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【第二弾】類型別:委員長経験者に聞く!なかなか聞けない業務妨害を受けないための事件処理の手法

八杖友一 八杖 友一 Yuichi Yatsue(49期)
当会会員
高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会 元委員長


山口広 山口 広 Hiroshi Yamaguchi(30期)
当会会員
日弁連消費者問題対策委員会 元委員長

CONTENTS

第1部:高齢者・障がい者に関する事件における業務妨害的な行為の予防と対策

  1. はじめに
  2. 私が経験した事例
  3. 業務妨害的な行為が認められるケースの分類
  4. ケース分類ごとの業務妨害的な行為への対応
  5. おわりに

第2部:宗教事件・カルト事件における業務妨害の予防と対策

  1. 霊感商法被害救済活動
  2. 幸福の科学によるスラップ訴訟
  3. 業務妨害の心得と対策

第1部:高齢者・障がい者に関する事件における業務妨害的な行為の予防と対策

講演者:八杖 友一 会員

1 はじめに

私は、2012年度、2013年度に当会の「高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会」の委員長を務めておりました。また現在は日弁連「高齢者・障害者権利支援センター」の事務局長を務めております。
これまで一貫して高齢者問題、障がい者問題の対応をしてきましたが、私の経験の中から業務妨害的なケースへの対応について、特に成年後見人に就任した場合の対応について、お話しします。
高齢者・障がい者に関する事件は専門的ではありますが、第2部の宗教事件やカルト事件と異なり私がお話しする第1部はほとんどの弁護士が経験する事件かと思いますので少しでも皆さんの業務の参考になれば幸いです。

2 私が経験した事例

25年くらい弁護士をしてまいりましたが、いくつか業務妨害にあたりうるようなケースを担当しました。その中から3つほど事例を挙げてみます。

【事例1】家族による虐待ケース

業務妨害にあたりうるようなケースのイラスト.jpg 1つ目は、家族による虐待があるケースで、虐待されている高齢者の成年後見人に私が就任しました。自治体が家族から分離措置を取って本人は施設に入所し、家族は居場所を知らされていない状況でした。家族からすると自分が虐待をしたことを理由に分離措置が取られたわけですから、自治体に対するクレームだけでなく、弁護士として後見人になった私に対しても、抗議の電話や面会要求の書面の送付などがありました。最近は、虐待を疑われた家族が情報交換をするサイトなどもあるようで、インターネット等を活用し情報収集をするようです。私は携帯電話の番号は教えていなかったのですが、どこで調べたのか突然携帯電話に家族から連絡があったり、親を誘拐されたと家族が通報して警察から問い合わせの連絡があったり、またレアケースですが、法務局から人権救済の申出があったということで問い合わせを受けたりすることもありました。虐待していないと言っているのに信じてもらえず、家族を不当に拉致された、自分こそが被害者だと家族がマスコミに訴えるケースも多く、マスコミから取材依頼がきたこともありました。家族による虐待が疑われるケースは多かれ少なかれその家族と対立するので、こういった事態になることが多いように思います。

【事例2】本人の了解がない成年後見申立てのケース

2つ目は、統合失調症の方の保佐人に就任したケースです。この方の場合、家族が後見開始の申立てをしましたが、鑑定をしたところ後見相当ではなく保佐相当だということで、保佐人が選任されることになりました。ご承知のとおり、保佐の場合、保佐人の選任について本人の同意は不要ですが、代理権を付けるためには本人の同意が必要です。このケースでは本人が代理権付与はもちろん、成年後見制度の利用そのものに反対しており、やむなく同意権のない保佐人が付いてしまったケースです。こういったケースは結構あります。最初に選任された保佐人は社会福祉士さんでしたが、本人からの執拗な反論や、本人がその保佐人相手に訴訟提起等をし、本人との信頼関係が築けないということで精神的に参ってしまい辞任となり、後任の保佐人に私が選任されることになりました。私に対しても保佐開始の無効等を訴え、本人訴訟でいくつもの裁判等をしてくるケースでした。

【事例3】被後見人から過度に依存をされたケース

3つ目は、これも比較的多くの弁護士が経験するケースと思いますが、統合失調症である方の後見人に就任したところ、精神的な障がいのために依存傾向が強く、不安になると、毎日のように電話をかけてくるケースです。人によっては仕事にならないくらい、1日何時間も時間を取られてしまうケースもあります。また長時間の電話に親身になって対応していたところ、好意を持たれてしまい、対応に困るケースもあります。
高齢者・障がい者に関する事件、特に成年後見人をやっていると、今ご説明したようなケースに遭遇します。同様の経験がある方も多いのではないでしょうか。

