会長声明・意見書

旧優生保護法によるすべての被害者に対する全面的な被害回復を求める会長声明

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更新日:2022年03月14日

2022年(令和4年)3月14日
第二東京弁護士会会長 神田 安積
21(声)第14号

 かつて優生保護法(以下「旧優生保護法」といいます)という法律がありました。旧優生保護法には、優生思想(国の発展を妨げる子孫を生んではいけないという考え方)に基づき、「不良な子孫の出生を防止する」という目的が明記され、特定の障害や疾患等を有する者に強制不妊手術を認める規定(優生条項)がありました。
 国は、この規定に基づき、特定の障害や疾患のある方に対して、強制的に不妊手術(優生手術)を行いました。子どもをもうけることができないように強制的に手術をし、その数は2万5000人以上にのぼるとされています。1948年にこの法律がつくられてから約50年が経過した1996年に至り、上記の目的及び優生条項が削除され、名称も母体保護法として改正されました。

 2018年、仙台の被害者が初めて国に賠償を求める裁判を起こしました。同年に東京の被害者も裁判を起こし、全国では合計9つの裁判所に対し、知的障害や聴覚障害等を理由に手術を強制された方やその配偶者の方の合計25名の方々が裁判を起こしています。
 裁判の主な争点は、①優生条項が憲法13条、14条1項等に違反していたか、②不法行為から20年たつと損害賠償請求権が消滅してしまう除斥期間が適用されるか、という2点にありました。しかし、東京を含む地方裁判所はいずれも除斥期間を経過していることを理由に損害賠償請求を認めませんでした(2020年7月27日「旧優生保護法による被害者の被害回復を求める会長声明」)。
 2022年3月11日、東京高等裁判所は、東京地裁判決を変更し、国に損害賠償を命ずる判決を言い渡しました。本判決は、優生条項が憲法13条、14条1項に違反し、また、優生手術の侵害する人権の重大性等に鑑み、本件に除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反すると判断しました。旧優生保護法訴訟におけるこのような判断は、去る2月22日に出された大阪高裁判決に続く2例目になります。

 憲法13条が「すべて国民は、個人として尊重される」と規定しているように、この世界に一人として「不良」な人間や「不良」な子どもは存在しません。国は、自ら守らなければならない憲法13条に明らかに違反する法律を作りながら、約50年にもわたって人権侵害を継続し、その状態を放置してきました。そのような国が、除斥期間の存在など知るよしもない被害者が20年間提訴できなかったことをもって免責されることなど許されるはずがありません。
 当会は、本訴訟の原告弁護団に対して人権救済基金援助金を支出し、本訴訟の帰趨を見守ってきました。2つの高裁判決が司法府として被害者の被害回復の視点に立ち、除斥期間の解釈について画期的な判断を下したことを踏まえ、国には本判決に対する上告をせず、既に行った大阪高裁判決に対する上告を取り下げるよう求めます。併せて、改めて国に対し、全国各地で争われている同種訴訟における被害者はもとより、様々な事情によって提訴に至っていない多くの被害者、そしてその配偶者を含むすべての被害者のために全面的な被害回復に向けた措置を行うことを求めます。
 また、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」は対象者に320万円の一時金を支給することを定めています。しかし、2022年2月末時点の認定件数は974件にとどまっています。さらに、両高裁判決においては、一時金の額である320万円を大幅に上回る賠償額が認められ、優生手術を受けていない配偶者に対しても慰謝料が認められました。国はこれらの事情を踏まえ、同法を早急に見直すべきです。

 「差別のない社会をつくっていくのは、社会全体の責任である。」東京高裁の平田豊裁判長は所感としてそう述べました。旧優先保護法の問題に光があてられるまでになぜこれだけの長い時間を要したのか。その間に弁護士会として、より積極的に取り組むべきことがあったのではないか。なぜ提訴を受けたすべての地方裁判所が両高裁のように被害者の視点に立った本来あるべき法解釈を示すことができなかったのか。立法府や行政府は、ハンセン病や中国残留孤児の問題などの前例がありながら、上記の一時金支給を除き、自主的・自律的に全面的な問題解決に向けた取り組みをなぜしないのか。上記の所感は様々な示唆を含意しつつ、本訴訟の被告は国であるが、私たち国民一人一人でもあったのではないかと示唆しているのかもしれません。
 当会は、本年度、本訴訟を契機として、今なお社会に埋もれた人権侵害を掘り起こし、その回復を図るためのPTを人権擁護委員会に設置しました。今後も、人権侵害が放置され、その被害回復が遅れることがないように、積極的に人権擁護活動に取り組む所存です。

旧優生保護法によるすべての被害者に対する全面的な被害回復を求める会長声明(PDF)

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