批判や抗議の声に耳を傾けず、民主主義をないがしろにするものであって、到底許されるものではない。

4  よって当会は、検察庁法の一部改正案のうち、検察官の勤務延長及び定年の特例措置に関する部分に反対し、併せて、拙速な法案審議に強く抗議する。

検察庁法の一部改正案中の検察官の勤務延長及び定年の特例措置に反対する会長声明(PDF)

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