3 業務妨害的な行為が認められるケースの分類

これらのケースを私の考えでまとめてみますと、3種類ぐらいに分類できるように思います。1つ目は成年後見ケース、2つ目が虐待ケース、3つ目が精神障がい者のケースです。
1つ目の成年後見ケースは、ご本人に精神障がい(認知症も含む)があり、成年後見人に依存的になり、事務所に執拗に電話をかけてくる、訪問、面談を求めてくるといったケースで、比較的よく見られるように思います。また、先ほどご紹介した事例のように、依存というよりも後見人が攻撃対象となってしまい、書面送付や訴訟提起等がされるケースです。また、成年後見ケースでは、本人ではなく家族から後見人の対応に納得がいかないということで、執拗に電話、面談、クレーム等を繰り返されることもあるかと思います。
2つ目が、虐待ケースです。虐待された高齢者・障がい者を代理人もしくは成年後見人等として支援する場合で、虐待養護者(家族)から、自分は虐待などしていない、名誉棄損だ、本人を返せ、面会させろと執拗に攻撃や要求等があるケースです。
3つ目が精神障がい者のケースで、依頼者もしくは相手方に精神障がいがあり、そのために執拗に攻撃されたり、依存されたりするケースです。そこで、これらの分類ごとに、私がどのように対応しているか、皆さんにご紹介したいと思います。

業務妨害的な行為が認められるケースの分類のイラスト.jpg

4 ケース分類ごとの業務妨害的な行為への対応

【1】成年後見ケースにおける対応

まず成年後見ケースにおける対応です。私は今回、弁護士業務妨害対策委員会から「高齢者・障がい者に関する事件における業務妨害の予防と対策」というテーマで話して欲しいと依頼されたのですが、少しだけ言葉を変えておりまして、業務妨害「的な」行為に対する、というように、「的な」という言葉を使っています。
なぜなら、高齢者・障がい者の場合はご本人が業務妨害をしているという認識を判断能力の低下等によりお持ちでないこともあり、成年後見人の役割が継続的に本人の権利を擁護することであることを踏まえると、業務妨害だと言うことには違和感があったからです。本人に精神障がいがあって、そのために業務妨害的な対応、依存や攻撃があったとしても、それは事件の性質からやむを得ない、当然であると私自身は認識し、過剰に反応せず可能な限り本人に寄り添うことを基本対応としています。とにかく怖い、やめて欲しい、寄り添うなど無理ということであれば、そういう方は、成年後見事件をはじめとする高齢者・障がい者分野には向いていないと思いますので、そもそも受任しない、団体推薦の名簿登録をしないことが、業務妨害的な事件を避ける一番の対応策かもしれません。
これからお話しする対応方法は、成年後見人等の役割は本人の権利擁護であることを前提とし、この種の事件においてご本人による業務妨害的な行為はある程度やむを得ない、当たり前と認識できる方々が事件を受任した場合の話になります。今お話しした基本対応を前提としつつも予想を超えた業務妨害的な行為は確かにありますから、その場合にどうするのかということをいくつかお話ししたいと思います。

①支援チームとの連携
まず、高齢者・障がい者福祉に関わっている弁護士は、福祉分野における個別ケアマネジメントと同様、業務妨害的な行為についても、単に「やめてください」と言うのではなく、どうしてそのような行動に出るのか原因をアセスメントし、その原因に応じた対策(プラン)を講じて、そのような行動の解消を目指します。その場合に、有効なのは後見人がひとりで抱え込まずに福祉や医療の関係者と一緒にチームで検討するということです。
2016年に、成年後見の利用促進法という法律ができ、各自治体に成年後見利用促進の中核機関が作られています。そこでは、各被後見人ごとに支援チームを結成して本人を支えることになっており、例えば依存行為や攻撃的な行為があることを相談して、ケース会議(ケースカンファレンス)を開催し、チームで一緒に、どうしてそのような行動に出るのかを探究して、対策を考えて、役割分担をして対応していくことが想定されています。このようなチーム支援による解決が今後の業務妨害的な行為に対する最も基本的な対応方法になっていくように思います。

