出版物・パンフレット等
山椿 / 花見月
山椿

編集長から「『山椿』に、何かおもしろい話を書いて」と言われたので、一席。
「全身真っ白な犬がいました。...終わり」
「何だ?それ」
「尾も白い(面白い)...お粗末」
私は今年在会35年の表彰をいただいて恐縮して、そろそろハッピーリタイヤなどと浮かれて、最近趣味の落語にはまっているご隠居弁護士(35期)です。
しかし、駄洒落だけでは編集長の依頼の趣旨からは許されないので、最近私が何となく感じている裁判模様について『小言幸兵衛』を気取って、もう一席。
えー 世に争いの種はつきませんが、人様の間で何か争いが起きると、相談を受けた弁護士さんは争いの事実を法的に構成して「請求原因」という要件事実に引き直し、「訴え」を起し、起された方はこれまた別の弁護士さんに相談をして、「否認」とか「抗弁」とかを行い、それに対し、原告の弁護士さんが...これをしばらく繰り返して、裁判官殿が今までの判例の流れの中で判決をする。双方の弁護士さんは訴訟をスポーツであるかのように勝敗を競い合い、裁判所は行司として一方に軍配を上げてこれで一丁あがり。
そういう裁判になってしま っていることはありませんか。紛争は光の当て方によって玉虫色に変化し、形を変え、争いの氷山の下には計り知れない程の深くて大きな悩み苦しみがある。裁判によって解決したのでしょうか。
最近AI流行ですよね。AIによって消滅する職業がよく話題にのぼっています。弁護士さん、裁判官殿(検察官殿も含めて)、さっきのような定型的なやり方をやっていては人工知能に代替されて、弁護士も裁判官も必要なくなってしまうかも?
そんなことはない。「AIに人の気持ちが分かるか」というあなた。そうなんです。私もそう思います。紛争解決は当事者の「納得」が一番大切。「納得のない結論」を出しても新たな紛争を生むだけなのでは。
そこで、落語に出ている大岡越前守の大岡裁き、「大工調べ」「帯久」「小間物屋政談」「唐茄子屋政談」等々、色々ありますが、面白い。何と言っても一番有名なものはこれ。
「ある日、左官の金太郎が財布を拾った。中を改めると大工熊五郎の名が入った書付と印形、そして、三両の銭が入っていた。
そこで金太郎がわざわざこれを熊五郎の家に届けるも、職人気質の熊五郎は書付と印形は受け取るが『出て行った金は受け取るわけにはいかね ぇ』、金太郎も『もらうわけにはいかない』と二人押し問答から取っ組み合いのけんかに。ついに大家の取り成しで、奉行所で決着をつけることと相成った。南町奉行所の名奉行大岡越前守は双方の言い分を吟味した末にこうお裁きを下した。『この三両に越前の懐から一両を加え、四両とし、両人に二両ずつ褒美としてつかわす。これで三人とも一両の損(三方一両損)である』」 どうです? あー これではやっぱりご隠居弁護士か。
花見月

もとより、企業のミッションは、社会全体の幸福を実現すること、人々の暮らしをより良いものとすることと決ま っている。起業家、ビジネスマンに限らず、企業と関わり仕事をする者は、これにコミ ットし、社会的相互関連性の中で、生きがいを感じながら生きている。弁護士も同じである。山田秀雄先生が第二東京弁護士会の会長に就かれた際、僕の机にも就任の挨拶が届き、開けると、「弁護士の仕事とは、社会における正義の総量を高めること」と書かれていた。
弁護士になってから、いわゆる合コンにしばしば参加した。「なぜ弁護士になったの?」と聞かれた際には、社会正義の実現と基本的人権の擁護、弁護士は六法全書片手に国家とも喧嘩できる職業、大企業の顧問弁護士も良いがむしろ弱者救済、目の前の困っている人を助けるような仕事がしたいから、と答えるようにしていた。これは、アメリカの弁護士ドラマの『SUITS/スーツ』におけるハーヴィーではなく、マイクの方がモテると打算したからでもあるが、実際モテたと思う。かかる思想を体現すべくと言い訳しながら久保利英明先生と同じモデルのCHANELのJ12(腕時計)を購入したのは弁護士3年目の頃であった。
弁護士となり、社会における正義の総量を高める、ひいては社会全体の幸福を実現するという最高のミッションを与えられた僕は、NIKEの〝Just Do It.- 行動あるのみ!〝をモットーに、依頼があった案件はできるだけ全て受けるようにしてきた。その過程で、原告・被告、市民側・企業側、正義・悪と単純に割り切れるとは限らず、目の前にある紛争を、直接的、間接的に裁判所の力を借りつつ、なんらかの形で落着させ、当事者に次の一歩を踏み出してもらうこと、それ自体が経済的合理性、もとい、価値、「正義」であるという経験論を得た。
弁護士6年目に入っての感想は、端的に「最高に幸せ」である。案件、顧問先を通じて、社会における正義の総量を高めることに少しでも貢献していると実感できているからである。弁護士1年目から自分で案件と顧問先を獲得し、着手金や顧問料を請求し、勝訴すれば敗訴もして、顧問先との契約解消も経験した。大事なことは自分の幸福に対して責任を持つということだと思う。
今後のテーマは、『Antifr-agile /反脆弱性』と『カスタマーサクセス』。どちらも最近読んだ本のタイトルである。反脆い弁護士としてカスタマーサクセスを実現したい。
ホワイト弁護団でご活躍の大川原栄先生にウェール法律事務所を紹介してもらい、石井逸郎先生、川本一徳先生からカッコいい大人の哲学を教わった。この3人の先生方には感謝しかない。また、まだまだ未熟な自分に顧問弁護士としてのチャンスを与えていただいている顧問先の社長の方々には心から感謝している。
「自分を変えられる人は、社会も変えられる」という言葉がある。まだ変われるはず。もう少し変わるため、いざ尋常に、ただし、しなやかに、歩き出したい。

