被爆80年を迎えて、核兵器廃絶と恒久平和を求める声明
2025年(令和7年)8月6日
第二東京弁護士会 会長 福島 正義
25(声)第007号
1945年8月6日、広島に人類史上初めて人間に対して使用された核兵器である原子爆弾が投下され、同月9日には長崎にも原子爆弾が投下されました。
原子爆弾の威力はすさまじく、一瞬にして多数の市民の生命と日常を奪い去りました。数分前まで普通の生活を送っていた人々が、原子爆弾の強烈な爆風と熱風により、全身に重度の火傷を負い、身体の一部をもぎ取られ、倒壊した建物に押しつぶされ生きたまま火に焼かれるなどして、命を奪われました。1945年12月末までの死者数は、広島で約14万人、長崎で約7万人と推計されています。
また、核兵器による被害は爆発による即時の被害にとどまりません。原子爆弾により広範囲に拡散された放射線は、長期的な健康被害や環境破壊をもたらしたばかりか、被爆者に対する差別を生み出し、被爆者らを今も苦しめ続けています。
戦後、国際社会は、二度と広島や長崎の被害を繰り返さないために、核兵器自体を違法とする理論を構築してきました。1963年のいわゆる原爆裁判の判決は、「原子爆弾による攻撃は、当時の国際法から見て、違法な戦闘行為であると解するのが相当である」と判示し、司法機関として初めて、核兵器の使用が国際法に反することを示しました。その見解は、核兵器の使用は国際人道法上の原則・規則に一般的に違反することを指摘した1996年の国際司法裁判所の勧告的意見に引き継がれ、さらに2017年には、核兵器が違法であること、核兵器が再び使用されないための唯一の方法は核兵器の完全な廃絶にあることを示した核兵器禁止条約(TPNW)が国連総会において採択され、2021年に発効しました。
しかし、国際情勢が不安定化する中で、強大な核の力で脅威を与え、他国に攻撃を思いとどまらせる「核抑止論」や、自国は核兵器を保有しないが同盟国の核兵器に依存して抑止効果を確保しようとする「拡大核抑止論」を根拠に、核兵器廃絶に向けた取組は進んでいません。核抑止論には、軍事力を相手国が認識したからといって攻撃を控えるという確証はなく、その実効性は不確実であるという問題点や、人的・技術的なミスやサイバー攻撃による誤発射のリスクを回避する確実な方法がないという問題点があります。一度、核兵器が使用されれば、取り返しのつかない人道的・環境的被害が発生するにもかかわらず、世界には、いまだ1万を超える核弾頭が存在し、そのうち数千発は実戦配備されているといわれています。
そのような中、唯一の戦争被爆国として、日本は核兵器廃絶と恒久平和の実現に向けた特別な責任と使命を担っています。2024年12月に、核兵器廃絶を訴え、核兵器による被害を伝える活動を続けてきた日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞したことは、日本の経験と教訓が世界の人々に核兵器の非人道性を伝える強いメッセージになることを示しました。日本政府には、核兵器廃絶を求める人々の声を受け止め、早期に核兵器禁止条約に署名し、批准することが求められています。
平和は、決して与えられるものではありません。私たちが日々の生活の中で平和を希求し、対話と協調の精神を育み、他者を思いやる行動を積み重ねることで、初めて実現します。核兵器の廃絶もまた、私たちが諦めずに声を上げ続けることによってのみその実現の道が開かれます。
被爆80年という節目にあたり、当会は、あらためて核兵器のない世界と恒久平和の実現を強く求めるとともに、その実現に向け法律家団体としてたゆまぬ努力を続けることを誓います。

