出版物・パンフレット等

民法(債権法)改正の最重要ポイント(中編)

中編 全3回

深山 雅也

3、保証

1、根保証の規律の拡大

極度額(改正法465条の2)
個人根保証契約の保証人は極度額の限度で履行責任
⇒ 極度額の定め(書面又は電磁的記録)がなければ無効
保証については、大きな改正点の1つですが、既に平成16年にも一部改正がなされていまして、平成16年に民法の現代語化をするときに、規定が一部見直されています。当時、保証人が保証債務の履行請求を受けて悲惨な状況になったことが社会問題化したこともあって、取りあえず最も手当てを急ぐと考えられていた部分について、保証人保護の観点から改正をしていました。今回はその延長として、更にもう少し保証人保護の観点から規律を設けるということで、改正がなされています。
16年改正を振り返りますと、一番重要な点としては、書面で契約をしなければならないという要式行為になったことです。そのほかに16年改正では、貸金等を主たる債務とする個人根保証について極度額の規律、元本確定事由の規律、元本確定期日の規律を設けました。16年改正の個人根保証の規律というのは専ら貸金等債務を主債務とする個人根保証だけを対象とした規律でしたが、この根保証の規律を個人根保証一般に広げようという観点から今回の改正では見直しがなされました。具体的にはまず極度額です。貸金等根保証に限らず、極度額を定めないと、個人根保証一般において保証契約は無効であるという規律になっています。
貸金以外の債務を保証するものとしては、賃貸借契約や、最近で言えば介護施設の入所契約、病院の入院の契約などで保証人を求められることがあります。不動産賃貸借契約では極めてポピュラーですが、これなども根保証ということになります。ですから、今後の実務で不動産賃貸借契約を結ぶときに保証人の定めがあるのに極度額の定めがない場合、その保証契約は無効ということになります。ここは十分ご留意いただきたいと思います。
元本確定事由(改正法465条の4)
個人根保証(原則):
①保証人財産の強制執行・担保権実行
②保証人の破産
③主債務者又は保証人の死亡
貸金等債務を主債務に含む個人根保証:
④主債務者財産の強制執行・担保権実行
⑤主債務者の破産
極度額のほかにも元本確定事由の一部について賃金等債務を主債務とする個人根保証の規律は個人根保証一般に拡張されています。どの部分が拡張されたかというと、保証人の財産に対する強制執行や担保権実行がなされた場合、保証人が破産した場合、主債務者又は保証人が死亡した場合に元本確定事由になるという部分です。
一方、現行法上の貸金等債務を主債務とする個人根保証においては、主債務者の財産に対する強制執行・担保権実行や、主債務者の破産も元本確定事由になっていますが、この2つについては個人根保証一般に拡張されることにはなりませんでした。なぜかというと、主として先ほど典型例として挙げた不動産賃貸借契約を想定したときに、例えば賃借人が強制執行を受けたということがあったとしても、賃貸借契約がそれで当然終了するわけではありませんので、賃貸人としては貸し続けなければなりません。にもかかわらず、主債務者に対する強制執行を元本確定事由としてしまうと、強制執行等が賃借人に対してなされた場合、保証人はその後外れてしまいます。そのときまでに発生した債務はもちろん保証するわけですが、それ以降に発生した債務は保証しないという、無保証状態になってしまうわけで、それは賃貸人にとって酷だろうということです。あるいは賃借人が破産した場合も同様ですが、破産したからといって賃貸借契約を当然終了させるわけにいかないので、貸し続けなければならない場面があるということを考慮してのことです。
もっとも、多くの賃貸借契約書には、賃借人が破産した場合や、強制執行を受けた場合には解除できるという規定がほぼ例外なく入っています。契約書に従えば解除できるのではないかと見る向きもあるかもしれませんが、借地借家法、消費者契約法等の観点もありますので、仮に約定でそういう解除事由を定めていたとしても、常にその解除権が有効に行使されるかどうかは、これは一概には言えません。そういう約定があっても、なお解除できずに賃貸人が貸し続けなければならないという場面が想定されるので、そういうことを勘案して、前述1(2)④⑤のところは拡張し なかったということです。
(3)法人保証人の求償権の個人保証
(改正法465条の5)
法人根保証において極度額の定めがないとき
⇒ 保証人の求償権についての個人保証契約は無効
貸金等債務を主債務に含む法人根保証において、元本確定期日の定めがない場合又は契約から5年以上後の期日の場合
⇒ 保証人の求償権についての個人保証契約は無効
次の法人根保証の求償権の個人保証というのは、いわゆる保証会社が法人として保証をする場面ですが、実務上、法人が保証する場合には、法人が保証履行に応じたときに発生する求償権について個人保証を求めるということがあります。そのため、法人保証人の求償権の個人保証についても、今申し上げた規律が全て適用されることになっています。もちろんこのような趣旨の規定というのは現行法にもありますから、そういう意味では目新しいものではないですが、拡張された部分も含めて法人保証の求償権の個人保証にそのまま適用されるということです。

