小学生向けジュニアロースクール・イベントレポート(2025年度)
1 はじめに
2025年8月4日、小学校5~6年生を対象としたジュニアロースクールを開催しました。
ジュニアロースクールは、法教育の普及・推進に関する委員会が例年実施しているイベントであり、参加した生徒の皆さんに、授業を通じて法的な考え方を理解し、実践いただき、身に付けてもらうことを目的としています。
多数の応募の中から当選した28名の小学生が、当日、弁護士会館に集まってくれました。弁護士に興味がある!と話してくれた子どもたちも多く、終始、熱気があふれる授業となりました。
また、保護者の方にも授業の様子を観覧していただき、子どもたちの授業後に保護者向けの解説を行う機会も設けました。
2 教材
今年度は、「『話し合い』で解決、できるかな?」という教材を使用して、友だち同士の争いごとを話し合いで解決する体験を行う授業を行いました。
3 授業の様子
⑴ まず、ある小学校で、青井さんが学校に持ってきていたバイオリンを、赤井さんと黒井さんが不注意で壊してしまい、青井さんが赤井さんと黒井さんに5万円の弁償を求めている、という事案を紹介しました。子どもたちには、誰かに肩入れすることのない、中立公平な「話し合い係」になってもらい、
①中立公平な立場で、それぞれの話をよく聴く
②それぞれの事情を整理して、どんな意味があるか考える
③それぞれの事情をもとに、3人が納得できるような解決策を考える
という体験をしてもらうことを伝えました。
⑵ まずは、青井さんと赤井さんに扮した弁護士から、それぞれの「言い分」を聴き取る時間を設けました。ただ、この時点では、まだ、青井さんも赤井さんも、感情的になってしまい、まだ、解決策を考えるのに必要な事情を十分に聴くことができませんでした。
⑶ そこで、5つの「話し合い係」グループ(各グループ5~6名ずつ)に分かれ、各グループで、青井さんと赤井さんに質問したいことを話し合いました。各グループには、チューター役の弁護士が2名ずつ同席していて、「解決策を考えるためには、誰の、どんな事情を知る必要があるかな?」「青井さんはどうして〇〇したんだろうね?」などとサポートをしながら、子どもたちに多くの質問を考えてもらいました。そして、もう一度、青井さん、赤井さんを呼び出し、それぞれに各グループからいくつか質問をしました。今度は、青井さん、赤井さんも感情的にならず、落ち着いてやり取りをすることができました。
⑷ ここまで青井さん、赤井さんが話してくれた事情を踏まえて、現時点での「解決策」を考えてもらいました。もっとも、まだ、もう1人の当事者である黒井さんから話を聴いていないため、「黒井さんの話を聴かないと、どういう解決策が良いのか決められないよ!」という声も多く聞こえました。すべての当事者から話を聴く重要性を、肌で感じてくれていたようです。

⑸ 今度は、黒井さんも含めて、全員から話を聴く質問タイムを設けました。これまで明らかになっていなかった黒井さんの事情が明らかになり、「そうだったの!?」という表情を見せてくれた子どもたち。青井さんと赤井さんにも、追加で質問したいことがたくさんあったようで、追加の質問タイムは、予定時間をオーバーするほど、大盛り上がりでした。
⑹ 当事者全員から話を聴き、それぞれの事情を知ることができたので、青井さん、赤井さん、黒井さんそれぞれが、どのような責任を負うことが良いかという最終的な「解決策」を各グループで考えます。最初は、どうやって考えればいいのか悩んでいた様子でしたが、弁護士のサポートもあり、次第に、「赤井さんは、やっぱり〇〇しなかったのがよくなかったと思う!」「黒井さんの話を聴いたら、仕方ないと思った」「え、でも黒井さんも□□すればよかったんじゃないの?」「3人を比較すると、●●さんと◎◎さんの方が△△さんよりも落ち度が大きいよね」などと、いろいろな考えを出してくれるようになりました。
⑺ グループの中でじっくりと話し合ったところで、いよいよ発表の時間に移ります。発表では、グループで決めた「解決策」と、その解決策を考えた「理由」の2つを、説明してもらいました。2つの解決策まで絞って決めきれなかったというグループには、その2つの解決策と理由を説明してもらい、合計で6パターンの解決策が出てきました。発表してもらった内容は弁護士がホワイトボードにも書き出し、みんなで色々な解決策を確認し合いました。

⑻ 講評と解説では、弁護士から、子どもたち全員が、①中立公平な立場から話をしっかりと聴き、②それぞれの事情を整理して、どんな意味があるのかを考え、③それぞれの事情をもとに、3人が納得できるような解決策を考えることができていたことを伝えました。そして、もし自分が当事者として争いになってしまったときや、クラスで何かを決めるときに意見が違う人とぶつかってしまったときなどにも、自分の意見を伝えること、相手の話(反対事情)にも耳を傾けること、それぞれの事情を踏まえて、譲り合えるポイントを探せるかを考えてみることが大切であることを伝え、日常生活でも、今日体験したこと、学んだことを活かして、よりよい生活を送ってもらうことができたら嬉しいという話をしました。
4 弁護士とのランチタイム
授業後には、毎年恒例の、参加弁護士とお弁当を食べながら話をする機会を設けました。グループの代表者でジャンケンをして、勝ったグループから順番に、お弁当を選んでいきました。どのテーブルでも、弁護士の仕事のこと、将来の夢のこと、好きな教科、夏休みの予定など、様々な話題で、とても盛り上がっていました。法律や弁護士という職業に興味をもってもらう良い機会になったと感じています。

(グループ代表者によるお弁当ジャンケンの様子)
5 最後に
争いごとを解決する手段として、「話し合い」はとてもシンプルで効果的な解決方法であり、弁護士の業務でも「交渉」や「調停」で、話し合いによる解決を試みる場面はたくさんあります。小学生のみなさんには、この授業を通して、「話し合い」をするときに大切なことを実感し、学んでくれたのではと思います。また、自分の考えに固執することなく考えてみる、他の意見にも耳を傾けて意見を交わすことの楽しさを実感してもらえたと思っています。
講義後のアンケートでは、小学生のみなさんからは、「事件の内容が面白かった、同じチームの人たちとどういう判定にするか考えたのが楽しかった」、「今まで学校で揉め事が起きた時に、いつも誰が1番悪いのかを考えていたけど、絶対誰か1人だけが悪いなんてないのかもしれない」(と思った)、「弁護士の話が面白かった」など、保護者の方からは、「他者と分かち合う心を育てる大変素晴らしいお時間でした」「子どもたちがひとつのチームとなり、話し合いながら物事を決めていくことができるのに驚きました」などの意見を頂きました。
今後も同様の企画を行う予定ですので、多くの小学生のみなさんにご参加いただけたら幸いです。

