出版物・パンフレット等

英文契約・米国法実務入門(続編) 英文契約の実務~NDAなどのサンプルを用いて

前編 全3回

サンデス 赤羽根 神庭

1、英文契約書の特徴、一般的構成について

神庭

本日は英文契約の実務ということで、最初に英文契約書の特徴についてお話ししたいと思います。
契約書の文言は、当然英語なので、取り組むにあたって英語力自体はあるに越したことはないです。
ただ、ある程度定型的なパターン、ポイントがありますので、言語力が優れていなくとも、交渉したり、契約の作成ができるということを、これからお話の中でいろいろお伝えしたいと思っております。

まず英文契約書の特徴を理解するには、法体系の違いを理解しなければならないということです。
日本の場合には、法律を国が制定して初めてルールになるシビル・ローの考え方に基づいた法整備になっております。一方、英米法の場合、一般的なルールというものが裁判例で蓄積されて、それが成文法として集積されたものが法律となるコモン・ローの考え方を採用しています。
そのためアメリカ法ですと、裁判例が重要になります。日本の場合には、裁判例を探して裁判で証拠としてお出しすれば、プラスの資料になりますが、アメリカの場合にはまさに裁判例そのもので戦うので、裁判例自体を探す能力が低いと、正直、弁護士としての能力は低いといわれているところがあります。
したがって英米圏の方と仕事をする場合には、裁判例の検索が重要ということを覚えておいていただければと思います。

次に、国民性、文化、慣習の相違を理解しなければならないということです。
日本の場合、単一民族といわれており、価値観自体がそんなに多様化していないというのがあります。法律の解釈もある程度、同じようなベースで作られていると思います。
一方、アメリカは、多民族国家でいろんな人種と文化が集まっていますので、価値観が多様であれば、必要なことは全て契約書に記載しないと争いになりますから、結果として契約書の枚数が何十枚にも及ぶということです。

日本の大手国内企業の方は、今でも上司の承認を取りやすくするためか、契約書をなるべくシンプルにする傾向がありますね。
ただ、相手方の契約当事者の担当者が変わると、異なることを言ってくる可能性もありますので、当たり前のことでも書いておくというのが、契約書自体の本来的な趣旨だと私も思います。

英文契約書の一般的な構成として、
①冒頭(preamble)
②前文(Recitals, Whereas)
③本論(Articles, Clauses, Provisions, Items)
④一般条項(General Provisions)
⑤末文(In witness whereof ~)
⑥署名欄(Signature)
⑦ 別 紙 (Schedule, Attachment, Appendix) となります。

本文よりも後ろのほうに一般的な条項、例えば、秘密保持契約書ですと、完全合意条項や準拠法条項を置きますね。末文を1行入れて署名欄があり、最後に別紙を添付する、という流れになります。
先ほど説明した、コモン・ローに関わる部分についてサンデス教授から補足があります。

サンデス

アメリカの裁判実務は、判例法のみで動いているわけではありません。

アメリカの判事は、憲法、連邦法、州法といった制定法や政府機関のガイドライン等を解釈する役割を担っているわけです。
したがって、もし、アメリカ法関連の仕事を行う場合には、裁判例のみならず議会等が制定した成文法にも目を配るようにしてください。

そしてアメリカの成文法を検討するにあたっては、必ず連邦法と州法の違いにも目を向けるようにしてください。

赤羽根

英文契約書の一般的構成は以下のようになります。

①THIS AGREEMENT entered into as of ●, by and between X and Y
(XY間で●日付で締結された本契約は)
②WITNESSETH
(証する)
③NOW, THEREFORE agree as follows
(XYが以下のとおり合意することを)

なぜこういう形で示しているかというと、この伝統的な形式の英文契約書は、契約書1通が全体として一つの文章になるように組み立てられていることを示したかったのです。

① が「この契約は」(主語)、② が「証明する」(述語)、③が「当事者の合意を」(目的語)になっているわけです。もっとも、② の"witnesseth"は、最近の契約書を見ると"witnesses"といった形で、現代の言葉になっている例もあったりします。

次に、"whereas clause"(前文)について説明します。"whereas"という言葉自体、なじみがないと思いますが、英文契約書を読むときに"whereas"と書いてあったら、前文を示していると見るべきです。契約締結の経緯や前提を書くのが普通ですね。