2、保証人保護の方策の拡充

(1)個人保証の制限
(改正法465条の6、465条の9)
「事業のために負担する貸金等債務」の個人保証(根保証を含む)をするとき、保証契約締結前1か月以内に
【原則】公正証書によって以下の方式による保証債務履行意思の表示が必要
①主債務に関する所定の事項を公証人に口授(元本・利息・違約金・損害賠償その他の債務についての履行意思)
②公証人による口授の筆記と読み聞かせ
③保証人となろうとする者の署名捺印
④公証人の署名捺印
【例外】以下の者は公正証書による意思表示不要
①法人たる主債務者の理事・取締役・執行役・これらに準じる者
②法人たる主債務者の総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
③個人たる主債務者と共同して事業を行う者又は事業に現に従事している主債務者の配偶者
※個人の求償権保証についても同様(改正法465条の8)。
次に、個人根保証の規律の拡張のほかに、保証人保護の方策として、個人保証そのものを一般的に制限しようという議論がなされました。最終的にその制限の対象になったのは、事業のために負担する貸金等債務の個人保証というものです。ここで言う個人保証には通常の保証のほかに根保証も入ります。事業のために負担する貸金等債務を主債務として個人保証人を求めるという場面が社会問題化した典型的なケースになるわけですが、このような保証を求める場合には、今後は原則として保証契約を締結する前1か月以内に公正証書によって一定の方式による保証債務の履行意 思の確認手続を行うことが求められています。
具体的な方式というのは前述2(1)に記載したとおりですが、これによって保証の重要性や責任の重大性を十分自覚することなく、軽率に保証契約を結んでしまうことを防止しようというのがその趣旨です。ただ一定の例外があって、一言で言えば、経営者が保証するような場合です。会社が融資を受けるときに、社長個人が個人保証をするというのは、中小企業においてはポピュラーですが、そのような場合には別に軽率に保証するわけでも、重要性を理解しないで保証するわけでもないので、そういう場合にまで、このような手続を踏ませる必要はないだろうというのは納得のいくところでもあります。
ただ実際に行われている保証の当事者は、社長のような立場の人ばかりではなく、その会社なり事業に一定の関与をしている様々な人であり、どこまで、この保証債務の履行意思確認の手続を踏ませるべきかというのは、なかなか線引きが難しいところです。最終的には形式基準といいますか、客観的に当てはまるか、当てはまらないかを判断しやすい基準で例外を画するということになりました。
もっとも前述の2(1)①②は比較的、客観的な判断がしやすいわけですが、③あたりになってくると、これは主債務者の方も個人の場合ですが、その個人と共同して事業を行う者というのが、どういう関係にあれば共同事業者になるかというのは、やや不透明な部分が出てきます。そういう当てはめの難しさもさることながら、軽率にではなく、頼まれたから断りきれず保証人になってしまうケースもままありますが、断りきれずになってしまう人をどうやって救うかというのは、なかなか難しいところです。
(2)契約締結時の情報提供義務
(改正法465条の10)
「事業のために負担する債務」の個人保証(根保証を含む)を委託するとき、以下の情報を提供しなければならない。
①財産及び収支の状況
②他の債務の有無・額・履行状況
③他の担保の有無・内容
説明せず又は事実と異なる説明をしたことを債権者が知り又は知り得たとき
⇒ 保証契約を取消し可