②複数後見(後見人の追加選任)による対応
そうはいっても各自治体の中核機関の対応はまだバラバラで、支援チームを作って適切に対応してくれるところもあれば、マンパワーがないからといった理由で対応してくれないところもあります。そのような場合の対応方法として、1つは後見人の追加選任をして、1人ではなくて2人で対応するという方法が考えられます。複数後見にすることにより、チームが結成され、攻撃、依存の対象が複数になり負担の分散にもなります。自身で追加選任の申立ても可能ですが、こういったケースは、自治体において困難ケースとして把握されていることも多いため、自治体に首長申立てを働きかけ、報酬助成制度の利用を促し追加選任してもらう方法もあると思います。

③後見人の交代
また、どうしても信頼関係が築けない場合にはあまり引きずらないで、後見人を交代することも選択肢として考えてよいと思います。
そのような責任感のない対応でよいのかと思われるかもしれませんが、先ほどご説明した成年後見の利用促進法、これは成年後見制度のいろいろな課題を挙げ、解決を図る目的で制定されましたが、「本人が制度利用にメリットを感じない」という課題の解決の1つとして「成年後見人の適切なマッチングにより成年後見人の柔軟な交代」を挙げています。後見人等が違う人であれば、もしかしたらご本人とうまくいくということもあり、その方が本人のメリットであると整理されているわけです。現在、最高裁や日弁連においても後見人の柔軟な交代についての諸条件や方法等について検討していますが、どうしても合わない、相性が悪いという場合には成年後見人を交代することも検討し、自治体、支援チーム、家庭裁判所等に相談するとよいと思います。
成年後見のケースで本人から業務妨害的な行為がある場合には、以上申し上げた3つの対応方法を参考にしていただくと、問題の解決につながることもあるのではないかと思います。

特殊なケース:被保佐人等からの訴訟提起
なお、これは少し特殊なケースですが、先ほどお話ししたとおり、本人から全くの言いがかり的な内容で保佐人等に対して訴訟提起をされる場合等もあります。訴訟の提起は、民法13条により、保佐人の同意事項であり、通常は同意権の行使(不同意)ができる場面ですが、保佐人自身に対する訴訟提起だと、利益相反行為になり同意権の行使ができません。
そのようなときには、後見人の場合は特別代理人、保佐の場合は臨時保佐人、補助の場合は臨時補助人の選任申立てをして、代わりにその人たちに同意権を行使してもらうことが法律で定められていますので、躊躇せず臨時保佐人等の選任をしていただければと思います。臨時補佐人等に同意・不同意の判断をしてもらうことで負担が分散されます。
私も先ほどの事例でいくつか訴訟を提起されましたが、全て臨時保佐人が同意、不同意の判断をしてくれ、2人で負担の分散をしながら対応できたということがありました。

家族からのクレーム
また、成年後見ケースの場合、本人ではなく、本人の家族から後見人に対して攻撃される場合もあります。この場合、先ほど申し上げた後見人の追加選任や交代という方法もありますが、そのほかに、クレームを言ってくる家族を法律相談や弁護士受任につなぐ方法も有効です。これは「法テラスに相談に行かれたらどうですか」や、「私は弁護士ですが、あなたの弁護士ではないので、あなたのことだけをしっかり考えてくれる弁護士に、きちんとご相談された方がよいと思いますよ」等とお伝えし、代理人である弁護士との交渉になるようつなぎます。その結果、家族が代理人として弁護士を選任すれば、直接家族に対応することがなくなる場合も多く、話の内容も家族による感情的な話から法的観点を踏まえた内容となり、対応しやすくなることがあります。

高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会によるバックアップ
成年後見事件については多くの場合、弁護士会による団体推薦ということで当会が先生方を家裁に推薦して選任されていますので、本人や家族からのクレームや対応困難な案件については当会の高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会にご相談いただければバックアップいたします。私も含め、高齢者・障がい者分野に積極的に取り組んでいるメンバーとケース会議等を行い、一緒に対応方法等を検討することも可能です。ケースによっては、複数後見でご一緒することもあるかもしれません。また、委員会では、名簿登載者を対象とするメーリングリスト「ゆとりーな」を運営しており、経験のある者から情報提供やアドバイスを受けることができるのでご活用いただければと思います。以上が成年後見ケースにおける業務妨害的な行為への対応となります。

【2】虐待ケースにおける対応

次に、虐待ケースでの対応です。先ほど私のケースをご紹介しましたが、虐待ケースでは、自治体がご本人の権利擁護のため、ご本人に後見人をはじめとする専門職の代理人を付すことが一般的で、その多くが弁護士であることから、近年、高齢者・障がい者分野における業務妨害的な対応が必要となる典型となっています。