実際に秘密保持契約書のサンプルの一部を見てみましょう。

AND WHEREAS ;
A The Parties are in the process of mutual discussion for the objective of ● ...
("Purpose").
B For the accomplishment of the Purpose, the Party may receive such information as disclosed by the other Party whether in whatsoever form and as further defined in Section 1 below

Aを見ると、「ある目的のために相互の協議をしているところです」ということが書いてあります。
Bは、「本目的の達成のため、当事者はいかなる様式のものであれ、相手方当事者より開示され、下記第1項で更に定義する情報を受領する可能性がある」と書かれています。

秘密保持契約は、取引の前又は最初の段階で締結されることが多いので、ある取引をこれからしましょう、あるいは取引ができるかどうかということを協議している。
そしてその協議のために秘密情報を交換するかもしれないから、そのために秘密保持契約書を結びます。ということが、この"whereas clause" に表れているということです。

それでは、サンデス教授に最近の英文契約書の冒頭、前文の形式について聞いてみましょう。

サンデス

最近の英文契約書の冒頭は、分かりやすくシンプルな表現で作成しています。そして"recital"や"witnesseth"といった、古い時代の表現は使わない傾向にあると思います。

確かに、伝統を重んじる大企業との契約交渉においては、相手方が契約書の伝統的な形式を好む傾向はあるかもしれません。
法律的な視点でいえば、古い形式であっても、契約書から生じる効果に違いはないので、そこにこだわりすぎる必要はありません。

しかし、最初のドラフティング段階においては、紛争になった場合に備えてできる限り明確かつ平易な英語を使用するよう心がけた方がよいと思います。

2、英文契約書の検討の留意点(特に準拠法、管轄)

神庭

まず、準拠法についてです。英文契約書を検討するにあたっては、海外法が準拠法になる可能性がありますので、これは最初にチェックをしてください。

準拠法の条項は契約書の後ろのほうの条項に記載されています。
例えば普通に1条から一生懸命読んでいると、最後に準拠法条項があり、外国法が適用されることが分かったとします。
このとき、契約に問題があり、当該契約は有効になるのかを考えていたとしても、「自分は日本法の資格しか持っていないから、この契約書はレビューできません」という回答しかできないことも実際はあり得るわけです。日本法の弁護士としては、日本の法律しか解釈、アドバイスができません。
「その解釈についてこのような文献がありますよ」と伝えるのは問題がないとは思いますが、基本的には避けなければいけません。
海外プラクティスに適用される保険に入っていないと大打撃を受けてしまう可能性もあります。

したがって、海外の会社の取引、若しくは日本の企業が海外と取引する場合に、どこの法律が適用されるかによって結論が大きく変わってきますので、まずは契約書を読むにあたっては、準拠法を確認してください。

こういったケースに関するアドバイスの仕方を考えてみましょう。例えば、準拠法がイギリス法になっていたとします。
依頼者に、「私、イギリス法の資格を持っていないので、これは確認できません」と言って突き返すことも一つの考えですが、依頼者から、一般的な売買契約なので見てくれませんかと頼まれると、やっぱり断りにくいです。
依頼者が離れていかないためにも、何とかしたいと思うのが多くの先生方の実情だと思います。

私は、「あくまでも日本法だったらですが」とアドバイスをするということはあります。
ただ、最終的に裁判で争われたとき、どういう結論になるかということを考え、「イギリス法に関してアドバイスができる資格がある弁護士に確認していただかないとですよね」という留保を付けた上でアドバイスをします。これは一つのアドバイスの方法になると思います。

次に、紛争条項、裁判管轄についてお話しします。
最近国際取引では、国際仲裁が多く用いられています。といいますのも、イギリスの相手方が日本の会社との取引を行うにあたっての契約書の紛争条項を検討するとき、日本の裁判がよく分からないので利用したくないといった場合、ではイギリスの裁判所で行いましょうとはなりづらいと思います。

一方、紛争解決機関を仲裁にする場合はイギリスと日本の間をとってシンガポールを仲裁地にしましょうと提案することが考えられます。

しかし、今度は、日本企業側から、シンガポールはイギリス法が基だから日本にとって不利じゃないのと言ってきた場合、「じゃあどこでやりましょうか、香港でやりましょうか」「いや、香港もイギリス法が基ではないか」等、ある程度、両社間で議論をしつつ落としどころが見つけられる可能性があります。