次に、新たに設けられたのが情報提供義務の規律です。まず契約締結時に課せられる情報提供義務があります。事業のために負担する債務について個人保証を委託するときには、債務者の財産状況に関する情報を保証人になろうとする者に対して提供しなければならないという規律です。そういった情報について説明しない、あるいは間違った説明をしたということがあった場合、そのことを債権者が知り、又は知り得た場合には、保証人は保証契約を取り消せるという非常に強い効果を認めています。
当初は保証人と保証契約しようとする債権者に情報提供義務を課そうという提案がなされました。しかし、必ずしも債権者が債務者の財産状況を把握しているとは限らないため、義務まで課すのは不合理ではないかということで、最終的には主債務者の義務としてこのような情報提供義務を定めました。
ただ、今、申し上げましたように、情報提供義務自体を負うのは主債務者ですが、きちんとその義務を果たさずに、説明をしなかったり、事実と異なる説明をしたりしたというときに、債権者がそのことを知っていた場合、あるいは知り得た場合には、保証人の方から後日保証契約を取り消せるという非常に強い効果を与えましたので、債権者としても債務者がちゃんと説明をしたのかどうかということに無関心ではいられないという仕組みになっています。
そういう意味では、債権者の義務ではないですが、債権者としては保証人を求めるのであれば、そのような情報提供が主債務者から保証人に対してなされたかどうかということをきちんと確認しないと、安心して融資ができないということになろうかと思います。事実上、債権者にも義務を課したことに近いような状況をつくり出していると言えるかと思います。
(3)契約締結後の情報提供義務
(改正法458条の2、458条の3)
〔委託保証人の請求があったとき〕
債権者は、委託保証人(個人保証人に限られない)に対し、元本・利息・違約金・損害賠償その他の債務についての不履行の有無・残額・期限の到来している額に関する情報を提供しなければならない。
〔期限の利益を喪失したとき〕
債権者は、個人保証人に対し、期限の利益喪失日から2か月以内に、その旨を通知しなければならない。
違反したとき⇒その後通知したときまでに生じた遅延損害金の保証履行を請求不可
それから次は、契約締結後の情報提供義務です。1つ目の義務としては、委託を受けた保証人から請求があったときが前提になりますが、債権者は委託保証人に対して履行状況について情報提供をしなければならないということです。
ここでは主債務者が負っている債務がどういう債務かということは特に限定していませんので、適用範囲は非常に広いです。あえて言えば、委託を受けた保証人という限定はありますから、無委託の保証人には適用されませんが、およそ委託を受けて保証人になった場合には全ての保証契約に適用されます。更に言えば、個人保証のみならず法人が保証した場合でも適用されますので、非常に適用範囲が広い規律になっています。
それからもう1つは、これは個人保証に限定していますが、期限の利益を喪失したときの情報提供義務です。債権者は個人保証人に対して、期限の利益喪失日から2か月以内に、期限の利益を喪失したという事実を通知しなければならないという規律です。この規律に違反しますと、実際に通知をするまでに生じた遅延損害金について保証履行請求ができないという効果を与えています。
以上が保証人保護の観点から定められた規定で、従来はなかった新しい規律ということですが、どの条文がどの保証契約に適用されるのか、個人保証だけで考えてもかなりのバリエーションがあります。主債務が事業のために負担する債務かどうか、あるいは事業のために負担する貸金等債務かどうかなどで、適用場面が異なってきますので、適用関係を十分注意していただく必要があろうかと思います。

