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これからのオフィスのあり方

法律事務所のオフィスと聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。皆さんが抱いているイメージはおおむね共通で、その考え方は、数十年前からそれほど変化がないのではないでしょうか。そんな古典的、典型的なオフィスが多数を占める法律事務所のオフィスですが、オフィスを変えることは働き方改革にもつながるものです。また、スペースの無駄を省き、コストの削減を図ったり、創造性を高める内装を取り入れることで、作業の効率化や質の向上も生み出すことができます。今回はそんなオフィスづくりのこれからを考えるべく、「これからのオフィスのあり方」と題して、先進的な工夫を凝らしている新日鉄興和不動産株式会社のオフィス、コクヨ株式会社と考えるこれからのオフィス案、シェアオフィスの実情、ノマドワーカーの実情を取材してきました。皆さんのオフィスも少し変えてみませんか?

最新オフィス訪問 ~2018年日経ニューオフィス賞受賞~新日鉄興和不動産株式会社

オフィスづくりに懸ける意識において、法律事務所は一般企業にまだまだ大きく遅れをとっているのではないかと思います。今回は、数ある企業の中でも、2018年3月から新オフィスに本社移転したばかりで、同2018年に日経ニューオフィス賞を受賞した新日鉄興和不動産株式会社(以下「新日鉄興和不動産」)の本社オフィスを訪問し、最新のオフィスではどんな工夫が凝らされているのかを見せていただきました。(なお、このオフィスには、1日10社もの企業が見学に来られるそうです!)
一つひとつはどんな法律事務所でも導入可能な発想や取組みです。最新オフィスを参考に、働き方を変えるべく、現在のオフィスにメスを入れてみませんか?(編集部)

新オフィスのコンセプト

新日鉄興和不動産は、2012年に興和不動産株式会社と株式会社新日鉄都市開発が合併して誕生した会社です。旧本社ビルはフロアが9 つに分かれていたため、部門を超えたコミュニケーションが大きな課題でした。
そこで、2016年に開発中であった自社の旗艦ビル「赤坂インターシティAIR」への本社移転を決め、フロアを2つに集約し、「move(動く)」をコンセプトに、社員が自由かつ自立的に「動く」ことで部門の垣根を越えた連携が生まれるオフィスを目指し、その設計に取り組みました。

フリーアドレスとABWの導入・トライアル

まず上記のコンセプトを実現すべく導入したのが、フリーアドレスとABW*1です。しかし、これまでは固定席制を設けており、どの社員も自席の机の上や下に書類を山のように積み上げて...という両制度とは程遠い状況であったため、導入には不安もありました。そこでまずは、旧オフィスで60名の社員の協力の下、トライアル運用を実施し、課題の把握と解決方法の検討を行いました。
上記を経て、フリーアドレスについては、導入するかどうかの判断を各部門に任せる形をとりました。結果として、現在では全体の約7割がフリーアドレスを導入するに至っています。
執務スペースはこのように、机の向きを縦横互い違いに配置しています。それぞれの机は昇降式になっており、気分によっては立って仕事をすることもできます。
懸念していた書類の点も、今ではすっかり慣れ、退社時には皆キレイに机上を片付けて帰っています。ルールが変われば、人も変われます。

働き方に応じて選べる環境の提供

執務スペースを囲む窓際には、LOOPと呼ばれる廊下を敷いています。
LOOPには、様々なパターンのワークスペースが設けられており、集中したいとき、コミュニケーションを取りたいとき、打合せをしたいときなど、仕事のスタイルにあった場所を選択することができます。
前日と同じ席に座るのも自由、毎日席を変えるのも自由というのが本来のフリーアドレス制であり、人とコミュニケーションを取って成果を得たいと考える社員には、それを可能にする環境を会社が提供することが重要と考えています。

コミュニケーションツールの改革

ABWの円滑な運営には、モバイルワーク環境の整備が必須です。
そこで、社員には会社用携帯を支給しました。社内のちょっとした伝言や情報共有はLINEを利用することとし、これにより社内での電話やメールによる連絡の手間が省かれました。
また、社外からの電話も直接携帯に掛けてもらうようにし、名刺交換をした方の会社名・氏名が携帯に表示されるようにしたため、誰から掛かってきたかがすぐに把握できるようになりました。これにより、離席中の伝言メモの作成事務がなくなりました。
社員が誰と名刺交換したか分かるよう、名刺の一括管理サービスも導入しました。それにより、属人的であった各社員の人脈を、会社全体で共有、活用できるようになりました。

