会長声明・意見書

坂本堤弁護士一家殺害事件を踏まえた弁護士業務妨害に対する会長談話

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更新日:2025年09月05日

2025年(令和7年)9月5日
第二東京弁護士会会長 福島 正義

 1989年11月4日未明、旧オウム真理教の教団幹部ら6名は、坂本堤弁護士一家が住む横浜市内のアパートの一室に侵入し、当時33歳の坂本堤弁護士、当時29歳の妻及び当時1歳の長男を殺害しました。坂本堤弁護士は、出家信者の親からの相談を受けて、教団の欺瞞性を厳しく批判、糾弾していました。教団教祖は、このような坂本堤弁護士の活動に脅威を覚え、家族全員を殺害するという極めて残酷な行為に及んだのです。
 3人のご遺体は、新潟、富山、長野の人里離れた場所に別々に埋められたため、殺害から6年近くが経過した1995年9月になって、ようやく発見されることとなりました。「坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会」が主催する「坂本弁護士一家慰霊の旅」に過去2回参加しましたが、現場を直接訪問することで大変な衝撃を受けました。3人のご遺体が発見されてから、本年9月で30年となりますが、先の見えない救出活動を継続された同会の諸先生方には頭の下がる思いです。
 弁護士は、業務の性質上、紛争の渦中に身を置くことになりますので、事件関係者等から逆恨みの対象とされ、不当な業務妨害にさらされることが少なくありません。現に、坂本堤弁護士一家殺害事件後も、2010年6月2日に横浜で、同年11月4日に秋田で、それぞれ弁護士が業務に関連して殺害されるという痛ましい事件が連続して発生しています。
 弁護士は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という弁護士法1条に定められた使命を負っていますが、そのような弁護士に対する不当な業務妨害は、法秩序と司法制度に対する挑戦であるだけでなく、弁護士の使命を妨害し、ひいては市民、とりわけ弱者の人権を脅かすものというよりほかありません。一たび、弁護士が業務妨害を恐れて事件の受任を控えたり、業務妨害に屈して正当な弁護活動の手を緩めたりしてしまえば、そのしわ寄せは市民に及ぶことになるからです。このように、弁護士に対する業務妨害は、市民の人権と直結する問題なのです。
 坂本堤弁護士一家殺害事件を契機として、業務妨害を受けている弁護士を支援する制度の必要性が痛感され、制度構築を望む声が強く上がることとなりました。これを受けて、日本弁護士連合会では、1996年6月に弁護士業務妨害対策委員会が設置され、実際に発生した事件の教訓を生かして、情報収集、対策の構築と普及、警察との連携等の取組が始められました。当会では、2008年4月に弁護士業務妨害対策委員会が設置され、業務妨害を受けている弁護士の救済活動を行っています。その他の弁護士会においても、日本弁護士連合会による各弁護士会に対する弁護士業務妨害対策委員会の設置の呼び掛けを受けて、2016年までに、全ての弁護士会で弁護士業務妨害対策委員会又はそれに相当する組織が設置されるに至っています。
 弁護士に対する業務妨害の最たるものは生命への危害ですが、現在では、離婚・男女問題に関連する業務妨害が数多く報告されていますし、また、インターネット上での誹謗中傷、濫用的懲戒請求等、これまでになかった様々な態様での業務妨害も行われるようになってきており、このような社会状況の変化に応じた取組が急務となっています。
 当会は、弁護士が不当な業務妨害に屈することなくその使命を果たすことができるよう、社会状況の変化に応じた取組をさらに強化していくとともに、一致団結してその使命と役割を果たしていくことをここに誓います。

坂本堤弁護士一家殺害事件を踏まえた弁護士業務妨害に対する会長談話(PDF)