4、定型約款

1、定型約款の定義(改正法548条の2第1項)

定型約款:「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」
定型取引:「①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、②その内容の全部又は一部が画一的であることが、その双方にとって合理的なもの」
⇒ 相手方の個性に着目した取引(労働契約等)は該当しない
⇒ 一方当事者において契約内容を画一的に定めることの合理性が一般的に認められている取引でなければならない
交渉を行うことが想定されている取引は、交渉力の格差によって画一的となっていたとしても該当しない。
今回の改正により定型約款という全く新しい約款に関する規律が民法に持ち込まれました。学者の方々は、これだけ世の中、社会に約款と呼ばれるものがたくさんあって、それが1つのルールになっている以上、約款に契約としての拘束力が認められるための根拠規定が必要だということを強く主張されました。弁護士会ももちろんそれはあってしかるべきというスタンスでしたが、経済界からは非常に強い反発があって、そんなものは不要だ、あるいは少なくとも事業者間の取引に適用するようなものにはしないでほしいということを強く主張されました。最後の最後まで議論が続いてようやく意見がまとまって、民法に明文化されることになったという経緯があります。問題は中身ですが、強い反発があったということもあって、そもそも民法で規制する約款というのは何を指すのか、約款の定義をどうするのかというところから散々議論をしました。その結果、定型約款という新しい概念も生み出されました。その趣旨はおよそ約款全てではなくて、定型約款という一部のものだけを民法の規制対象にしようということで、定型約款という概念をつくり出して、次のような定義をいたしました。
「定型取引において契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体」、これを定型約款と名付けています。そして、「①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引で②その内容の全部又は一部が画一的であることが、その双方にとって合理的なもの」、これを定型取引と定義付け、そういう定型取引において契約の内容とすることを目的として、その特定の者によって準備された条項の総体を定型約款と呼ぶことにしました。そうすると、世の中にある約款のうち、どれがこれに当たるかということが重要な問題になるわけです。典型的な約款と呼ばれるものはおおむね当たるだろうと言われていますが、しかし具体的に見ていくと、当たるか当たらないか、微妙なものも少なくないと言われています。この点の解釈として、定型取引の定義の前段の「不特定多数の者を相手方にしている」というのは、契約の相手方の個性に着目しない取引を想定しているという趣旨であって、相手方の個性に着目している取引はこれに当たらない、こういう解釈が法務省の立案担当者からは出されています。具体例として、労働契約などは契約の中身自体は概して似たようなものですが、誰と契約するかという点ではやはり人を選んでいるので、それは不特定多数を相手とする契約にはならないという説明がなされました。労働契約に限らず相手方を選んでいるような契約は外れるということです。
それから「全部又は一部が画一的であることが、その双方にとって合理的なもの」ということが何を意図しているかというと、もちろん内容が画一的であるということは前提ですが、「その双方にとって」というところがポイントです。交渉などをせず、契約条項は画一的に決まっていることが前提で、かつ、そのように画一的に定めることが、双方にとって合理的であることが要件になっています。
例えば力関係の強い人が、うちはこの内容でないと契約しないと言って、弱い相手に契約内容を押し付けるとします。その結果、非常に画一的な契約書が用いられるということはままあるわけです。貸主、借主などにそういう関係がある場合、例えば、賃貸借契約書には一言たりとも手を付けないでください、それが嫌なら契約しませんと貸主が言う場合、こういう場合は貸主にとっては合理的でしょうが、借りる方は本当は交渉したいこともあろうかと思います。ですから、力関係で結果的に画一的になっているというのは、これには当たらないのです。該当するのは、どちらにとっても、最初から決めておいてもらった方がありがたいという場面です。この辺が実際に当てはめるときにメルクマールになって、定型約款に当たるかどうかが判断されるのだろうと思います。

2、みなし合意の要件(改正法548条の2第1項)

①定型約款を契約の内容とすることを合意したとき、又は、
②定型約款準備者があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき 定型約款の個別条項を合意したものとみなす。
⇒ 定型約款に拘束力を生じさせるためには、少なくとも、定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示することが必要
【例外】(同条2項)
「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則(信義則) に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」
※不当条項・不意打ち条項の排除(消費者契約法違反・公序良俗違反とは別の規律)
どういう場合に定型約款が契約内容になるかというのが、みなし合意の要件です。定型約款を契約の内容にしましょうという当事者の合意があるときは分かりやすいです。定型約款を一方が準備しておいて、これから結ぶ契約ではこの約款を契約内容にしましょうと言い、もう一方が同意すれば、それは当然契約の内容になります。しかし、そうではなくて、一方が相手方に対して、あらかじめ定型約款を契約内容にしますということを一方的に表示しているだけでもよいということになっているのです。ですから、別に相手方の了解がなくても、一方的に契約の内容にすることをあらかじめ表示していれば、契約において定型約款の個別条項が合意されたものとみなされるという効果が与えられます。
ここで注意していただきたいのは、「あらかじめ表示をする」というのは、「定型約款を契約の内容とすること」が表示されていればよく、必ずしもその中身が表示されている必要はないということです。つまり、定型約款は、条項の総体ですから、個別の条項が並んでいるのですが、必ずしもその一つひとつがあらかじめ表示されている必要はないということです。従って、パッケージ(固まり)としての約款を契約の一部にしましょうと一方的に表示されている場合でも、約款がみなし合意という形で契約の内容になるわけですが、例外があります。必ずしも一つひとつの条項を表示せずとも契約に取り込まれるということですから、結果的に不当な条項が紛れ込む可能性もあります。不当とまでは言えないまでも、およそ想定していないような条項、不意打ちとなるような条項が入っている場合もあり、その場合は排除しなければいけないだろうということです。
1つ留意点を申し上げると、不当条項が紛れ込んでいた場合には、その効果は合意をしなかったものとみなすということであり、無効という効果とは微妙に違います。今、申し上げた規律の表現というのは、消費者契約法10 条に非常に酷似した表現になっていますが、消費者契約法10条は無効という効果です。しかし、本条項では「合意しなかったものとみなす」という文言なので、少し違う規律になっています。
ただ注意していただきたいのは、合意をしなかったものとみなされるのは、不当な条項や、不意打ち条項など、問題のある条項だけであり、約款全体が取り込まれないということではないということです。そこはご注意いただきたいと思います。

3、内容の表示義(改正法548条の3)