虐待防止法を活用した対応
家族(虐待養護者)からの業務妨害的な行為について、後見人等として対応する場合には、先ほど成年後見ケースで説明した方法を活用しますが、それに加え、虐待防止法を活用した方法についても知っておかれるとよいと思います。2006年に高齢者虐待防止法が、2012年に障害者虐待防止法が施行されていますが、これら虐待防止法では、自治体に、虐待の通報受付け、事実確認、適切な対応について義務を課しています。また自治体に、虐待をしている養護者(家族)を支援しなければならない義務も課しています。虐待をする人に支援など必要ないのではないかと思うかもしれませんが、虐待の要因は様々で養護者(家族)の介護疲れなどもそのひとつとされ、養護者(家族)を適切に支援すれば虐待が収まることがあるということで、養護者支援の義務が規定されています。また、虐待されているご本人に判断能力がない場合には、権利擁護のため、自治体が成年後見の申立てをしなければならないことも規定されています。

自治体との連携
このように虐待防止法では自治体に様々な対応義務を課していますので、虐待養護者(家族)からの執拗なクレームや攻撃的な行為に対して、成年後見人や代理人として関わる場合には、1人で抱え込むのではなく、自治体と連携して、二人三脚で対応することが基本となります。例えば、自治体にケース会議の開催を依頼して対応方法を一緒に協議する、自治体から養護者への働きかけをしてもらうなどの方法を活用することができます。日頃感じることですが、虐待ケースでは、自治体にこのような二人三脚をしっかり意識してもらい、自治体が離れていかないよう働きかけることがとても重要です。自治体によっては、成年後見人や代理人として弁護士が付くと、「一件落着」、「後はよろしくお願いします」と考えがちのようですが、虐待防止法により、自治体には虐待の終結まで対応する義務があり、後見人等と二人三脚で対応することをしっかり自治体に働きかけるようにしてください。
都内の自治体では虐待のケース会議に、アドバイザー弁護士(自治体の弁護士)が参加することも多く、虐待解決に向けて、様々な検討を一緒に行っています。私もいくつかの自治体のアドバイザー弁護士を務めていますが、多くのアドバイザー弁護士は自らも後見人等として虐待対応経験があり、後見人と自治体をつなぐ役割も意識しながらアドバイスを自治体に行っています。成年後見人はあくまで本人の権利擁護だけを考える立場ですので、虐待養護者(家族)の支援はできません。その点を自治体に理解してもらい、虐待養護者(家族)との関係については、自治体が主体的に対応する必要があるとアドバイスし、ケースによっては、役割分担として、自治体に矢面に立ってもらい、虐待養護者等と調整をしていただくこともあります。

自治体との連携のイラスト.jpg

警察の援助要請、分離保護、面会制限など
そのほか、虐待防止法には、自治体が警察等に支援要請する規定や運用もあるので、自治体を通して警察の支援を受ける対応も考えられます。自治体が、本人を虐待養護者(家族)から分離保護する規定(やむを得ない事由による措置など)や、虐待養護者(家族)の面会を制限する規定もあり、これらの活用も有効です。自治体には後見申立ての権限があり、成年後見ケースでもお話ししましたが、負担軽減のため、後見人を追加選任してもらう対応も考えられます。また、報酬は成年後見利用支援事業という助成事業があるので、自治体の負担として対応してもらうことも考えられます。さらに、成年後見ケースと同じ話になりますが、家族に法律相談や弁護士への依頼を提案する方法も有効ではないかと思います。

【3】精神障がい者(依頼者、相手方)ケースの対応

最後に、精神障がいがある方から、執拗なクレームを受ける、依存されてしまう等の業務妨害的な行為がある場合の対応となります。こちらもいくつかのケースに分けられますが、依頼者のケースと、相手方のケースに分けてお話しします。

