会長声明・意見書

「袴田事件」第2次再審請求差戻後即時抗告審決定に関する会長声明

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更新日:2023年03月13日

2023年(令和5年)3月13日
第二東京弁護士会会長  菅沼 友子
22(声)第12号

 本日、東京高等裁判所は、「袴田事件」の再審請求事件について、静岡地方裁判所による再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却しました。当会は、検察官に対し、最高裁判所に対し特別抗告せず、直ちに再審公判の審理に移行させることを強く求めます。
 「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日、味噌製造販売会社専務宅で一家4名が殺害され、放火されたという住居侵入、強盗殺人、放火事件です。犯人として起訴されたのは袴田巌氏でした。第1審判決は、巌氏による犯行と認定し、巌氏に死刑を言い渡しました。巌氏は控訴、上告しましたが、いずれも棄却され、第1審の死刑判決が確定しました。
 この確定した判決は、①1967年(昭和42年)8月31日に味噌製造工場のタンク底部から発見された「5点の衣類」に被害者らの血液型と合致する血痕が付着していたこと、②この衣類が巌氏が犯行時に着用していたものと認定できることから、巌氏を犯人と認定しました。なお、1966年(昭和41年)7月20日以降にタンク底部に衣類を隠すことは殆ど不可能であったこと等から、「5点の衣類」は約1年間味噌漬けされた状態にあったことになりますが、当時の実況見分調書や鑑定書では、血痕の色について少なくとも赤みが残っていたとされています。
 2008年(平成20年)に静岡地方裁判所に申し立てられた第2次再審請求においては、「味噌漬け実験」の結果、1年以上味噌漬けされた血痕に赤みが残るとは考え難いことを示す証拠が提出されました。これを受けて、静岡地方裁判所は、再審を開始するとともに、巌氏の死刑及び拘置の執行を停止する決定をし、巌氏は釈放されましたが、検察官の即時抗告を受け、東京高等裁判所は、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却しました。これに対して請求人である袴田ひで子氏が特別抗告したところ、最高裁判所は、東京高等裁判所の棄却決定を取り消し、東京高等裁判所に差し戻しました。その理由は、味噌漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因、特に味噌によって生ずる血液のメイラード反応に関する専門的知見について審理を尽くすことなく、同反応の影響が小さいものと評価した誤りがあって、審理不尽の違法があるというものでした。*1
 東京高等裁判所は、本日、最高裁判所の差戻し決定を受けて実施された事実取調べの結果を踏まえ、巌氏が犯人であることに合理的な疑いが生じたとして、静岡地方裁判所による再審開始決定を是認しました。
 検察官は、本日の東京高等裁判所の決定に対して特別抗告をする可能性があります。しかし、巌氏は、現在87歳と高齢であり、しかも長期間にわたり死刑囚として身体を拘束されたことによる拘禁反応の症状が見られるなど、心身に不調をきたしています。また、請求人のひで子氏も90歳となっています。更に再審請求の審理が長引くと、再審請求をできる者が本人及び親族等に限定されている現行法*2のもとでは、再審による救済の機会が永遠に失われかねません。
 よって、当会は、検察官に対し、本日の決定を尊重して特別抗告を断念するとともに、直ちに再審公判に移行させるよう求めます。

 ところで、第2次再審請求の請求審において、約600点もの証拠が新たに開示され、それが再審開始の判断に強い影響を与えています。本件で大幅な証拠開示が実現したのは裁判所の積極的な訴訟指揮によるものですが、刑事訴訟法に再審における証拠開示に関する明文の規定がなく、裁判所の姿勢いかんによって再審請求手続における証拠開示が左右される「再審格差」はなお変わりません。
 また、本件では、2014年(平成26年)3月に静岡地方裁判所において再審開始決定がなされたにもかかわらず、それから9年近くが経過した今もなお再審公判が始まっておらず、再審請求手続が続いています。そのため、巌氏は今も死刑囚の地位に留め置かれたままになっています。その原因は、現行法上、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが禁止されていないことにあります。*3
 このように、「袴田事件」は、現行の再審法の不備を浮き彫りにしています。
 よって、当会は、政府及び国会に対し、えん罪被害者の速やかな救済のために、
 1 再審請求手続における証拠開示の法制化
 2 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止
 を含む刑事訴訟法の再審に関する規定を直ちに改正するよう求めます。

*1 最高裁判所第三小法廷・令和2年12月22日決定
*2 刑事訴訟法第439条
*3 刑事訴訟法第450条

「袴田事件」第2次再審請求差戻後即時抗告審決定に関する会長声明

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