会長声明・意見書

医学部入試女性差別事件東京医大判決を受けての会長声明

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更新日:2022年10月11日

2022年(令和4年)10月11日
第二東京弁護士会 会長 菅沼 友子
22(声)第8号

 本年9月9日、東京地方裁判所は、東京医科大学(以下、「東京医大」といいます。)が医学部入試において女性差別を行ったとして、女性受験者が損害賠償を請求した事件につき、判決を言い渡しました。
 判決では、東京医大が2013年度から2018年度の医学部医学科の入試において一部の男性受験者だけに加点をする等の取扱いをしていたことに対し、「性別という自らの努力や意思によって変えることのできない属性を理由として、女性の受験者を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条の趣旨に反するもの」であって、「『公正かつ妥当な方法』(大学設置基準2条の2)による入学者の選抜とはいえない」とし、かつ、このような差別的取扱いに合理的な理由は見当たらないとして、許されないものであることを明確に示しました。そのうえで被告がこのような選抜方法を公表することなく、原告らに医学部医学科の入試を受験させたことは、原告らが自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして不法行為に該当する、と判示し、東京医大に対し、受験にかかった費用や慰謝料等の損害賠償の支払いを命じました(原告らは慰謝料が低額に過ぎること等を理由に控訴)。
 同種事件でも、東京地方裁判所は、本年5月19日、順天堂大学が女性の受験者につき男性より高い点数の判定基準を設ける等により不利益に取り扱った医学部入試につき女性受験者が提訴した訴訟において、このような選考方法は不合理な差別的取扱いであるとして、損害賠償を認めています。
 東京医大での上記差別等の発覚をきっかけに2018年に行われた文部科学省の医学部医学科の入学者選抜に関する緊急調査によると、例年多くの大学で男性受験者の合格率が女性の合格率を上回っている状況があり、東京医大、順天堂大学など複数の大学が女性に一律に不利になる入試判定を行っていたことが発覚しました。今回の判決は、このような女性差別入試が憲法、教育基本法の理念に照らしても許容されないことをあらためて明確にしたものであり、意義があります。
 医療現場では、女性医師の結婚・出産に伴う離職や当直・緊急対応への忌避、女性医師が希望する診療科に偏りがあること等から、女性より男性を多く採用しようという風潮が残っているといわれています。しかし、女性医師が出産等を機に離職したり、比較的私生活への負担の少ない診療科を希望する傾向があるとしても、それは医療現場における長時間労働等の勤務環境の問題によるところが大きく、男性・女性に限らずワークライフバランスに配慮した医療現場の勤務環境の改善こそが必要なのであって、一律に女性の医学部合格者を抑える正当な理由とはなりえません。
 日本では医師数における女性医師の割合は約23%です。翻って、同じく国家資格による専門職である弁護士についてみると、やはり女性の割合は全国で約19%です。当会では第4次男女共同参画基本計画(今年度から5年間が計画対象期間)において、「パリテ」すなわち意思決定の場での男女同数を最終的に目指すことを掲げ、その目標達成のために女性会員の割合増加に取り組むことを定めました。医師や弁護士のように、国家資格に基づく専門性の高い職業に就く女性の割合が増加することは、特定の業界だけでなく日本における男女共同参画の進展を大きく促すはずです。医学部医学科をもつ大学や医療機関等には、女性医師の割合を増加させる努力こそが求められます。
 本年4月より「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)による行動計画策定等の義務の対象となる企業が拡大されました。女性が活躍できる社会を目指すことは、すべての人が働きやすく活躍できる社会の実現につながります。
 当会は引き続き、性別による差別の撤廃と平等で多様性のある社会の実現に向けて、力を尽くしていきます。

医学部入試女性差別事件東京医大判決を受けての会長声明(PDF)

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