精神障がい者の支援として受任するケース
依頼者のケースでも、精神保健福祉法に基づく退院請求事件のように、精神障がい者の支援として受任するケースについては、私の場合、成年後見ケースでお話しした内容と同様、ある程度のクレーム的な言動や依存的な行為は想定内、織込み済みとして受任しています。もっとも、精神障がいのある方の支援をいくつか経験すると精神障がいがあるからといって必ず攻撃的になる、依存的になるというのは偏見であり間違いであることが分かります。多くのケースではほとんど問題なく受任して事件処理できているので、受任する前から必要以上に怖がったり警戒したりする必要はないように思います。退院請求事件などは当会からの事件配転で受任をしていただくケースが多いと思います。その場合は、先ほどの後見人ケースと同様、困ったことがあれば、当会の高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会にご相談いただければ、一緒に対応方法を検討することも可能です。東京三会では精神障がい者を支援するために退院請求等の当番弁護士制度を立ち上げており、経験やノウハウを有するメンバーもたくさんいますので気軽にご相談ください。
なお、このような退院請求事件、処遇改善事件など精神障がい者の支援事件については、できるだけ多くの弁護士に対応していただきたいと考えていますが、どうしてもそういったことが心配だということであれば、冒頭に申し上げたとおりこの種の事件には向いていないと思いますので、受任しない、名簿登録しないという選択もあるように思います。

依頼者に精神障がいがあるケース
依頼者に精神障がいがあることが受任時には分からず、受任後に想定していなかった業務妨害的な行為があってはじめて精神障がいがあることが分かったケースでの対応です。これも先ほどお話ししたことと同様に、複数で受任する対応が考えられます。また、ご本人の周りには、後見人等、ご家族、ソーシャルワーカーなど様々な支援者がいると思いますので、そういった方に必ず立ち会ってもらう対応も、多くの高齢者・障がい者分野に関わる弁護士が実践している方法です。第三者の同席なく1対1で対応すると、言った言わないの問題になったり、こちらも冷静に対応できなくなったり、話が煮詰まってしまい、万が一のときに逃げ場がなくなることがありますので、複数で対応したり、誰かに立ち会ってもらったりする対応が大切です。また、弁護士会あっせん案件であれば委員会に相談したり、交代を求めたりできることも、先ほどお話ししたとおりです。

依頼者に精神障がいがあるケースのイラスト.jpg

事件の相手方に精神障がいがあるケース
事件の相手方に精神障がいがあるケースですが、この対応が一番困ることが多いように思います。ただ、相手方なので、通常、その方の権利擁護を考える必要はありませんし、自分の身を守ることを第一として、高齢者・障がい者の事件というより、一般的な業務妨害の事件として対応することが多くなるように思います。業務妨害対策として、複数で受任する、1対1では会わない、合理的な話ができる弁護士依頼を提案する、警察に対応を依頼する、弁護士会の弁護士業務妨害対策委員会に相談、支援要請をするなど、一般的な業務妨害対策を講じることになります。当会の弁護士業務妨害相談や弁護士業務妨害支援手続の詳細については、当会会員サイト(https://niben.jp/member/support/bougai.html)もご覧ください。

5 おわりに

長らく高齢者・障がい者の分野に関わっていますが、この分野で本当に怖い思いをしたということはまだありません(鈍感なのかもしれませんが)。ほかの事件と同様に、過度に怖がらず、多くの会員の皆さんに、高齢者・障がい者分野の事件に携わっていただければ大変嬉しく思います。そして、何か問題があれば、今回お話ししたことを実践していただき、必要に応じて高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会にご相談いただければと思います。

第2部:宗教事件・カルト事件における業務妨害の予防と対策

講演者:山口 広 会員

1 霊感商法被害救済活動

私はもう43~44年、弁護士をしておりますが、弁護士になって10年目ぐらいの時、1987年2月に霊感商法被害救済担当弁護士連絡会(東京中心組織)、同年5月に霊感商法被害対策弁護士連絡会(全国組織)を結成して霊感商法の対策をすることになりました。
その前年の10月だったと思いますが、若い銀行員の女性が相談に来ました。「街頭で男性に声を掛けられて喫茶店で長時間話をして200万円ぐらいで大理石のつぼを買ってしまった。納得できないからお金を取り戻したい」という相談でした。
ほかの2、3人の弁護士に相談したそうですが、納得して買ったのだから諦めなさいと言われたとのことでした。しかし、私はなぜ買ってしまったのか気になりいろいろ聞いたところ、巧妙かつ説得力のある話をされて、今ここで200万円たまったお金で開運のため、この大理石のつぼを授かることこそが自分のやるべきことだと思って購入したとのことでした。

