会長声明・意見書

今般の内閣府「災害救助事務取扱要領」改正を高く評価し、引き続き被災者支援に取り組む決意を表明する会長談話

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更新日:2025年11月13日

2025年(令和7年)11月13日
第二東京弁護士会 会長 福 島 正 義

第1 災害救助法を受けた内閣府「災害救助事務取扱要領」の改正について

 災害救助法は、災害によって被害を受けた方への応急支援として各種応急救助メニューを提供し、その運用の実務に関して、準則を記載した「災害救助事務取扱要領」を内閣府政策統括官(防災担当)において作成公表しています。
 2025年(令和7年)10月28日、国は、災害救助事務取扱要領の令和7年7月版(以下「旧要領」といいます。)を改正し、令和7年10月版(以下「新要領」といいます。)を公表しました。
 今回改正された事項のうち、当会の活動に特に深く関わるものとしては、次の2つの改正、すなわち「応急仮設住宅の供与」(災害救助法第4条第1項第1号)の期間の上限の取扱いに関する事項及び「福祉サービスの提供」(同第6号)における専門士業による相談支援の位置付けに関する事項があります。
 当会は、これらの事項に関して、今般、改善的改正がなされたことを高く評価するものです。

第2 応急仮設住宅の供与(災害救助法第4条第1項第1号)の期間の上限の取扱いについて

 災害発生後の応急仮設住宅に入居者が居住できる期間(供与期間)の上限については、国が、旧要領において、「被災自治体の判断により、被災前の住家が『借家』や『公営住宅』である被災者に対する応急仮設住宅の供与期間について、被災前の住家が『持家』である被災者のそれより短く設定することも可能である。ただし、その場合には、当該供与期間内に代替となる新たな借家を探すことが困難であるなどの場合には、被災自治体の判断により、供与期間を最長2年まで延長できることとする必要がある。」という記載(以下「本件追加記載」といいます。)を追加していましたが、本件追加記載は被災者支援の本質に反するものと評価せざるを得ないものでした。
 そして、その後、熊本県及び熊本市が、本年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害により被災した市民に供与する応急仮設住宅の供与期間の上限について、かかる問題のある本件追加記載に沿った形で、被災前の住家が持家であった方についてはこれを入居の日から2年以内とする一方、借家又は公営住宅であった方については、熊本県は入居の日から1年以内、熊本市は入居の日から6か月以内へと短縮する取扱いを採用しました。
 これに対し、当会は、国、熊本県及び熊本市に対し、本年10月16日付「令和7年8月豪雨災害により被災した市民に対して生活再建のために充分な期間にわたって応急仮設住宅を供与することを求める会長声明」を発出しました。この声明は、本件追加記載が被災者支援の本質に反するものであることを指摘した上で、熊本県及び熊本市に対し、応急仮設住宅の供与を必要とする市民がそれぞれの抱える事情の下で恒久的に居住する住宅を望ましい地域と立地において確保するために必要となる期間を踏まえ、それを充分に満たす期間にわたって応急仮設住宅を供与することを求めるとともに、国に対し、応急仮設住宅の供与期間の取扱いに関して熊本県、熊本市及び令和7年8月豪雨災害の被災自治体に対して的確な助言及び指導を行うことを求めることを内容とするものです。
 そうしたところ、国は、冒頭に述べたとおり、新要領において、本件追加記載を全て削除する改正に至ったものであり、今般の国の改正を高く評価します。
 熊本市においては、本年11月10日、被災前の住宅が借家又は公営住宅であった方への応急仮設住宅の供与期間について、入居の日から6か月以内としていたのを1年以内に変更しましたが、今なお被災前の住家が持家であった方について入居の日から2年以内とする取扱いとは差異を設けたままです。熊本県は、本日現在取扱いを変更していません。
 すなわち、熊本県及び熊本市は現在もなお新要領に沿った改善をしていないことから、当会は、熊本県及び熊本市がいずれもこれを改めるまで、国並びに熊本県及び熊本市に対して上記声明の趣旨に記載した対応を引き続き求めていきます。

第3 福祉サービスの提供(災害救助法第4条第1項第6号)における専門士業による相談支援の位置付けについて

 本年5月、被災した市民に対する福祉的支援の充実等を内容とする改正災害対策基本法及び改正災害救助法が成立し、本年7月1日から施行されています。この改正により、災害救助法上の新たな応急救助メニューとして「福祉サービスの提供」が追加されました(同法第4条第1項第6号)。
 国は、この「福祉サービスの提供」の実務運用に関し、新要領において、「福祉に関する相談を中心に、災害応急期における被災者のあらゆる相談に対応する目的で、都道府県知事等が各士業関係者と連携し主催する相談会等の相談対応や、都道府県知事等の要請を受けて、各士業関係者が連携して開催する相談会等の相談対応についても福祉サービスの提供として整理して差し支えない」ことを明記しました。
 これまで、全国各地の各種専門士業及び各種専門士業団体は、相互に連携し、また、行政機関や民間支援団体とも連携して、被災市民に対する相談支援活動を行なってきました。その実績の積み重ねが今回の改正に結び付いたものであることはいうまでもありません。当会は、相談支援活動に関わってこられた全ての関係者及び関係団体に対して改めて敬意を表するとともに、本改正について、高く評価します。
 折しも、当会も構成団体の一つである「災害復興まちづくり支援機構」が、東京都から「復興まちづくりの支援に関する協定」に基づく「復興まちづくり支援班」の派遣要請を受けて、福祉サービスの提供とは現時点で位置付けられていないものの、新要領公表の2日後の本年10月30日から、当会所属の弁護士を始めとする専門士業を東京都八丈町に派遣し、令和7年台風第22号及び第23号に伴う災害により被災した住民の方々に対して相談支援を行なっており、当会は、今後ともこれらの相談支援を推進してまいります。

第4 「誰一人取り残さない」被災者支援

 新要領の改正を受けて、私たちは、引き続き他の専門士業団体、行政機関及び民間支援団体と連携しながら、相談支援に関わる各種の仕組みを最大限に活用することによって、被災市民に対する基本的人権の回復としての生活再建の支援を実効的かつ継続的に展開してまいります(弁護士法第1条第1項)。
 そして、私たちは、被災市民に対するあらゆる支援策について、「誰一人取り残さない」という理念の下、支援策の仕組み及び運用が人権回復支援という被災者支援の本質に適うものになるよう、不断の努力(弁護士法第1条第2項)を続けていく決意を改めて表明します。

今般の内閣府「災害救助事務取扱要領」改正を高く評価し、引き続き被災者支援に取り組む決意を表明する会長談話(PDF)