会長声明・意見書

少年法適用年齢に関する法制審部会の取りまとめの問題点についての会長声明

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更新日:2020年10月23日

2020年(令和2年)10月23日
第二東京弁護士会会長 岡田 理樹
20(声)第6号

1 法務省法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「法制審部会」といいます。)は、本年9月9日、少年法の適用年齢について最終的な取りまとめを採択しました。
 現行少年法は、20歳未満の少年につき、軽微な非行であったとしても、必ず全ての事件をいったん家庭裁判所で扱い、心理学や教育学,社会学等を修得した専門職である調査官による社会調査や少年鑑別所による分析を通じ、少年の問題点を抽出し、教育的見地から刑事処分を含めて適切な処遇の選択をしています。このきめ細やかな制度が有効に機能していることは、法制審部会でも前提として共有され、取りまとめにおいても、18歳、19歳の者について、全ての事件を家庭裁判所で扱うこととした点については歓迎したいと考えます。
 しかし一方で、取りまとめにおいて、18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる特別な対象として取扱いをすべきとしており、特に以下の2点については、特に問題だといわざるを得ません。

2 少年法は、一定の重大事件につき、家庭裁判所が、原則として保護処分による矯正ではなく刑事処分による処罰が相当として検察官に事件を戻す選択をすることとしていますが、今回の取りまとめでは、その範囲を故意行為による被害者死亡事件から、18歳及び19歳につき、強盗罪などを含む「短期1年以上の新自由刑」に拡大するとしています。
 ひと口に「強盗」といっても、例えば、万引き現場を見つかり制止を振り切ろうとして暴行に至ったような比較的軽微な事後強盗ケースも含まれ、18歳、19歳の者が検察官によって起訴されたのち、刑事裁判で執行猶予判決となれば、現行少年法で有効に機能しているきめ細やかな教育的手当がされずに社会に放置され、更生できず再び犯罪に至ってしまう者が出てくることが予想されるところです。これでは、18歳、19歳の再犯者を減少させるという観点から逆効果といわざるを得ません。

3 少年法では、少年の社会復帰に支障が生じることを防ぎ、健全育成及び更生を図るため、実名を含め、少年が誰かを推知させる報道を全面的に禁止しています。取りまとめでは、18歳、19歳の者が起訴されれば、この禁止の対象から外すこととしています。
 しかし、現代社会で、ひとたび情報が発信されると、事後的に抹消することは困難であり、結婚、就職など重要な出来事のたびに、過去の犯罪を理由に拒絶され、社会生活が著しく困難になります。あるいはそのような状況が確実に予想される状況では、罪を犯した18歳、19歳の者に更生の意欲を持たせることもできません。法制審部会の取りまとめに賛成する意見には、一部、報道によって社会的制裁を受けさせるべきとの発想もうかがわれますが、刑罰や行政罰以外の私刑を許すものに他ならず、到底許容できません。
 18歳、19歳の者についても、健全育成及び更生に重要な意義を持つ推知報道禁止の規定について、例外を認めるべきではありません。

4 以上述べたとおり、法制審部会が採択した取りまとめは、上記2点を含めて様々な問題があり、有効に機能している現行少年法の趣旨を没却させ、少年法制が果たしている再犯防止という刑事政策的機能も減殺するおそれがあって、この取りまとめのままではおよそ是認できないため、改めて反対の意見を述べるものです。

少年法適用年齢に関する法制審部会の取りまとめの問題点についての会長声明(PDF)

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