相談する女性のイラスト.jpg

私は当時まだ30代でしたが、こういう女性がどういう説得を受けて200万円ものお金を出したのか説得のノウハウに関心があり、いろいろ聞きました。その上でやはりこれは放っておけないと思い通知をしたところ、霊感商法の業者は比較的スムーズに全額200万円を返してきました。
それでよかったと思ったら、その女性の友人たちが、芋づる式に被害相談に来たことで、組織的な事件だとわかり、友人の弁護士などとも話し合い、弁護士約20名の名前で、弁護士会で2月19日に記者会見をし、翌月の3月20日に相談会を実施しました。
相談会には1回300人ぐらい集まりました。置物の多宝塔やつぼ、高麗人参濃縮液など、多い人は1億円近い被害相談もあり、2回相談会をして約600件、約19億7000万円もの被害相談になりました。これを100人ぐらいの弁護士で担当し、活動を始めました。
そうしたところ3月中旬頃から5月末まで、自宅に1日200回近くの電話が連日かかるようになりました。電話に出ると切れ、置くとまた鳴り、私が出掛ける朝8時半には鳴り始め、夜までずっとその繰り返しでした。
連絡会の弁護士の方々と相談した結果、やはり記事にしてもらった方がよいということで、当時は朝日新聞が非常に熱心にこの霊感商法の被害の問題を報道していたので相談すると、どのように対応していくか聞かれたので、犯人不特定ということで刑事告訴をしたいと伝えると、5月の末ぐらいに記事にしてくれました。要するに、霊感商法を担当している山口広弁護士の自宅に嫌がらせの電話が1日200回近くかかってきて、これが1カ月以上続いているという記事が出ると翌日ぴたっと電話はかかってこなくなりました。いかに組織的かというのがよく分かると思います。
当時は世界基督教統一神霊協会(以下、統一教会)の元信者がたくさん、私のところに被害相談に来ていました。加害者になってしまう信者たちも最初は被害者であるため、統一教会を脱会して私のところに相談に来た元信者の方々に、同じ被害者として、自分の身に起こった電話被害について話しました。すると、自分も20~30枚の10円玉と電話番号を渡され、電話をかけ相手が出たらすぐ切るように指示されたという人が3人いました。つまり、統一教会が組織的にしていたことは明らかです。
そのほかに、暗躍する左翼弁護士という、私の髪の毛がふさふさで若い頃のビラが全国で数百万枚、都内で数十万枚配られました。自分も配ったと統一教会の元信者からも聞きました。私の自宅の周辺にも配られ、通勤途中でも2、3回自分のビラを見てぎょっとしたこともありました。そのくらい頻繁に統一教会の信者が組織的にビラをまいていたことがありました。
代表になっていただいた伊藤和夫弁護士(故人)のお宅周辺にもかなり配られ、当会の大先輩である丸山輝久弁護士、東澤靖弁護士も中心メンバーだったのでこの4人を左翼弁護士だと決めつけて、このような(下のビラ)誹謗中傷されたビラが配られました。

ビラの画像.jpg
※実際に配られたビラ

そのようなこともあり多くの弁護士の方々から励ましや慰めをいただきましたが、1988年5月に若い朝日新聞の記者が銃撃されて死亡したという阪神支局事件が起きて、他人事ではないという思いでした。
また、私のところには1回もありませんでしたが、霊感商法の問題に取り組んでいる岡山の河田英正弁護士のところには頼んでいない寿司の出前が何回も届き、またなんと誰も死亡していないのに霊柩車が遺体を引き取りに来たという非常に不愉快なこともあったそうです。
そして、それまでのNHKは霊感商法の問題を非常に概括的な形でしか報道してくれませんでしたが、民放はワイドショーなどで、ある程度扱ってくれました。いずれにしてもNHKが報道したということで統一教会はショックを受けたでしょう。NHK放送センターに100名前後の女性たちが押しかけて、2~3週間ぐらい抗議のデモをしていたそうです。
さらに翌年の1989年11月4日に坂本堤弁護士一家が突然自宅からいなくなるという事件があり、その後にオウム真理教(当時)による殺害があったということが分かったわけですが、私自身も他人事ではなく嫌な事件だと思っていました。
坂本弁護士とはこの年の春ぐらいに2、3度電話で話し、オウム真理教の問題を坂本弁護士が扱っていたので、気を付けよう、頑張ろうということで励ましのエールを交換したことがあります。そのとき私は坂本弁護士に、「とにかく1人でやらない方がいいよ、霊感商法の問題の場合は仲間10人以上でいつも一緒になってやっているから、坂本さんも気を付けた方がいいよ」というようなことを言ったことを今でもよく覚えています。
その後、霊感商法の問題は2007年に警察(特に公安警察の一部の幹部の方々を中心に)から、摘発のため資料要請があり、資料を提供して様子を見ていたところ、沖縄県警に始まって大分、和歌山、新潟、長野など13の県警、府警で、合計30数名の統一教会信者が霊感商法の事件による特商法違反で摘発されました。
私は嫌がらせにおびえ、やめたなどというのは絶対に納得できず、嫌がらせをされればされるほどしつこくなるという性格から、統一教会もその点は分かったようで、嫌がらせは時々ありますが、ほとんどなくなったというのが実情です。

