子どもの権利条約・こども基本法に基づく子どもの権利の保障の推進を求める会長声明
2024年(令和6年)11月20日
第二東京弁護士会 会長 日下部 真治
24(声)第7号
日本が、1994年に子どもの権利条約を批准してから、本年でちょうど30年が経過した。
子どもの権利条約は、それまでの「子どもはおとなの保護の客体である」という子ども観(子どもに対する見方)を大きく転換した。同条約では、子どもが権利の主体であることを明確にし、全ての子どもが持つ基本的な人権を保障している。また、それらの人権を考える上で大切な4つの原則(「差別の禁止」、「子どもの最善の利益」、「生命、生存及び発達に対する権利」及び「子どもの意見の尊重」)を定めている。
2023年4月、日本においても、かかる権利条約の内容を実現するため、こども基本法が施行された。
こども基本法には、こどもi施策に関する基本理念のほか、国や地方自治体が、この基本理念にのっとり、こども施策を策定・実施する責務を負うことなどが定められた。また、同年末には、同法に基づいて、政府全体のこども施策の基本的な方針等を定めるこども大綱が決定された。子どもの権利条約の批准から長い年月を経て、ようやく、「子どもは権利の主体である」という子ども観に基づいて、子どもの権利の保障を最優先とする法や施策が、その実現に向けて動き出したといえる。
このように、日本において、こども基本法が成立し、こども大綱が定められたのは、子どもの権利の保障における大きな一歩である。しかしながら、現在も、日本において、子どもの権利保障が十分であるとはいえず、不登校、いじめ、教員による不適切指導、児童虐待、子どもの貧困、ヤングケアラー、自殺、居場所の喪失、SNSによる被害など、子どもの生命や子どもを取り巻く安全であるべき環境が脅かされ、子どもの権利が侵害されているという深刻な状況が生じているという現実がある。
子どもの権利の実現は、議員を含む公務員、子どもの養育、教育や福祉に関わるおとなだけでなく、全てのおとなの共通の義務である。上記の社会状況に鑑みて、まずは、おとなにおいて、子どもの最も基本的な権利である生命、生存及び発達に関する権利を確保することが重要である。
また、子どもの権利保障を実現するためには、かかる権利保障の義務を負うおとなが、子どもの権利条約やこども基本法の理念、そして子どもの権利の本質そのものを学び、理解する必要がある。おとなは、「子どもにとっての子どもの最善の利益」ではなく、「おとなが考える子どもの最善の利益」を子どもに押しつけることに陥りがちである。いわゆる教育虐待、不合理な校則の問題などは、この延長線上において生じている問題とも考えられる。しかし、子どもは一人一人違う人格を有し、その思いや視点も一人一人違うものである。「子どもにとっての子どもの最善の利益」が何かを知るためにも、おとなは、一人一人の子どもの意見に耳を傾け、子どもの思いや視点を前提に、「子どもの最善の利益」の内容について、子どもとともに考える必要がある。
さらに、子どもの権利を実質的に保障する上で、子ども自身が、その発達の段階に応じて、それらの権利についての理解を深めることも重要である。
これらを実現するために、当会は、国や地方自治体に対し、学校教育や様々な広報活動を通じて、おとなや子どもに向けて子どもの権利保障に関する適切な研修や情報の提供を行っていくことを求める。また、子どもの権利侵害が生じた場合の相談・救済機関を含む、子どもの権利を実質的に保障していくための制度を早急に創設し、またはより充実したものに改善していくことを求める。さらに、その制度が有効に機能しているかを監督する機関を設置していくことも必要である。当会は、国や地方公共団体が、子どもの権利を保障するため、上記を含む具体的な政策を立案・実行していくことにより、子どもの権利条約及びこども基本法の理念に基づき、子どもの権利の保障を強力に推進していくことを求めるものである。
当会は、子どもの権利保障の実現のため、電話・面接やSNSによる子どもに関する悩みごとの相談の実施、子どもの人権の観点からのいじめ予防授業や合理的な校則のあり方を考えるルールメイキング授業の提供、いじめや校則に関する教員研修や保護者研修の提供、家事事件における子ども手続代理人や少年事件における付添人、児童虐待事案における子ども担当弁護士の活動など、様々な活動を行っている。当会は、かかる活動を通じて、引き続き、あらゆる場面において子どもの権利が保障される社会の実現に向けて尽力するものである。
※i 18歳未満を指す子どもの権利条約の「子ども」と、心身の発達過程にある者であるこども基本法の「こども」では定義が異なるため、こども基本法に関連する記載は「こども」、それ以外は「子ども」と表記する。

