生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への速やかな補償を求める会長声明
2025年(令和7年)6月30日
第二東京弁護士会会長 福島 正義
25(声)第5号
生活保護制度は、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項)を具体化する制度であり、様々な事情で経済的に困窮した人々のセーフティーネットとなる重要な制度である。
しかし国は、2013年から3回に分けて生活扶助基準額の大幅な引下げ(以下「本引下げ」という。)を行い、3年間で総額680億円もの生活保護費を削減した。本引下げにより、生活保護利用者らは、最低限度の生活の需要を満たす保護費すら受給することができなくなった。
本年6月27日、最高裁判所第三小法廷は、大阪府内及び愛知県内の生活保護利用者らが、本引下げによる生活保護費の減額処分は生活保護法に違反する等として同処分の取消し等を求めた各訴訟の上告審において、厚生労働大臣による本引下げは違法であると認め、各処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
本判決は、2008年から2011年の「物価下落」を反映したとする「デフレ調整」を理由に生活扶助基準額の引下げを行った厚生労働大臣の判断について、物価変動率のみを直接の指標として生活扶助基準額の引下げを行った点で、生活扶助の老齢加算廃止の判断が争われた最高裁判決(2012年4月2日)等が示した、「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査される」という判断枠組みに照らし、厚生労働大臣に与えられた裁量を逸脱・濫用するものであり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法と判断した。
本判決は、少数者の権利保護を含む、法の支配、法による正義を実現するという司法が担う役割を十分に果たしたものとして高く評価できる。
国は、本引下げが行われた期間に生活保護を利用していた数百万人の利用者らの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という憲法上の極めて重要な基本的人権を侵害した事実を深刻に受け止め、現在も全国の裁判所に係属している同種訴訟について早期の全面解決を図るべきである。同種訴訟原告の2割を越える232名が既に亡くなっている事実を考慮すれば、早急かつ全面的な解決が強く求められる。
また、提訴した者以外の利用者及び元利用者に対しても本引下げ前の基準によって受けるべきであった生活扶助費と実際の支給額との差額を支給するなど必要な補償措置を直ちに講じるべきである。
よって当会は、国に対し、本引下げによる保護費減額処分の取消しを求める同種訴訟の早期全面解決とともに、本判決を踏まえた生活保護の利用者及び元利用者への補償措置を直ちに実施するよう求める。