2 幸福の科学によるスラップ訴訟

次は幸福の科学によるスラップ訴訟です。私は、統一教会以外の問題をなまじの宗教知識でやっていると、こういった訴訟を起こされかねないということで、統一教会一本に絞ろうと思い、統一教会以外の事件はあまり受けないようにしているのですが、いろいろないきさつから引き受けることもあります。幸福の科学のこの件も断り続けていたのですが、頼み込まれ引き受けた事件でした。
幸福の科学は皆さんご存じだと思いますが、1991年8月に講談社のフライデー事件で大きな社会問題になった教団で、当時は大川隆法教祖が信者獲得という号令を出して躍起になって信者獲得をしていた頃、講談社の雑誌『フライデー』がその大川隆法教祖を批判する記事を何回か掲載していました。
これに対して幸福の科学は、広告塔であった小川知子さんというタレントが先頭に立ってデモを行い、また、講談社に対して業務妨害の電話をかけ続け、講談社の電話機能が麻痺してしまったそうです。
さらには講談社に対し全国で追加訴訟を次々に起こしたことで弁護士が全国の裁判所に出向くことになり大変だったそうです。訴訟を起こすという極めて業務妨害的なことを組織的にすることによって幸福の科学を批判するメディア報道を抑圧し、一定程度成功して講談社を含めた幸福の科学を批判するメディアの報道はかなり沈静化してしまいました。結果としては講談社対幸福の科学の訴訟は30億円訴訟が請求棄却で2002年1月18日に最高裁決定が出てほぼ決着しました。
私が訴訟を起こされたのは1996年、今から26年前です。当時はまだ「スラップ訴訟」という言葉はなく、弁護士がこのように訴訟を起こされることもあまりありませんでした。
私は1995年12月25日に元信者から頼まれて2億3400万円の献金被害の損害賠償請求訴訟を起こし、型どおり記者会見をしました。これから大変だなと思っていたら翌年1月7日、事務所に突然メディアから電話があり、「訴えられていますが何かコメントをください」と言われて、自分が8億円の訴訟を起こされ、幸福の科学が記者会見をしたことを知りました。
家族にも話し、驚かれました。もっとも、どんなに負けても賠償金は1000万円を超えることはあり得ませんが、賠償金額の問題ではなく、絶対に許せないという気持ちと、弁護士としての沽券にも関わることから、全面的に争うしかないと思いました。暴力団や特殊な宗教団体に対し、被害者の代理人として訴訟を起こすたび、このようなことで訴えられていたら、裁判を起こせなくなると憤りを覚えました。
そこで、かねてより尊敬している土屋公献弁護士(故人)に相談して、私が中心になり被害弁護団を作るので団長になってほしいとお願いしたところ、気持ちよく引き受けてくれ、とんでもない訴訟だという弁論も述べていただきました。知り合いの弁護士みんなにお願いしたところ、約200人、高裁のときは約250人の先生に名前を出していただき、法廷にも毎回数十人の先生に参加していただいて弁論も行いました。

