会長声明・意見書

政府の「日本学術会議の在り方についての方針」に基づく法案の提出に 反対し、方針の撤回を求める会長声明

LINEで送る
更新日:2023年03月27日

2023年(令和5年)3月27日
第二東京弁護士会 会長 菅沼友子
22(声)第14号

 内閣府は、2022年12月6日「日本学術会議の在り方についての方針」を、同月21日「具体化検討案」としての追加説明文書を示しました(以下、これらを合わせて「方針」といいます。)。
 「方針」では、日本学術会議(以下「学術会議」といいます。)には「政府等と問題意識や時間軸等を共有しつつ、中長期的・俯瞰的分野横断的な課題に関する質の高い科学的助言を適時適切に発出することが求められている」と述べ、学術会議の抜本的な改革の断行を掲げています。そして会員・連携会員に求められる資質等の明確化、第三者委員会による透明性の高い厳格な選考プロセスなど「選考・推薦及び内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」としています。そして、この「方針」に基づき、今国会中にも法案が提出される可能性が高いと報道されています。
 この「方針」に対し、学術会議は、同年12月21日に発表した声明において、①学術会議が既に独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていない、②会員選考への第三者委員会の関与が提起されており、学術会議の会員選考の自律性・独立性への介入のおそれがある、③学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていない、等の懸念事項を挙げ、この「方針」が学術会議の独立性に照らしても疑義があり、その存在意義の根幹に関わる重大なものであるにもかかわらず、学術会議等との丁寧な意見交換や国民との対話を欠いたまま公表されたことに対して強い危惧を抱かざるをえないとし、これに基づく今般の法改正の動きを拙速なものとして強く再考を求めています。

 当会が2020年10月29日に発出した「日本学術会議の会員任命拒否に抗議する会長声明」において指摘したように、学問研究は客観的真実を追求するものであり、既存の理論や所与の社会的実態等に対して批判的、懐疑的な立場からも検討・検証を行うことがその生命といえます。そのため、学問研究には政治的・経済的・社会的干渉を排除した独立性が強く求められるのであり、「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法第2条)である学術会議につき、同法第3条があえて、学術会議は「独立して」職務を行うと定めているのも、このことに由来します。これに対し、今回の「方針」は、学術会議の声明で指摘されているとおり、会員選考への第三者委員会の関与や「政府等と問題意識や時間軸等を共有」することを求めるなど、学術会議の独立性を危うくしかねない重大な問題を含んでいます。この「方針」に基づき、学術会議との十分な協議も国民的議論もないまま性急に法改正を進めることは、学術会議の独立性と活動・組織の自律性を大きく損ない、ひいては科学者等を委縮させ、憲法第23条の学問の自由をも脅かすことになると言わざるをえません。

 様々な問題が生起している現代社会において、「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させる」という学術会議の目的(同法第2条)はますます重要になっていますが、科学を政策立案に活かしていくためには、学術会議の声明が指摘しているとおり、まず、政府と学術会議との間の信頼関係の構築が何より肝要です。その点で指摘する必要があるのは、2020年10月、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、加藤陽子東京大学教授ら学術会議が推薦した6名の会員候補者につき、政府自身が従前から行っていた解釈を恣意的に変更して任命を拒否し、かつ、その理由について政府が今に至るまで具体的な説明を行っていないことです。この任命拒否に対しては、学術会議はもちろん、多くの学会や科学者らが抗議の声をあげ、当会も前掲の会長声明において、日本学術会議法に違反し学問の自由の精神に反するものとして厳重に抗議しました。政府は、まずはこの任命拒否について説明を尽くしたうえで、今後の学術会議の在り方について、現在行われている学術会議自身による改革を踏まえつつ学術会議と十分に協議を行うべきです。

 当会は、政府に対し、この「方針」に基づく法案の提出に反対し、「方針」の撤回を求めるものです。

政府の「日本学術会議の在り方についての方針」に基づく法案の提出に 反対し、方針の撤回を求める会長声明(PDF)

もどる