会長声明・意見書

永住者に対する在留資格取消事由の拡大に反対する会長声明

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更新日:2024年05月09日

2024年(令和6年)5月9日
第二東京弁護士会 会長 日下部 真治
24(声)第2号

 政府は、令和6年3月15日、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)等の一部を改正する法律案を国会に提出した(以下「本改正案」という。)。本改正案は、現行の技能実習制度に替わり新たに育成就労制度が創設されることにより「永住に繋がる特定技能制度による外国人の受入れ数が増加することが予想されることから、永住許可制度の適正化を行う」との方針に基づくものである(令和6年2月9日に閣議決定がなされた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」(以下「本件閣議決定」という。)参照。)。
 本改正案では、永住者の在留資格の取消事由として、入管法に規定する義務を遵守しないこと又は故意に公租公課の支払をしないこと、並びに、住居侵入、傷害又は窃盗等の一定の罪により拘禁刑(現行法の懲役・禁錮に相当する。)に処せられたこと、が新たに加えられており、永住者の在留資格取消事由が大幅に拡大されている。
 本改正案は、本邦で生活する外国人にとって最も安定的な在留資格であるはずの「永住者」の法的地位を著しく不安定にするものであり、その生活基盤を根底から危険に晒すものとして、看過できない重大な問題を孕んでいる。
 すなわち、もともと日本では永住許可の審査は厳しく、原則10年以上の本邦での生活、安定した収入があること、税金及び社会保険料の滞納がないことなどが厳格に審査された上で永住許可が付与されている。永住許可を受けた者のほとんどは、生活の基盤が日本にあり、日本への定着性が極めて高い人々である。永住者として日本に在留する者は、昨年6月の時点で約88万人(在留外国人の約27%)に上っており、今後もさらなる増加が見込まれる。
 ところが、本改正案は「故意に公租公課の支払をしないこと」を在留資格取消事由に追加しているため、貧困等によりやむなく税金等を滞納するに至ったような場合であっても、この事由に該当するとして永住資格を取り消される危険がある。元来、税金又は社会保険料を支払わない者に対しては、日本人の場合と同様に延滞税の徴収や差押え等の措置が可能であり、それを超えて在留資格を剥奪することは永住者に対する過剰な制裁というべきである。加えて、本改正案はこれまで永住者については強制退去事由とはされていなかった1年以下の拘禁刑(執行猶予付きを含む。)に該当する刑罰法令違反をも在留資格取消事由とするものであるが、1年以下の拘禁刑に該当する刑罰法令違反には、計画性がない暴行・傷害や建造物侵入など、違法性が弱いと評価されうる事案も含まれる。このような刑罰法令違反の場合には、日本人と同様に所定の刑罰による制裁を課せば十分であり、それを超えて永住者の在留資格を剥奪せねばならないという立法事実は認められない。
 さらに、そもそも、本改正案は本件閣議決定による方針に基づき国会に提出されたものであるが、その前提となる「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書には、在留資格取消事由の拡大についての提言は含まれていない。本改正案による在留資格取消事由の拡大は、有識者会議等の専門家による議論を踏まえたものではなく、その必要性、妥当性が認められるための議論が不足している。
 生活基盤を有する地に安定的に在留できることは、あらゆる人権保障の基礎といっても過言ではなく、日本に生活の基盤をもつ永住者の法的地位を著しく不安定にする本改正案には、永住者とその家族らの人権保障上、重大な疑義がある。また、本改正案に基づき在留資格取消事由を拡大するならば、外国人にとって日本での長期にわたる安定した生活を期待することが困難となり、今後日本での就労を希望する外国人が減少することも懸念される。すなわち、本改正案は、政府が本件閣議決定において掲げる「人権侵害等の防止・是正等を図り、日本が魅力ある働き先として選ばれる国になる」という基本的な方向性にも反するものである。
 当会は、永住者に対する在留資格取消事由の拡大に反対するとともに、政府に対して、日本に生活基盤を有する外国人の人権に十分に配慮した施策の推進を求める。

永住者に対する在留資格取消事由の拡大に反対する会長声明(PDF)

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