会長声明・意見書

「大崎事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

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更新日:2022年06月30日

2022年(令和4年)6月30日
第二東京弁護士会 会長 菅沼友子
22(声)第4号

 鹿児島地方裁判所は、2022年(令和4年)6月22日、「大崎事件」(殺人、死体遺棄被告事件)の第4次再審請求につき、請求を棄却する決定をしました。この棄却決定は不当なものですので、下記のとおり意見を述べます。

1 「大崎事件」は、1979年(昭和54年)10月、①農道脇に転落し、前後不覚の状態で道路上に寝ていた「被害者」が、午後9時頃に近隣住民によって自宅に運ばれてきたところ、②原口アヤ子氏、その元夫、義弟の3名が共謀して、午後11時頃に「被害者」の首をタオルで絞めつけ、窒息により殺害し、翌日午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた4名で掘った穴の中に埋めて遺棄したという「事件」です。アヤ子氏の無罪主張にもかかわらず、確定審においては「共犯者」とされたその余の3名の自白、義弟の妻の供述を主な証拠として、アヤ子氏に懲役10年の有罪判決が下されました。*1

2 再審請求では、「被害者」の死因・死亡時期が争点となっています。
 この争点に関し、第4次再審請求では、「被害者」が犯行現場とされる自宅に帰宅する前に死亡しており、「被害者」を「殺害」することはあり得ないことを明らかにする救命救急医の鑑定書等が提出され、同鑑定人等の尋問も実施されました。
 それでも、裁判所は、①鑑定人が指摘する内容の一部について可能性を認めただけで、確定判決における頸部圧迫による窒息死との認定に合理的疑いが生じるとはいえないとするとともに、②同鑑定によっても「共犯者」の自白や近隣住民の供述の信用性を直ちには減殺しないと判断しました。*2

3 このような裁判所の判断は、新証拠の証明力を過小評価している上、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるとした「白鳥事件」・「財田川事件」の最高裁判所決定を無視するもので、結論ありきの決定であるといわざるを得ません。

4 裁判所が「白鳥事件」・「財田川事件」の最高裁判所決定に反して再審請求を棄却する決定をしたのは、新証拠の出現を理由とする再審開始の要件である無罪の「明らかな証拠」(刑事訴訟法第435条第6号)という文言を、再審制度の趣旨に反し厳格に解する余地があることも一因となっています。
 諸外国においては再審に関する法制度が継続的に見直されています。しかしながら、わが国においては、1922年(大正11年)以降の100年間、不利益再審が廃止された点を除くと見直されていません。そのため、上記の点や再審における証拠開示の問題、開始決定に対する検察官による不服申立ての問題など、多くの課題が残されています。*3
 そこで、当会は、大崎事件の第4次再審請求の即時抗告審において裁判所が再審を開始すべき理由があることを適切に判断するかを引き続き注視するとともに、罪なき人の救済という再審制度の理念に沿った刑事訴訟法の改正に全力を尽くすことをここに表明します。

*1 大崎事件の概要をわかり易く紹介するものとして日本弁護士会連合会人権擁護委員会編『21世紀の再審 えん罪被害者の速やかな救済のために』(日本評論社・2021年)152頁以下。
*2 近隣住民の供述を分析した鑑定についても、旧証拠の証明力を減殺するものではないと判断しました。
*3前掲1・365頁以下参照

「大崎事件」再審請求棄却決定に関する会長声明(PDF)

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