会長声明・意見書

旧優生保護法に関する最高裁大法廷判決を受けて同法による被害の全面的な回復を求める会長声明

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更新日:2024年07月04日

2024年(令和6年)7月4日
第二東京弁護士会会長 日下部 真治
24(声)第4号

 昨日、最高裁大法廷は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する5件の国家賠償請求訴訟の上告審において、画期的な判決を示しました(以下「本判決」といいます。)。

 本判決は、不妊手術を定める旧優生保護法の規定が憲法13条及び14条1項に違反することを認めた上で、国の立法行為に係る責任は極めて重大であること、被害者による国に対する損害賠償請求権の行使を期待するのは極めて困難であったこと等の事情に照らし、最高裁第一小法廷平成元年12月21日判決が示した法理に従い除斥期間が経過したとの一事により同請求権が消滅したものとすることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないとして、同判決について判例変更した上で、旧優生保護法による被害に関し国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないと判断しました。

 旧優生保護法をめぐる訴訟に関しては、各地の裁判所において除斥期間の適用による損害賠償請求権の消滅の当否について判断が分かれていたところ、本判決が統一的判断を示したことにより、被害者である当事者に対して国が損害賠償責任を負うことが明確になりました。

 旧優生保護法による被害者は、統計上だけでも25,000人いるといわれています。他方で、旧優生保護法による被害に関して国家賠償請求訴訟を提起した当事者は39名に過ぎず、また、同法による被害について一時金を支給する「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づく請求件数は、2024年6月2日現在、1,331件、認定件数は、同年5月末現在、1,110件に止まります。

 潜在化した旧優生保護法による被害に対する取組みとして、当会では、2024年7月16日、日本弁護士連合会とともに「全国一斉旧優生保護法相談会」(統一ダイヤル0570-07-0016、FAX022-726-2545)を実施するところですが、本判決が、除斥期間の解釈について統一的な判断を下したことを踏まえ、改めて国に対し、全国各地で争われている同種訴訟における被害者はもとより、様々な事情によって提訴に至っていないすべての被害者のために、全面的な被害回復に向けた立法措置を行うことを求めます。

 なお、本判決をした最高裁大法廷での審理及び判決にあたっては、裁判所は、弁護団等との協議に基づき、傍聴者向けの手話通訳を公費で手配するなど、障害のある当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供し、すべての人に開かれた裁判に向け、歴史的な一歩が踏み出されました。他方で、当事者向けの手話通訳の手配が公費で行われないことなどの課題もあり、引き続き、裁判所においては、障害者の権利に関する条約に基づく手続上の配慮及び合理的配慮の提供が求められるところです。

 旧優生保護法は、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根付かせましたが、漸く、本判決により、被害者の被害回復が図られるべきとの司法判断が固まったことになります。当会は、本判決の対象事件の一つの弁護団に対し人権救済基金援助金を支出し、訴訟の帰趨を見守ってきましたが、本判決までに何故これだけの長い時間を要したのか、その間に弁護士会として、より積極的に取り組むべきことがあったのではないかという点について、真摯に向き合った上で、旧優生保護法による被害の全面的な回復に向けて、具体的な取組みを全力で続けていく決意です。

以上

旧優生保護法に関する最高裁大法廷判決を受けて同法による被害の全面的な回復を求める会長声明(PDF)

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