そういう意味で紛争解決機関を仲裁とするのは一つの手段であると思っています。
もちろん、訴訟を紛争解決機関として選択する場合にもメリットはあります。
そこで、依頼者の考え方と、相手方との交渉を通じて、どちらの裁判所、若しくは仲裁で行うか、またメリットがあるかを検討していただいたほうがいいと思います。
最終的には紛争解決機関によって、結論が大きく変わってきますし、膨大なコストがかかるとしても仲裁という選択をとらざるを得ない場合もあります。
国際的な取引では紛争解決機関についても十分な検討が必要ということを頭に入れておいてください。

次に、一般的に契約書の構成上、重要事項が記載されている場所はどこか、という点についてお話しします。
先ほど英文契約書の構成についてお話しした際、本論と呼ばれていたところがありましたね。大抵、重要なことというのは、その本論の最初の部分に記載されていることが多いです。
重要なので最初に挙げようということだと思います。

一方、典型的な一般条項というのは後ろの部分にあることが多いです。
最後に契約の中心的内容についてです。日本法が準拠法でしたら日本の法律に従った要件事実ですね。
その次に、表明保証の内容は本当に法的に拘束力があるのか、そして契約上、その表明保証に違反があった場合に債務不履行責任を問うことはできるのかどうかを確認します。
宣誓内容に違反した場合に損害賠償を求められるのか等、日本法なら日本法、海外法なら海外の弁護士にアドバイスを求めて、しっかり確認をしていくというのが重要になります。

赤羽根

それでは、準拠法条項に関し、具体的に検討していきたいと思います。だいたい、一般的な契約書では、紛争解決、準拠法条項というのは、いわゆる一般条項として最後のほうにあることが多いという印象です。

This agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan without reference to its conflict of laws principles.
「本契約は、その抵触法に関する原則にかかわらず、日本法に準拠し、また日本法に従い解釈されるものとする。」

この条文は「何々法に準拠し、何々法に従い解釈されるものとする」という典型的な英文ですね。この準拠法条項の書きぶりは、もう型になっていると思うので、これで覚えてしまうと非常に読みやすくなるかなと思います。

最後に、"without reference to its conflict of laws principles"というフレーズが付いています。
"without reference to"というのは、「何々にかかわらず」という意味で、"conflict of laws"というのは何かというと、抵触法です。いわゆる国際私法ですね。
この"without reference to"という一節を付ける意味をサンデス教授に聞いてみたいと思います。

サンデス

もし、"without reference to its conflict of laws principles"という文言を入れなかった場合、裁判所は判例法を考慮し、"the agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan,"の適用範囲を狭く解釈し、ほかの州又は国の法の適用を認めてしまう可能性があります。
法の抵触に関わる原則はコモン・ローの世界で発展してきたものですが、アメリカでは州によってその原則に関する考え方が異なります。
したがって、契約書を作成するにあたり、裁判所に準拠法条項を狭く解釈されないためにも、常に"without reference to its conflict of laws principles,"を入れるように意識された方が良いと思います。

赤羽根

サンデス教授にあと2つ聞いてみようと思います。
一つ目は、先ほど神庭先生の説明の中でふれられていた、法曹資格の制限により、アドバイスできる範囲が限られるという点に関する部分です。例えば、アメリカだと州ごとに資格が異なるわけですが、ニューヨーク州弁護士はカリフォルニア州の法律について助言ができないのか。もう一つは、ニューヨーク州の資格しか有していない弁護士がカリフォルニア州裁判所で顧客を代理するということができるのか、教えてください。

サンデス

アメリカの弁護士は、アメリカのどの州に関するリーガルアドバイスも提供することができます。私はメリーランド州の弁護士資格を有していますが、メリーランド州以外のどの州にもクライアントがいます。
しかし、裁判所における代理業務及び公式書類の署名は状況が異なります。ニューヨーク州の資格しか有していない弁護士は、カリフォルニア州の裁判所で代理人として出廷することはこれらの裁判所に許可されていない限り、原則として認められていません。そして、自分が資格を有している州以外のクライアントのために契約書等に署名をする権限も原則として認められていないのです。
例外的に、"pro hac vice"という制度を申請(この申請にあたっては、認められていない州の弁護士の支援及び裁判所での宣誓が必要です) すれば、ほかの州で訴訟代理をすることが許されます。