書類の整理

スペースを有効利用し、フリーアドレスを推し進めるためにも、書類の整理は大きな課題でした。不動産業は、業態的にどうしても書類が多くなってしまうのですが、移転前に、まず現存する書類を全て確認し、必要なものとそうでないものに仕分をしました。これにより、7割もの書類の削減ができました。
また、会議で使用する書類はファイル共有システムにPDFで保存することとし、会議室や打合せスペースにはモニターを置くことで、会議のペーパレス化を徹底しました。
保管が必要な書類も、すぐ必要になるもの以外は外注倉庫を活用することで、社内の書類を可能な限り減らすよう努めています。外注でもお願いすれば翌日に届けてもらえる時代ですので、不便はありません。必要な書類も、各人が保有するのではなく、格納庫にまとめて保管しています。
結局紙で保有するということは、所持している人限りの情報の属人化につながりますが、整理を徹底することで、スペース活用や仕事の効率化に加え、情報共有も可能になりました。

会議室

部署の垣根を低くすべく原則社内の打合せは、オープンスペースで行うこととしましたが、社外の方との会議用には、個室の会議室を設けています。移転前に実態調査をしたところ、4人以下での会議が7割を超えていることが分かったため、定員4 〜 6名程度の小さな個室を多めに作っています。壁(間仕切り) を移動することにより大人数の会議や勉強会に対応可能な会議室もあります。
会議室は予約制としていますが、開始予定時刻を15分過ぎても入室がなければ、自動的に予約が取り消されるようになっています。また、会議終了時刻を過ぎてもダラダラと利用を続ける人がいるという声に応えて、終了時刻の5分前と1分前にはチャイムが鳴るようにしています。

オフィス移転による変化

オフィスを移転したことで、各人の仕事のパフォーマンスも向上し、オフィスに活気が生まれました。移転後のアンケートでも、今のオフィスに満足しているとの声が9割を占めました。
また、フリーアドレス導入後、上司部下が互いの情報共有のために努めて対面で話をする時間を設けるようになった結果、今まで、近くに座って同じ空間にいることでコミュニケーションは取れていると考えていたことが、実は錯覚だったことに改めて気付かされました。定例の打合せも、取り上げる議題や時間配分、進め方などを工夫し、効率的に行うようになったと感じています。
少子高齢化で不動産市場が縮小していく中、これまでの古いやり方にしがみついていては立ち行かないと思います。オフィスを変えることで、社員の働き方改革を促し、部署の壁を越えたシナジーを発揮することで、存在感のあるデベロッパーとして、これからの時代に立ち向かっていきたいと思っています。

実際に訪れるまでは、フリーアドレス制というと、少々ガヤガヤしているイメージでしたが、話をするときは、テーブルスペース等を選択しているためか、このオフィスの執務スペースは意外にも静かでした。個人の仕事が重要となる法律事務所も、案外導入に向いているのではないかと感じました。(編集部)

新日鉄興和不動産株式会社とは
従業員数497 名( 2018年3月31日現在)。本社規模5,175m²。「人と向き合い、街をつくる。」を企業理念とし、都心のプライムエリアでの「インターシティ」シリーズを代表とするオフィスビルの開発・賃貸や外国人向けの高級賃貸マンション「ホーマット」シリーズ、「リビオ」シリーズに代表される分譲マンション開発に強みを持つ総合デベロッパー。

コクヨ株式会社監修 一歩先のオフィス

企業のような先進的なオフィスづくりに憧れはしても、実際のところ、実用性を備えつつ、限られたスペースの中で、オフィスをより良くするために行動を起こすハードルは高いのではないかと思います。
そこで、先ほどご紹介の新日鉄興和不動産株式会社のオフィスエリアを手がけた、コクヨ株式会社(以下「コクヨ」)監修のもと、手が届く範囲で、従来のオフィスからもう一歩だけ先を行くオフィスとしてどのようなものがあるのか、編集部で考えてみました。弁護士2、3名、90m²程度の広さの事務所を想定しています。あなたのオフィスにも、どれか取り入れてみてはいかがでしょうか?

