会長声明・意見書

地方自治法改正案に反対する会長声明

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更新日:2024年05月24日

2024年(令和6年)5月24日
第二東京弁護士会 会長 日下部 真治
24(声)第3号

1 政府は、2024年3月1日、地方自治法の一部を改正する法律案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
 本法案は、第14章として、国と普通地方公共団体との関係等の特例規定を新設し、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合に、各大臣が、閣議決定により、普通地方公共団体に対して、その事務処理について必要な指示をすることができることなどを定めている(改正案第252条の26の3ないし第252条の26の10)。

2 しかし、本法案第14章は、以下のとおり、憲法第92条の「地方自治の本旨」を侵害するものである。
⑴ 国と地方公共団体との「対等協力」の関係が損なわれ、「上下主従」の関係に変容させてしまうこと
 2000年から施行されたいわゆる地方分権一括法は、国が包括的指揮監督権を持ち、地方公共団体を国の下部機関と位置付ける機関委任事務を廃止するとともに、国の地方公共団体への関与のルールを定めることにより、国と地方公共団体の関係を「上下主従」ではなく「対等協力」の関係とした。これは、憲法が「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」(憲法第92条)と定めた団体自治の規定を具体化したものである。これに基づき、国の地方公共団体に対する指示権は、法定受託事務については地方自治法で「違法等の場合」に一般的に認められているものの、地方公共団体の自主性を尊重すべき自治事務については「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」に限って個別法で「指示権」の根拠規定を設けることとされていた(地方自治法第245条の3)。
 しかし、本法案は、個別の根拠規定なしに、一般法たる地方自治法を改正して、法定受託事務に関する指示権行使の要件を緩和するばかりか、自治事務についても、法定受託事務と同じ要件で国の地方公共団体に対する指示権を広く認めるものとなっており、国と地方公共団体との関係を「上下主従」関係に変容させ、憲法の規定する地方自治の本旨を侵害するものである。
⑵ 指示権の要件が曖昧で、大臣に過剰な裁量を認めていること
 本法案は、各大臣が地方公共団体に指示権を発動できる場面について、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し」た場合を超えて、「発生するおそれがある場合」にまで広げるだけでなく、「当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、(中略)生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるとき」(改正案第252条の26の5)と規定し、これまで明記されていた「緊急に」という文言(すなわち緊急性の要件)も外しているため、実質的に過剰な裁量を大臣に認めている。
 また、指示権の発動は閣議決定を経て行うとされており、恣意的な大臣の判断によって、地方公共団体の自治権が侵害されることを認めるものとなっているため、地方自治の本旨の侵害の程度も高い。
⑶ 立法事実についての実証的な分析検証も、本法案の実質的検討も不十分であること
 政府は、大規模自然災害やコロナ禍において国と自治体間の調整・連絡が不十分だったことを国の地方公共団体に対する指示権拡大の理由としているが、国からの指示権が必要であったか否かの実証的な分析検証は全くなされていない。先般のコロナ禍においては、都道府県が要請したにもかかわらず、国は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用を行わず、これが原因で医療崩壊寸前の状態を招いた都道府県もあったという指摘もある。大規模災害においては、現場の実情を最もよく把握している地方公共団体が責任をもって対処し、国は財政支援など後方支援をすることが重要であり、国が指示すれば的確な対処ができるというものではない。むしろ国の一方的指示は、地方公共団体の自主的対応を阻害し、国民を危険に晒すことにもなりかねない。そうだとすれば、国の一方的な指示権の拡大が立法される前に、先ずは、緊急事態宣言を発出する権限を都道府県知事にも認めるなどの自治体の権限強化策も含めて、昨今のコロナ禍における対処方法への反省や検証がなされるべきであるが、それはなされていない。
 また、本法案は、地方自治の根幹にかかわる重大な問題を孕むにもかかわらず、地方制度調査会の審議は極めて短期間かつ不十分であったことに加え、答申後における本法案の実質的検討はほとんどなされておらず、政策形成の健全性、誠実性、透明性、真実性が欠如している。

3 以上の理由から、当会は、改正案第14章に規定された地方公共団体に対する国の指示権は、憲法上の「地方自治の本旨」に反するものであり、これを含む本法案に強く反対する。

地方自治法改正案に反対する会長声明(PDF)
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