会長声明・意見書

ヘイトクライムの根絶のために実効的な対策をとることを求める会長声明

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更新日:2023年01月13日

2023年(令和5年)1月13日
第二東京弁護士会会長  菅沼友子
22(声)第9号

 今年2023年は関東大震災から100年。震災直後、朝鮮人が井戸に毒を入れたなどのうわさが広まり、何の罪もない多くの朝鮮人が住民による「自警団」や警察等に虐殺されました。これは朝鮮人等に対する差別や偏見が一つの原因となった重大な犯罪であり、その犠牲者は震災による死者の1~数%に及ぶと言われています。
 それから100年が経過しましたが、このようなヘイトクライム(差別的動機に基づく犯罪)は私たちの社会から無くなっていません。それどころか、近年このような事件が相次いで起こっています。
 2020年1月、川崎市の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に在日コリアンの殺害や同館の爆破を宣言・予告する脅迫文が連続で届き、2021年3月には、同館館長に対し脅迫文が送付されました。2021年7月から8月にかけては、韓国民団愛知県本部、名古屋韓国学校、京都府宇治市のウトロ地区(在日コリアン集住地区)の民家等への連続放火事件、2022年4月にはコリア国際学園への放火事件が発生し、同年9月にはJR赤羽駅で「朝鮮人コロス会」との差別落書きも発見されています。
 さらに、2022年10月4日の朝鮮民主主義人民共和国によるミサイル発射、及びこれを受けたJアラート(全国瞬時警報システム)発出を契機として、少なくとも6つの朝鮮学校に対する計11件の暴行脅迫事件が発生し、インターネット上には、在日コリアンや朝鮮学校に対するヘイトスピーチ(攻撃や暴力の煽動等を含む。)が溢れています。
 ヘイトクライムの被害者は、自身に対する強い憎悪に基づく攻撃を受けることで、大きな不安と抑鬱症状を示すことが多いと指摘されています。また、ヘイトクライムは、ある集団に属する人々は歓迎されず、社会的に尊重される価値がないという集団全体に向けた象徴的なメッセージを意図するものであって、直接の対象となった被害者のみならず、対象とされた集団に属する人々にも深刻な被害を与えるものです。さらには、社会的な偏見や差別を蔓延・固定化させ、究極的にはジェノサイド(大量虐殺)や戦争を誘発する害悪を有するものと指摘されています。
 岸田文雄首相も2022年10月19日の参議院予算委員会において、「特定の民族や国籍の人々を排斥する不当な差別的言動、そのような動機で行われる暴力や犯罪は許されない」と述べています。しかし、日本政府は、人種差別撤廃条約の加盟国であるにもかかわらず、同条約の要請を踏まえた法の制定やヘイトクライムの実態調査なども行っていません。
 国際人権(自由権)規約委員会は、2022年11月3日に発表した同規約の実施状況に関する第7回日本政府報告書に対する総括所見において、日本政府が、ヘイトクライムを明確に犯罪化する措置をとっていないこと、現行法では被害者に十分な救済が与えられないことに懸念を示しました。
 そこで、当会は国に対し、人種差別撤廃条約の要請や国際人権(自由権)規約委員会の指摘をふまえ、ヘイトクライムの実態調査を行い、包括的な人種差別禁止法の制定を含め、ヘイトクライムの根絶のために実効的な対策をとるように求めます。
 もとよりヘイトクライムのない社会の実現のためには、社会の一員である私たち一人ひとりが自分の人権と同様に他者の人権を尊重していくことが必要です。当会としても、ヘイトクライム根絶に向けた様々な取組を引き続き進めていきます。

ヘイトクライムの根絶のために実効的な対策をとることを求める会長声明(PDF)

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