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花水木

河野 佑果 就職活動中に何度も面接担当の方から聞かれた質問に「どのような分野の仕事をしてみたいですか。」というものがありました。その当時は、他学部出身であったこともあり、どうしても「医療訴訟の仕事がしたい。」という強い気持ちで受け答えをしていましたので(それだけが理由ではないと思いますが)、「うちの事務所ではやりたいことはできないよ」との定型文でお断りをされ、就職活動に苦労した記憶があります。
今年で弁護士6年目を迎え、ふと今まで取り扱った事件を振り返ってみたところ、医療関係事件は2件であり、現在手持ちの事件に至っては1件もありませんでした。
では今の事務所の業務内容 に不満があるかというと、全くなく、むしろ日々充実しています。
事務所の業務は顧問先の対応が主なものですが、個人の方からの依頼も多く、離婚、労働、刑事から知財事件まで幅広い分野の業務が日々舞い込んできます。そのため、あるときはシステム開発の契約書を理解するために要件定義すら知らない状態から専門書を読み漁ってみたり、あるときは変額保険に関する訴訟を提起するにあたって保険の勉強をしがてら保険に加入してみたりと、様々な分野を学んでいます。常に新しい分野との出会いがあり、飽きることがありません。
加えて、新しい感情との出会いもあります。偽装結婚のあっせん容疑で逮捕された方の弁護を担当したことがあり、依頼者の方は一貫して無実を主張していました。周囲の方の証言等もあり、無事不起訴処分を得ることができ、依頼者の釈放に私も立ち会ったのですが、依頼者の方とご家族が泣きながら抱き合っているのを見て、生まれて初めてもらい泣きをするという経験をすることができました。
また、近隣トラブルを抱える方から依頼を受け、測量の立会いをしたことがあったのですが、相手方が測量とは無関係な事柄について理不尽な発言を繰り返したため、依頼者が声を荒らげてしまう場面がありました。通常であれば、依頼者をなだめるところなのですが、そのときはあまりに理不尽と感じ、私も依頼者と一緒に声を荒らげて怒ってしまいました。代理人として依頼者と一緒になって声を荒らげてしまったことを反省していたところ、その後和解の話になった際、依頼者から、「あのとき先生が一緒に怒ってくれたから和解してもいいと思えた。」と言ってもらうことができました。声を荒らげてよかったのか未だ悩むところではありますが、自分の中で依頼者と同じ気持ちになって怒る感情があり、それもまた必要なのだということを発見できたことはよい経験であったと思います。
就職活動の際、どうしてもこの分野がやりたいと拘っていた私が、全く違う分野の業務を楽しいと感じていることが驚きであり、これから10 年、20年と仕事を続けていくうちに、また新たな分野や感情に出会えるであろう弁護士という職業を選択してよかったと実感しています。