会長声明・意見書

性的指向及び性自認に関する差別を防止・禁止する立法を求める会長声明

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更新日:2021年06月16日

2021年(令和3年)6月16日
第二東京弁護士会 会長 神田 安積
21(声)第5号

 いわゆるLGBT理解増進法案(「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」)は、結局、国会に提出すらされないまま、本日、通常国会が閉会しました。

 LGBTは、性的指向(どのような性別を好きになるか)における、Lesbian(レズビアン・心の性が女性で恋愛対象が女性)、Gay(ゲイ・心の性が男性で恋愛対象が男性)、Bisexul(バイセクシュアル・恋愛対象が女性・男性の双方)、また、性自認(自分の性をどのように認識しているか)におけるTransgender(トランスジェンダー・心の性と身体の性が一致せず、身体の性に違和感がある)のそれぞれの言葉の頭文字を組み合わせて、性的少数者を表す言葉です。なお、性的少数者には、LGBTの方以外にも、女性・男性双方に恋愛感情を抱かない人や自分自身の性が判らない人などがいます。
 性的少数者は、恋愛は異性とするものであり、性別は女性・男性だけであるという固定観念が多数を占める社会の中でいわば見えない存在とされ、偏見や無理解から生じるいわれのない差別、中傷、侮蔑や揶揄に苦しみ、自死に至ることもあります。そして、性的少数者が社会生活を営むうえで直面する困難は、教育、就労、住宅供給、医療における自己決定、行政・民間のサービス、社会保障、メディアでの扱い等に至るまで多岐にわたっています。

 個人がいかなる性的指向や性自認を有するかは、個人の尊厳に密接にかかわります。本年3月17日、札幌地方裁判所は、同性婚を認めない民法等の規定が憲法第14条に反し違憲であるとの画期的な判断を下しました。性的指向や性自認を理由とする差別は、個人の尊重と幸福追求権を規定した憲法第13条及び法の下の平等を規定した憲法第14条に反します。
 しかし、日本では、性的少数者に関する包括的な法律は制定されておらず、また、G7の中で唯一、国レベルの同性婚への法的保障がありません。その意味で、LGBT理解増進法案は、差別解消に実効性をもたらす措置を含まないいわゆる理念法であり、不十分であるとの批判はありましたが、更なる法整備に向けた一里塚として意義を有していたものであり、これが国会に提出すらされなかったことは極めて遺憾です。また、国会議員が、「LGBTは種の保存に背く」などの発言をしたとの報道がされていますが、仮に事実であれば、当該発言こそ性的少数者に対する偏見や無理解を露呈するものとして、立法事実になり得るものです。

 当会は、性別等による差別的取扱い等の禁止に関する規則において、性的指向や性自認による差別が禁止されることを明示するよう改正し、当該規則に沿って会員に対し研修を提供しています。また、同性婚を認めない州法を違憲とする判断をした米国最高裁判決に関する研修、性的少数者を念頭においた企業の環境整備についての研修等を実施し、当会の「NIBEN Frontier」にて特集を組み、広くその内容を周知するなど、性的少数者に対する差別の解消に向けた取組みを継続しています。
 当会は、国に対して、性的指向や性自認を理由とする差別やハラスメントの防止・禁止を明記した立法を求めるとともに、今後もすべての性の多様性を尊重する社会を実現するために、長きにわたり看過されてきた性的少数者の権利に対する意識の啓発に努め、性的少数者に対する差別の防止・禁止に向けた取組みを進めていく所存です。

性的指向及び性自認に関する差別を防止・禁止する立法を求める会長声明(PDF)

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