執務スペース

弁護士も事務局も外出が多いのであれば、固定スペースに無駄に費用をかけるより、柔軟に利用可能なスペースづくりを検討してはいかがですか。
席を固定しない、フリーアドレス制を取り入れ、気分によって席を選べるようにすると、これまでに無かった柔軟な発想や、より良いコミュニケーションが生まれるかもしれません。
フリーアドレス用のデスク(写真はコクヨ・WORKFITシリーズ)を利用すれば、オフィスの形に合わせて、フレキシブルに配置を決めることができます。

キャスター付きなので、勉強会や少し人数の多い会議、それぞれで仕事をしたいときなど、用途に応じて配置を換えることも自由自在です。
また、オフィスづくりとはやや離れますが、コクヨから長時間座ってばかりの皆様に是非お勧めなのが、人の動きに合わせて、座面が360 °グライディングするオフィスチェアー「ing(イング)」です。まるでバランスボールに乗っているかのように、身体の動きに合わせて座面が動き、実際に座ってみると良い姿勢が保たれました。肩こり、腰痛になりにくそうな上、脳の血流も良くなり、起案もはかどりそう!?早速、広報室長も購入したそうです。

リラックススペース

仕事には緩急が重要です。植栽も配置して、しっかりと休息することができるリラックススペースを置くことで、気持ちの切替えが可能になり、その後の仕事もより効率的に進められるはずです。
執務スペースと高さの違う、まるでカフェのようなカウンター(写真はコクヨ・リージョンアジャスタブルカウンター)を設置することで、目線の高さが変わり、気持ちをリフレッシュさせることができます。また、立っている人と同じくらいの高さになるので、話し掛けられやすくなり、自然と会話も弾むはずです。

応接室

依頼者との面談には、応接室が欠かせません。秘密保持義務をしっかりと果たし、安心してご相談いただくためには、従来のオフィス同様、しっかりと四方を壁で囲まれた個室の設置が必要です。
しかし、そんな応接室にも工夫が可能です。まず、ホワイトボードです。可動式のホワイトボードは場所を取るし設置場所を選ぶので、不便なところが多かったと思います。しかし、壁面に貼れるシート型のホワイトボード(写真はコクヨ・マグボ・マット)であれば、スチール面のどこにでも貼れて、移動や貼り直しも可能です。壁と一体感があるので、使用しないときでも、見た目に邪魔になりません。
また、マグネット式で簡単にボードに取り付けられるマーカートレーは開閉式で、乱雑になりがちなホワイトボード周りをきれいに整頓できます。
次に、仕切り方でも空間の印象は大きく変わります。密閉されたただの壁ではなく、応接室内のプライバシーも保護しつつ、閉塞感のない空間にするためには、間仕切りの一部をガラスに変更してみてはいかがでしょうか(写真はコクヨ・プランナーウォール)。狭い空間も広く見せられます。


応接兼執務スペース

弁護士が複数いれば、応接室も複数設けておく必要があるでしょう。しかし、来客の予定がない日も応接室を空けておくのはもったいないことです。
そこで提案したいのが、急な応接にも執務スペースにも使えるよう、間仕切りを利用せずに、個室と非個室の中間的な空間を作り出すという形です。
例えば、下の写真のような遮音効果のある、背の高いブース(写真はコクヨ・bracketsシリーズ)を利用すれば、周囲の音も視線も適度に遮断でき、相手との距離も近いので、通常の応接室よりも、より深い議論や会話を生み出せそうです。一人で集中したいというときに利用すれば、周りと遮断された空間で、自分だけの世界に入って仕事もはかどりそうです。
深刻な相談の場合やもっと集中したいときには、可動式のホワイトボードスクリーンを利用して、入り口部分に更に遮蔽を置くことも可能です。
いきなりガラリとオフィスを変えることはできないという方も、より良いオフィスづくりのために、なにか一つでも取り入れてみると、働き方にもおのずと変化が生じるのではないでしょうか。

