会長声明・意見書

「反撃能力」の保有に反対する会長声明

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更新日:2023年02月09日

2023年(令和5年)2月9日
第二東京弁護士会 会長 菅沼 友子
22(声)第10号

1 政府は、昨年12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」(以下「安保三文書」といいます。)を閣議決定し、「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力(注:相手の射程圏外から攻撃できる能力)等を活用した自衛隊の能力」として「反撃能力」(以下「反撃能力」といいます。)を保有していく方針を明記しました。
  しかし、このような「反撃能力」の保有は、以下に述べるように、日本国憲法第9条及びその原理である恒久平和主義、さらには立憲主義の理念に反するものであり、当会は強く反対します。

2 これまで自衛の範囲を超えるものとして憲法上許されないとされてきた、相手の領域における武力行使につき、安保三文書では、その合憲性の根拠として、1956年2月29日の政府見解、すなわち、「我が国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾(注:いわゆるミサイル)等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない......。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば......誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」との首相答弁*1が引用されています。
 しかし、この1956年の政府見解は、あくまで我が国に対する武力攻撃が現実に発生していること、すなわち、個別的自衛権を行使し得る場合であることを前提条件にしていますが、集団的自衛権の行使を容認した安全保障法制(2015年)のもとで、従来の専守防衛政策における自衛権行使の三要件が改変され、その根幹である第一の要件につき、「わが国に対する武力攻撃が発生したこと」という従前の要件に加えて、「又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」が入り、いわゆる「存立危機事態」において、個別的自衛権の範囲を超えた集団的自衛権の行使を認めるものとされました。そして、安保三文書では、このような集団的自衛権行使の場面においても相手国の領域自体に及ぶ「反撃」を行うことができるとしています。
 このような個別的自衛権の範囲を超える「反撃能力」の行使については、1956年の政府見解のいうところの「自衛の措置」にそのまま当てはまるなどとは到底いえるものでありません。このような「反撃能力」の行使は、武力による威嚇又は武力の行使にあたり、憲法第9条第1項に反するものであり、当然その保有も、憲法上許されないものといわなければなりません。

3 次に、「反撃能力」の保有は、憲法第9条第2項で保有が禁じられている「戦力」に該当するのではないかという重大な疑問があります。
 この点に関し、従来の政府答弁*2では、性能上相手国の国土の潰滅的破壊のために用いられるいわゆる攻撃的兵器の保持は憲法上許されない、などとしてきました。また、「...こういう仮定の事態(注:国連の援助も日米安全保障条約もない状況下で、相手国からミサイル攻撃を受けるような事態)を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない。」*3とも述べてきたところです。
 これに対し、安保三文書では、相手にとって「軍事的手段では我が国侵攻の目標を達成できず、生じる損害というコストに見合わないと認識させ得るだけの能力」を持つという、いわゆる抑止力論に立った安全保障戦略に基づき、「反撃能力」として在来型誘導弾の射程を長距離化した兵器、高速滑空弾、極超音速誘導弾等の開発・保有を宣言しています。また、「反撃能力」の攻撃対象も、敵基地に限定していません。報道によれば、相手国の中枢、いわゆる「指揮統制機能」を対象とするかどうかについても、個別に判断すると説明されており、除外していません。
 このような「反撃能力」が「性能上相手国の国土の壊滅的破壊のために用いられるいわゆる攻撃的兵器」を保有することに限りなく近づき、又はこれを超えるものになることは必然です。
 このような「反撃能力」の保有は、憲法第9条第2項が禁ずる「戦力」に該当するものといわざるを得ません。

4 当会は、集団的自衛権行使を容認した安全保障法制に対し、「存立危機事態」なる抽象的で不明確な要件の下に、憲法上許されない集団的自衛権の行使を容認し、我が国が攻撃されていないにもかかわらず、自衛隊が海外で他国とともに武力行使することを認めるものであることを指摘し、一貫して反対し、廃止を求めてきました。(「安保法制施行に抗議しその適用・運用に反対する会長声明」ほか)
 今回の安保三文書が、集団的自衛権行使を認める安全保障法制の下で「反撃能力」の保有に踏み出したことは、従来の「専守防衛政策」を大きく転換するもので、憲法第9条第2項が禁ずる戦力の保持に該当し、さらには憲法第9条第1項が禁ずる武力による威嚇又は武力の行使につながる恐れもあり、我が国が武力紛争の当事者となる危険性を一層高めるものです。
 このような過度に抑止力論に依存した安全保障戦略をめざすことは、日本国憲法の国際協調主義、恒久平和主義の理念と根本的に相容れないものといわざるを得ません。
 当会は、今回の安保三文書の改定による、「反撃能力」の保有については、日本国憲法第9条及びその重要な原理である恒久平和主義、さらには立憲主義の理念に反するものとして強く反対し、その撤回を求めるものです。

*1 1956年2月29日衆議院内閣委員会鳩山一郎首相の答弁(防衛長官代読)
*2 1969年4月8日松本善明議員提出の質問主意書に対する佐藤栄作首相の答弁書等
*3 1959年3月19日衆議院内閣委員会伊能繁次郎防衛庁長官答弁

「反撃能力」の保有に反対する会長声明(PDF)

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