会長声明・意見書

「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」を一部是正し、在留特別許可の対象となる子ども等の範囲を拡大することを求める意見書

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更新日:2023年12月06日

2023年(令和5年)12月4日
第二東京弁護士会
会 長 小 川 恵 司

第1 意見の趣旨

当会は、令和5年8月4日に出入国在留管理庁が発表した「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」について、その内容を一部是正し、在留特別許可の対象となる子ども等の範囲を拡大するよう求める。

第2 意見の理由

1 出入国在留管理庁が発表した対応方針の内容

令和5年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「本対応方針」という。)を発表した。
本対応方針は、2023年6月に改正された入管法(以下「改正入管法」という。)の施行時までに、日本で出生し、小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活していくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与えるとしている。
令和4年12月末時点で在留資格のない送還忌避者(退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、各種の事情から自らの意思で日本からの退去を拒んでいる者)4233人のうち日本で出生した子どもは201人おり、その約7割(140人程度)に在留資格が与えられることが見込まれる。
本対応方針により、日本で出生しながらも在留資格がなく著しく自由を制限されてきた子どもと家族が、通常の生活を送れるようになることを歓迎する。
しかし、本対応方針は、以下の点において重大な問題があり、是正される必要がある。

2 日本で出生したことを条件とすべきではないこと

本対応方針は、子どもが「本邦で出生して」いることを条件としている。しかし、日本で出生した子どもも、幼少期に来日した子どもも、日本で教育を受け、日本語を身につけ、日本に定着しているという点で差異はなく、両者を区別すべき合理性は認められない。
この点、子どもの権利条約第3条は、児童に関するすべての措置をとるにあたって行政当局・立法機関等が「子どもの最善の利益」を主として考慮すべきことを規定している。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)は、「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」(第17条1項)、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。」(第23条1項)と規定しており、同規約は家族結合権を保障している。
そうすると、本対応方針のように、同じ両親の子どもでありながら、幼少期に来日した子どもと日本で出生した子どもを区別することは、子どもの最善の利益(子どもの権利条約第3条)を軽視し、家族の分断を招き、家族結合権(自由権規約第17条、第23条)を侵害するおそれがあるものといわざるをえない。
幼少期に来日した子どもも含め、日本で出生したか否かで区別することなく在留資格が与えられるべきである。

3 18歳以上の者についても対象とすべきこと

本対応方針は、日本で出生した「子ども」すなわち18歳未満であることを要件としている。
しかし、日本で出生し又は幼少期に来日し長年にわたって日本で生活し成人に達している者は、その生活基盤や人間関係が全て日本にあるのであり、いまだ成人に達していない者に比べて日本への定着性がより高いとみるべきである。かかる観点から、日本で出生し又は幼少期に来日した者は、たとえ現時点において成人に達していたとしても、在留特別許可の対象とすべきである。

4 親の事情を考慮すべきでないこと

本対応方針では、「親に看過し難い消極事情」、具体的には、①不法入国・不法上陸、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反、④懲役1年超の実刑、⑤複数回の前科を有している等の事情がある場合は、その子どもも在留特別許可の対象から除くとしている。
しかし、子どもには何ら責任がない親の事情によって、子供が差別されることがあってはならない。子どもは親とは別個の独立した人格であり、子ども自身が日本で生活していくことを望むのであれば、親の事情に関わらず在留資格が与えられるべきである。
その上で、親だけを送還するか否かについては、家族結合権(自由権規約第17条、第23条)の保障や比例原則に照らして、慎重に判断されるべきである。

5 結論

在留資格のない子どもたちは、日本に定着して生活しているとしても、退去強制の対象となり、不安定な地位に立たされている。このような理不尽な状況は一日も早く改善されなければならない。
よって、当会は、日本で出生した子どものみならず全ての子どもの基本的人権が尊重されるよう、本対応方針を一部是正し、在留特別許可をする子どもとその家族の範囲を拡大することを強く求める。

参考

子どもの権利条約

第3条

  1. 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
  2. 締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法上及び行政上の措置をとる。
  3. 締約国は、児童の養護又は保護のための施設、役務の提供及び設備が、特に安全及び健康の分野に関し並びにこれらの職員の数及び適格性並びに適正な監督に関し権限のある当局の設定した基準に適合することを確保する。

自由権規約

第17条

  1. 何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
  2. すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

第23条

  1. 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。
  2. 婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ家族を形成する権利は、認められる。
  3. 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。

「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」を一部是正し、在留特別許可の対象となる子ども等の範囲を拡大することを求める意見書(PDF)

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