コストを抑えて独立開業!「シェアオフィス」という選択

最近、独立開業する比較的若手の先生の中には、「シェアオフィス」を選択する方が増えてきています。一言でシェアオフィスといっても様々な形態がありますが、ここで紹介する、仕切られた固有スペースを賃借しつつ、会議室や談話室は、ほかの利用者と共有するという形態は、特にコストを抑えて独立開業しようという弁護士には、持ってこいの選択といえそうです。開業するためには、会議室と、執務室を設けられる広さの事務所を借りて...、勤務弁護士としてウン百万円の初期費用をためて...、という従来の考え方は、もう古いかもしれません。一昨年、シェアオフィスにて独立開業し たばかりの、当会会員、周藤智先生(STO法律事務所)に、シェアオフィスの良いところ、悪いところを、率直にお話しいただきました。(編集部)


周藤先生(右)と周藤先生の大学の同級生で事務局長の岡野さん(左)

Q シェアオフィスを選択したのは、なぜですか。

A やはり一番大きいのはコスト面です。独立を決めたのち、いくつかのオフィスを見て回ったのですが、通常の賃貸となると、保証金等初期費用だけでも300万円以上、それに加えて内装費などもかかってしまうとのことでした。
他方、シェアオフィスは、入会金が数十万円かかりますが、月々の利用料も10万円前後で済む上、固有スペースの椅子や机も備え付けてあり、初期費用を格段に安く抑えられるということでしたので、シェアオフィスに決めました。独立間もない時期は、どれくらいの収入が見込めるかなど、不確定な要素が大きいので、これは大変大きなポイントでした。

Q 今のオフィスに決めたポイントは何ですか。

A 今や数多くのシェアオフィスがありますが、その中でも、インターネットの有 無、ビルの新しさ、執務スペースの広さ、金額面、お茶出しのサービスの有無、セキュリティの程度等々、オフィスによって本当に様々です。所属する法曹会の関係から立地は台東区に絞って考えていたのですが、その中でも、裁判所へのアクセスの良さ、コスト面、ビルの新しさを重視してこのオフィスに決めました*2。当オフィスは、電話や来客 の受付サービスはありませんが、月々の利用料の中に、インターネット代金、電気・水道代も含まれており、自分で支払うのは電話代ぐらいで、月々の出費はかなり抑えられています。

Q ほかの利用者との交流はありますか。

A 現在、当オフィスには、企業のほか、税理士事務所、行政書士事務所、司法書士事務所なども入っており、入居前はそれなりの交流を期待していたのですが、今のところ、全然できていません(笑)。
ほかのオフィスでは、交流のイベントが開催され、利用者間での交流を深めてビジネスにつなげているところもあるようですが、当オフィスではそういったものはなく、現状、すれ違いざまに挨拶をする程度になってしまっています。せっかくのチャンスなので、これからどう交流を図っていくかが課題だと考えています。シェアオフィスを選ぶ際には、そういったところもチェックすると良いと思います。

Q 共用スペースはどのように利用していますか。

A 当オフィスには、会議室と談話スペースがあります。談話スペースは、出版社との面談等、機密性が問題とならない面談の際に利用しています。 依頼者との打合せの際は、やはり個室でないと話しにくいと思いますし、内容も機密性が高いので、会議室で面談しています。シェアオフィスによっては、会議室も簡単な仕切りがあるのみで、壁の上部が空いているようなところもありましたが、やはり壁でしっかり囲われたスペースでないと話しにくいのではないかと思います。 会議室利用の際は、あらかじめ予約をして、1時間当たり600円を別途支払っています。特に予約が埋まっていて困ったということはありませんし、600円が別途かかっても、普通の賃貸借をするよりは断然安いので、特に気になりません。会議室の収容人数は、6人までですが、人数が増えた場合は、依頼者の事務所や会社に出向いて面談しています。
会議室の利用料も、オフィスによっては、1 時間で7,000円かかるというところもあるようです。1時間の法律相談をしても、ほとんど収益が残らないということにもなりかねませんので、別途の料金がどのくらいかかるのかは重要な視点だと思います。

Q シェアオフィスを利用していて何か困ることはありますか。

A 今のところ、特にありません。ビルの壁に自分の法律事務所名がドーンと掲げられるということはないので、その点は少し残念かもしれませんが、今はホームページを見て連絡を下さる方も多いので、不便は感じていません。依頼者からの見え方や対応においても、普通の事務所と異なることはないと思います。

