佐賀県警察のDNA型鑑定不正行為に関し、佐賀県議会が第三者による調査を求めたことを高く評価し、第三者による調査委員会の設置を直ちに求める会長談話
2025年(令和7年)10月14日
第二東京弁護士会 会長 福 島 正 義
1 佐賀県警察の不正行為に関する当会会長声明と佐賀県議会の決議について
佐賀県警察本部科学捜査研究所の技術職員が7年間以上にもわたり、実際には実施していないDNA型鑑定を実施したものとして報告する行為を含めた不正行為を繰り返していたこと(以下「本件不正行為」という。)に対し、当会は、2025年(令和7年)9月16日付「佐賀県警察で発覚した科学捜査研究所職員によるDNA型鑑定の不正行為に対して強く非難するとともに、不正行為を防止する体制構築等を求める会長声明」において、本件不正行為について、専門的かつ独立した第三者による調査委員会を設置し、事実関係や不正の原因究明を調査することを求めてきた。
2025年(令和7年)10月2日、佐賀県議会は「佐賀県警察本部DNA型鑑定不祥事の再発防止と県民への信頼回復を求める決議」を全議員出席のもと全会一致で議決した。
佐賀県議会の決議は、以下のことを求めている。
(1)科学鑑定の信頼を揺るがし、佐賀県警に対する県民の信頼を大きく失墜させたことを、重く受け止め、真摯に反省すること。
(2)説明責任を果たすため、独立性、透明性、専門性などを備えた第三者による調査を行うこと。
(3)警察庁など外部へ指導・助言を求め、組織改革と再発防止策の具体化、組織風土の改善、職員教育の徹底等を図り県民への信頼回復を果たすこと。
佐賀県議会の上記決議が、全議員出席のもと全会一致で議決されたことを、当会として高く評価する。2 本件不正行為がDNA型鑑定の信頼性を損ない、DNA型情報の管理にも重大な疑念を生じさせたこと
DNA型は、「万人不同性、終生不変性があるといわれるように、強固な識別性、検索性を備えた極めて個人識別能力の高い情報である」と評価されている(名古屋高等裁判所令和6年8月30日判決。以下「名古屋高裁判決」という。)。それゆえ、DNA型鑑定には強固な証明力があり、犯人識別性について重要な意義を持つとされる。そのDNA型鑑定について、本件不正行為では、実際は鑑定していないのに鑑定したことを装った証拠捏造というべき事例が9件あるなど、捜査の結果に重大な影響を及ぼし、DNA型鑑定の信頼性を失墜させる事態を生じさせてしまった。
また、本件不正行為においては、鑑定試料の余りを鑑定後に紛失して別の物を鑑定試料と偽って警察署に返すなどした事案が4件あり、捜査機関によるDNA型鑑定情報の保管・管理に関しても重大な懸念を生じさせている。
DNA型鑑定により得られたデータは、平成17年以降データベース化され、犯罪捜査に利用されているが、その根拠は、法律ではなくDNA型記録取扱規則(平成17年国家公安委員会規則第15号)などによるものである。DNA型情報は「個人の究極のプライバシー」であり、規則ではなく法律により、採取、登録対象、保管、利用、抹消、品質保証、監督・救済機関等に関し民主的なコントロールがなされるべきであることが指摘されている(日本弁護士連合会2007年(平成19年)12月21日「警察庁DNA型データベース・システムに関する意見書」)。
本件不正行為は、DNA型鑑定にとどまらず、DNA型鑑定情報及びそのデータベース管理の信頼性をも損なうものであるといわざるを得ない。
3 内部調査などではなく第三者による調査委員会の設置が必要であること
本件不正行為に関し、佐賀県公安委員会は、2025年(令和7年)10月2日、DNA型鑑定における不適切事案の再発防止に向けた提言を公表したが、当該提言では、職員の倫理観のかん養と業務管理の徹底を求め、警察庁が佐賀県警察に対して重点的な業務指導等を実施することを求めるにとどまっている。警察庁は、10月8日、佐賀県警察に対する特別監察を開始したが、内部的な調査にとどまり、調査の公正や中立性、透明性が担保されるとはいえず、捜査の便宜等に偏ったものとなってしまう疑念を拭えない。
前出の名古屋高裁判決は、DNA型情報等のデータベースの民主的コントロールの必要性に関し、「我が国においても、取得や保有の要件を明確にし、捜査機関から独立した公平な第三者機関による実効性のある監督や、罰則等による運用の適正を確保し、開示請求権や不当な取得や保有に対する抹消請求権を定めるなど、幅広い知見を集めた上、国民的理解の下に、科学的な犯罪捜査等に資するため、憲法の趣旨に沿った立法による整備が行われることが強く望まれるところである(捜査機関内部での検討や捜査機関による推薦を受けた者らによる答申などでは、捜査の便宜等に偏ったものとなってしまう可能性が高い。)。」と判示している。このような指摘は、本件のように、DNA型鑑定やこれによって得られた情報の管理について、不正行為が行われた場合の、調査及び原因究明の在り方についても、そのまま妥当するというべきである。
報道によれば、佐賀県警察本部本部長は、県議会の決議の後も、第三者による調査の必要性を否定しているとのことであるが、このような態度は極めて遺憾である。佐賀県警察及び佐賀県公安委員会は、本件不正行為について、国民に対する説明責任を果たすため、独立性、透明性、専門性などを備えた第三者による調査を行う機関を設置し、当会会長声明において指摘したとおり「今回の不正行為がなされた原因の究明、捜査や刑事公判への影響がなかったとの説明の真偽、他に類似事案があったか否かの確認、不正行為が繰り返されて発覚まで7年以上かかった経緯の解明、DNA型鑑定を含めて科学的捜査に従事する公務員の業務量及び定員規模の点検、再鑑定の実施方法や鑑定試料の保存状態が適切であったかの検証」を速やかに行うべきである。
当会は、基本的人権を擁護し、捜査機関の人権侵害のおそれに対して厳正なる監視を続ける観点から、本件不正行為に対し、今後も第三者による調査委員会の設置を始め、刑事司法に対する社会の信頼を回復するための措置を関係各機関に強く求めることを表明する。
佐賀県警察のDNA型鑑定不正行為に関し、佐賀県議会が第三者による調査を求めたことを高く評価し、第三者による調査委員会の設置を直ちに求める会長談話(PDF)