定型取引合意前又は定型取引合意後相当の期間内に開示請求があった場合のみ
正当な理由なく定型取引合意前の開示請求を拒むと合意が擬制されない。
※合意後の開示拒否は、損害賠償の対象となり得る。
次に、内容の表示義務が規定されています。先ほどみなし合意の要件としては、個別の条項自体が表示されている必要はないということを申し上げましたが、そういう意味では内容の表示というのはみなし合意の要件ではないです。ただ、定型取引の合意前、あるいは定型取引合意後であっても、相当の期間内に相手方から条項の内容を見せてくださいと、開示の請求があった場合には、それを正当な理由なく拒んではいけません。ですから、請求がなければ別に何もしなくていいが、内容を見せてほしいと言われたときに限って見せなければいけないということです。
定型取引合意前に開示請求があったにもかかわらず、それに応じなかったということになると、合意擬制は働かないという効果が与えられています。ですから、契約そのものが成立しないわけではなくて、約款が取り込まれないという効果になるわけです。定型取引合意後の開示請求を拒んだ場合はどうかというと、これは定型取引合意をしていますから、合意自体はあるということで、そこは変わらないですが、しかし義務に違反しているということですから、そのことと因果関係のある損害が発生すれば損害賠償の対象にはなるだろうという解釈がされています。

4、定型約款の変更の要件(改正法548条の4)

(1)実体的要件
以下のときに、定型約款準備者は、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき、又は、
②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
定型約款の変更の要件ですが、変更の要件は実体的な要件と形式的な要件とに分けて規定されています。より重要なのは実体的な要件の方です。一定の場合に約款を契約後に変更したいというニーズがあろうかと思いますが、先ほど定義のところで申し上げたように、約款を使った取引というのは不特定多数を相手にしていますので、契約の相手方一人ひとりから変更の合意を取り付けるということは現実的には不可能です。かといって、約款の変更を一切認めないというのも非常に使い勝手が悪いということで、一定の要件を満たした場合には事後的に約款の内容を変更できるという規律を設けています。
どういう場合にそれが許されるかということですが、その一つは、定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するときです。つまり、約款の適用を受ける相手方にとって有利な変更、利益になるような変更なので、これは文句はないでしょうといえます。後から変わっても文句を言う人はないでしょうということで、利益に適合するときにはその約款を作った人の方で変えることができます。
問題は利益とならない場合、どちらかというと不利益になるような場合、この場合であっても一定の場合には許容されるだろうということで、その要件が前述4(1)②です。変更が契約をした目的に反しないということと、変更の必要性、それから変更後の内容の相当性、あるいはこの条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無、内容、その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときです。端的に言えば契約目的に反しなくて合理的であれば変更することが可能とされています。
少し注意をしていただきたいのは、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無とその内容という点ですが、定めがなければいけないと言っているわけではなくて、あるとしたらその内容がどうなっているかということも勘案しましょうということです。変更の定めがあれば、いわば予告をしてあるという意味では変更が認められやすくなりますが、しかし必ずしもなければいけないということでもありません。また、あるか、ないかだけではなくて、その内容、例えば変更の可能性があることに加え、契約解除したい場合は解除できることなど、そういう相手方に対する手当てがなされているかどうかということも総合的に勘案して、合理的な変更の定めかどうかを判断しましょうということです。
(2)手続的要件
定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
定型約款の変更(相手方一般の利益に適合するときを除く)は、効力発生時期が到来するまでに前項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
それから手続的な要件については、変更の効力発生時期をきちんと定めて、いつから、どのような変更になるかということをインターネット、その他の適切な手段で周知しなければならないということです。こっそり変えるのではなく、きちんと周知した上で変更するのであれば、それは認めましょうということです。
○施行日前に締結された定型取引に係る契約についても適用。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない(改正法附則33条1項)。
契約当事者の一方(解除権を現に行使できる者を除く。)により反対の意思表示が書面(電磁的記録を含む)でなされた場合には、不適用(同条2項)。
ただし、反対の意思表示は、施行日前にしなければならない(同条3項)。
最後に経過措置ですが、定型約款については例外的な規定がありまして、施行日前に契約が締結された場合でも、原則としては定型約款の規定が適用されます。遡及的に適用されるという意味では、経過措置の規定としては非常に例外的ですが、早くこの規律を世の中にあまた存在する約款に当てはめるべきだということで、原則としては遡及的に適用されます。ただ旧法の規定によって生じた効力を妨げないということや、契約当事者の一方が反対の意思を書面で表示した場合には遡及適用はないというような手当てもなされています。ただし、その反対の意思表示は施行日までにしておかなければいけないことになっています。

(次号へつづく)