Q シェアオフィスであるからこその配慮や工夫などはありますか。

A 固有スペースは非常にコンパクトで、机と椅子、卓上型のプリンター兼コピー機と本棚が置いてある程度です。執務スペースと隣の部屋との距離も必然的に近くなり、電話の声が漏れる危険性は、普通の事務所よりは高いと思います。そこで、できる限りメールを用いたり、電話をする際にも、個人名を出さずに、「相手方」「本人」としたり、所内では案件名に通称を付けるなどの配慮をするようにしています。
また、どうしてもスペースに限界があるので、書籍類は事務所に置かず、弁護士会の図書館を利用するようにしています。
FAXは、メールに転送されるようにしているので、無用な紙の削減ができていると思います。事件記録も、PDF化を進めて紙の書類を減らしていかなければならないとは考えていますが、まだそれほど必要に迫られておらず、実現はできていません。

Q シェアオフィスをどういう方に薦めたいですか。

A 自分自身もそうでしたが、やはり一番のメリットはコスト面にあると思います。特に独立を考えていながら、コストのハードルを理由に諦めている方には、選択肢の一つとして、シェアオフィスも是非検討していただければと思います。

Q これからもシェアオフィスを利用する法律事務所は増えていくと思いますか。

A 私の弁護士登録時より格段に増えていますし、これからもますます増えていくと思います。
おそらく現在もなお、シェアオフィスに対してマイナスの印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、機密性への配慮はどこの事務所でも要求されるものですし、特にこれといったマイナス面は今のところ見当たりません。
私の経験を少しでも参考にしていただき、シェアオフィスへの理解がもっと広がるとうれしいです。

どこでもオフィス!「ノマド」な働き方

オフィス以外の場所で仕事をこなす「ノマドワーカー」が増えているのをご存知でしょうか。仕事はオフィスでするものという考え方は、もはや時代遅れかもしれません。喫茶店で気分を変えたり、常時使用するわけではない弁護士の固定席を有効に利用したり、無駄だった事務所への移動時間をなくすことができれば、コストを抑えつつ、もっと仕事を楽しく、効率化させることができるのではないでしょうか。
今回は、「ノマド」な働き方を取り入れて活躍中の、行政書士中田多惠子事務所の中田先生(http://nakata-souzoku.com/)、グラフィックデザイナーの山口さん(https://eri-y. com/)にお話を伺いました(以下、敬称略)。(編集部)

Q どういったスケジュールでノマドワークをされていますか。

中田 日中はほとんどお客様のところや金融機関等に出歩いているので、基本は事務所の外で仕事をして、夜はその日やり残したことを自宅兼事務所でやるという形が多いです。

山口 主な仕事はデザイン制作とお客様との打合せです。デザイン制作は、自宅兼事務所で集中して作業を行いたいので、週2日はこのために死守し、そのほかはお客様との打合せに外に出て、その合間時間に仕事をこなすようにしています。

Q 外のどういった場所で仕事をされていますか。

中田 カフェが多いです。ただ、大手のカフェは、隣の方との距離が近く、個人情報の問題があるので、写真のように仕切りがある、ゆったりとしたスペースのところを利用するようにしています。


中田先生。普段も利用しているOSLO COFFEE五反田駅前店にて

山口 同じく打合せやアイデアを考えたり、簡単な作業をしたりなどはカフェで行っています。他方、作業に没頭したいときには、漫画喫茶を利用することもあります。また、開業当初は、人脈を広げるために、コワーキングスペースを積極的に利用していました。

Q コワーキングスペースとはどういった場所でしょうか。

山口 「Co-Working」、共同で仕事をする場所という意味で、特にITやスタートアップの方など様々な業種の方が利用しています。勉強会や交流会なども開催されており、そこで知り合った方と仲良くなって、お仕事を頂くこともあります。
東京だとCo-EdoR、埼玉だと7F、横浜だとTANEMAKIやmass×massを利用したことがあります。
ほかの士業で利用している方の中には勉強会や相談会を設けて、仕事につなげている方もいらっしゃるようです。

Q 外で仕事をするにあたって工夫していることはありますか。

中田 個人情報の問題もありますし、外からいつでも記録を確認できるよう、普段から記録は全てPDF化して、クラウドに保存するようにしています*3。書類は置き忘れやのぞき見の危険もあるので、あまり持ち歩きません。また、事務所の書類も事件終了後にお客様にお返しするなど普段からペーパーレス化を心掛けています。
公共のWi-Fiは危険だと聞きましたので、利用せず、携帯からのテザリングでネットにつなぐようにしています。
また、万が一にも盗難等があっては情報の漏えいになりますので、お手洗いに行くときも、荷物は全て持っていきます。