弁護士のチームのイメージ.jpg

私の尋問は被害弁連の代表世話人だった伊藤和夫弁護士にしていただき、訴訟としては、幸福の科学を脱会した元信者の方から、大川隆法教祖がこういうときは100倍返しでやらなくてはだめだといったメールだったかファクスだったかで大川隆法教祖自身が書いた文書が手に入りました。
しかも、後で少し判例を紹介しますが、提訴されてたしか2週間もたたずに訴訟が起こされたということもあり、リベンジのための訴訟であること、弁護士あるいは被害者に対して圧力を掛けることが目的の訴訟であることも明らかだったので、先生方の協力もあり、大川隆法教祖を尋問しようとしつこく粘りましたが、裁判所は結局それを採用せず幹部信者が代わりに尋問を受けるという形で訴訟が進みました。
結論としては、献金違法請求訴訟の事件は地裁判決が1999年5月、高裁判決が1999年11月に敗訴判決でした。負けた理由はいろいろありますが、端的に言うと被害者は早稲田大学卒業の当時35歳ぐらいの男性、加害者の中心になってその男性に働き掛けた幹部信者は女性信者で、法廷ではなよなよとした雰囲気で、とても霊感商法で脅しそうな感じはしない女性でした。しかも、この被害者はほかに5億円ぐらい幸福の科学にお金を貸しており、それを返してもらっていました。なけなしの金をふんだくられたという事件ではありませんでした。やはり難しいという感じはしましたが、いずれにしても負けました。
ただ、私を訴えた、違法な弁護士業務だから賠償しろという訴訟についてはこれに対する私の反訴が2001年に地裁判決、2002年に高裁判決、最高裁判決もその年の11月にめでたく勝ち、利息を含めて130~140万円戻ってきました。
参考までに、この私が勝った判決では要旨で次のようなことが述べられています。簡単に言うと、「被害者の元信者が献金訴訟提起当時の時点において、本件各金員の交付が教団の職員による強要によるものであると信じたとしてもやむを得ないところであると認められる」、要するに、被害を被害と信じるに相当な理由があるということです。
「そして山口弁護士においてこの元信者から本件各金員の交付に関する事情につき陳述書等による報告を受け、その内容を検討した上これに法律的な評価を加えて、これが脅迫行為による献金の可能性がある旨の判断を下したとしても、これをもって不当ということができず、その判断には合理的な根拠があったというべきである」ということで、幸福の科学の私に対する訴訟は棄却になりました。
一方、私の反訴については判決では、「わずか2週間程度の短期間で提起されていることに照らすと、この訴訟の主たる目的は献金訴訟を提起した被害者の元信者と山口弁護士各個人に対する威嚇にあったことが認められる。教団は主に批判的言論を威嚇する目的を持って7億円の請求訴訟(もっとも、事務所の幹部2人も被告になっていたので、各5000万円ですから合計8億円になりますが)、到底認容されないことを認識した上であえて本訴を提起したものであって、このような訴え提起の目的及び態様は裁判制度の趣旨の目的に照らして著しく相当性を欠き違法なものといわざるを得ない」とのことでした。
基本的にそのままこの判決結果は高裁判決、最高裁判決でも維持されました。その後も消費者金融の武富士の批判をしたあるいは反訴を起こした弁護士や、メディアに対する訴訟がいろいろとかなりの金額で起こされました。先般、私の先々代の日弁連消費者問題対策委員会の委員長だった澤藤統一郎弁護士がDHCの社長から訴えられるという訴訟もありました。
アメリカではスラップ訴訟というのはかなり確立した判例になっているということで、その言葉が独り歩きするようになりましたが、当時の私はそのような言葉も知らずに夢中になってこの訴訟に取り組んでいました。はっきり言って時間の無駄だ、エネルギーの無駄だと思いつつも、今考えると、こういう判決が歴史的に取られていてよかったと思えます。

3 業務妨害の心得と対策

業務妨害の心得と対策のイメージ 以上を踏まえ、業務妨害を受けたときの心得と対策を総括していきます。
業務妨害をされ、嫌がらせを受けるほど、落ち込んでなどいられず、やり返したいという意欲と執念が出るものではないでしょうか。最近の若い弁護士の方のことは分かりませんが、弁護士というのは執念深く、私の知っている弁護士はみんなそうです。相手に、嫌がらせをしても無駄だと、逆効果だと分からせることがあってもよいのではないかと思います。そのときには、1人では決してやらないこと、弁護士同士で励まし合いながら相談し合いながらできることは本当にありがたいと痛感しています。
私は霊感商法の問題やそのほかの問題でも、いろいろな事情で1人でせざるを得ないときもありますが、基本的には1人でやらないように気を付けています。これは特に宗教団体、マル暴関係、あるいは精神的にいろいろ問題がありそうな方を相手にするときや依頼者にするときにはこういう点は気を付けた方がよいと思います。
ただ、ネット社会の今は弁護士広告が露骨で刺激的になり、広告会社に支配されているような若手の弁護士も増えていると聞いています。そうなると若手の弁護士や困窮した弁護士が、業務妨害を受けやすい事件を引き受けてしまうことも少なくないという現実は法律相談などでよく聞きます。
これからは業務妨害の裁判、事件はますます増え、不当な懲戒請求も起こるでしょう。そういうことを考えると業務妨害の心得と対策は、私どもが35年前に霊感商法の問題を始めた頃に比べると、もっともっと重要なテーマになってきていると思います。そういう意味でも、お互いにくじけず、頑張っていきましょうという思いです。