山口 私も同様です。資料はクラウドに保存してあり、パソコンからも携帯からもいつでも見ることができるようにしています。

Q 電話やFAXはどうされていますか。

中田 事務所の電話を携帯にも転送するようにしてあり、またメールでも電話番号が確認できるようにしてあります。内容にもよりますが、込み入った話が多いので、基本はカフェにいるときは電話に出ずに、移動をする際などに、静かなところで折り返し連絡するようにしています。
FAXはさほど使いませんので、事務所に戻って確認、対応するといった程度です。

山口 私も同じです。いまやお客様とのやりとりはメールが主で、FAXは年に数回しか使いませんので、そもそも持っていません。

Q ノマドの利点は何でしょうか。

中田 外で色々な人と会いやすいということが利点だと思います。色々な人と会う時間を設けるには、やはり外に出て話をしなければなりませんが、その中で仕事をこなすには、ノマドワークなくして対応できないと思います。

山口 集中して作業するには自宅兼事務所での仕事も必要にはなります。しかし、デザイン制作には、創造力が必要になりますので、人と会って話をしたり、違う場所で視点を変えたりすることで、一人でこもっていては出てこない、良いアイデアを引き出せるという利点があると思います。

Q ノマドでは対応できない仕事はありますか。

中田 基本的には外でもほぼ対応できていますが、お客様からの込み入ったご相談や、遺言書類の調印などは、カフェでの対応がはばかられる場面があります。ただ、比較的若いお客様からは、かえってカフェを指定されることもあり、その点もお客様によりけりだと思います。


山口さん。打合せによく利用する渋谷ヒカリエ内FLOWERS Commonにて

山口 人によると思いますが、私は集中して作業する時間が必要なタイプですので、完全に外だけで仕事はこなせないと思っています。その点は、スケジュール管理をして、この日は外、この日は事務所と、うまく予定を組み立てることでバランスをとっています。

Q 将来的にもノマドの時間は増やしていきたいですか。

中田 外で仕事をしたり、色々な人に会ったりすることにより、多くの刺激がもらえます。現在は一人でやっていますが、ゆくゆくは、補助者に事務所にいてもらって、自分はノマドの時間を更に増やしていきたいと思っています。

山口 さきほどもお話ししたとおり、事務所での仕事を完全になくすことはできませんので、ノマドの時間と事務所で仕事をする時間をこれからも上手に使い分けていきたいと思っています。

Q せっかくですので、最後に、弁護士に向けて宣伝があればどうぞ(笑)。

中田 銀行への申請等、遺産整理業務のお手伝いや遺言執行の代理業務のお手伝いなどをさせていただくことが多いです。お困りの際は、ご用命いただければと思います。

山口 ロゴ、名刺、パンフレット等の制作のお仕事をしています。法律事務所からご依頼を頂くこともあります。制作や変更をお考えの方は、是非お問合せいただければと思います。

*1 アクティビティ・ベースド・ワーキングの略。フリーアドレスを更に推し進めた考え方で、時間と社内外の場所を、自らの働き方に合わせて選択できるワークスタイルを指します。オフィスだけではなく、カフェや自宅も気分に応じ働く場所の選択肢に含まれます。働き方改革を進める中で注目され、国内でも多くの企業が導入しています。

*2 シェアオフィスの利用に関する公的な規定等はありませんが、運用上、弁護士法第23条及び弁護士職務基本規程第23条の秘密保持の観点から、①執務場所が個室の空間でプライバシーが確保されていること、②郵便物や事件記録の保管等は秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないように施錠できるような環境で保管されていること、③電話番号・FAX番号は、個別(自身専用)に引いていることなどに留意の必要があるようです。シェアオフィスの利用に際しては、上記のほか、関係法令に反するところがないか、ご確認ください。

*3 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A、Q5-33によると、クラウドサービスの利用が、本人の同意が必要な第三者提供や委託に該当するかどうかは、クラウドサービスを提供する事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかが判断の基準となります。クラウドを利用するにあたっては、当該事業者の規約にて、個人データを取り扱うこととされているか否か、確認をする必要があります。