赤羽根

もう一つ、紛争に関する管轄条項を見ていきます。
The Parties shall submit to the exclusive jurisdiction of the Tokyo district court as the court of first instance for any and all disputes related to this agreement.
「本契約に関する一切の紛争については東京地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。」
管轄条項の英文も、型にして覚えていると、契約書を見るときに見やすいところなのかなと思います。ただこれは、裁判所の管轄になっていますが、国際契約だと仲裁条項にするなども考えたほうがいいかなと思います。

3、英文契約書の検討の留意点(その他)

神庭

英文契約書の重要留意点は当然、日本文の契約書の重要留意点とも重なるところがあります。

まず、①"reciprocal"になっているか。つ まり、両当事者で権利義務の内容や程度は同じか、双方の関係性で公平性は失われていないか、ということです。文言だけ字面を読んでいくと、同じような義務の程度に思えてしまうことがあります。
しかし、よくよく、その英文の文字、言葉を見ていくと、やはり程度に差があるんじゃないかなということが出てきます。日本語だと、すぐ気付くかもしれませんが、英語の場合はなかなか気付かないというときもあったりもします。ですから、ちゃんと相互の権利義務が公平な関係になっているかというところを頭の中に入れつつレビューをしていくというのを、一つ忘れないようにしておくべきだと思います。

②義務がどの程度のものが規定されているか、という点です。
努力義務としか書かれていなければ、日本語だと努力だけなのかなと思いますが、英語の場合にはその努力義務というのが"best effort" でいいのか、"best" がなくて"effort"でいいのかとか。文言をしっかり見ていかないと、義務の程度としてまで規定されているのか、飛ばしがちなところがあったりします。

③除外規定が定められている場合の処理です。
"provided, however, that"といった「但し」に該当する除外規定が定められている場合には、何に対する例外事由であるのかを明確にしておく必要があります。
④有効期間が定められているか。いろいろな文章を一生懸命読んでみたが、実は期間が定められていなかった。又は、契約の内容は定められていたが、期間の定めがないことに気付いていなかった、などということもありますので、期間というのは常に頭に入れておくといいです。

⑤債務不履行、条件不成就の場合です。
債務不履行の場合、解除なのか、損害賠償を求められるのか、それともそのほかの対応策があるのか明確になっているのか。条件の場合には、例えば支払いの前提条件が不成就のときにはどうなるのか。契約義務の内容、条件の内容が書いてあっても、それを違反したとき、不成就の場合というのは書いてないこともあります。
日本語の契約書の場合も、民法に記載されているから、あえて書かないということもありますが、アメリカの企業との取引のときには、不成就の場合はどのような手段を取れるのか、記載されていることがほとんどです。
例えば、プロジェクトに関係する案件で、海外の金融機関からお金を借りるという場合に、最終的にこのプロジェクトで損をしたときに払う、というところまで書いておかないと、絶対に金融機関が認めてくれないということも多々あります。

最後に英文契約書の特有の表現についてご説明します。

「しなければならない」契約上の義務を記載するにあたっては、英文の昔からの経緯なんでしょうが、shallを使うことが多いです。外国人の弁護士に聞きましたが、"shall"は「何々しなければならない」で、"should"と"must" の間ぐらいのイメージの表現で、義務を負担する言葉として使うということです。他方で、
「何とかすることができる」その対象当事者の任意の裁量で、するかしないか決められる場合には、"may"を使うことが多いです。

そして、主語、述語、目的語、日時/期限、要件/条件、程度を明確に記載することです。
契約の英文の読み方になるので、英語文法的な話にもなりますが、主語、述語、目的語、日時、期限、要件、条件、程度、これらを明確に区切ったりして、コロンなりコンマで区切られているところまでしっかり読んで、自分なりに鉛筆で斜め線を引きながら、ここは一文節と見ていくと分かりやすいと思います。
これは当たり前かもしれませんが、日本語の場合はすんなり頭に入っていくものが、英語の場合だと、色々な修飾語が入ってくるので訳が分からなくならないように、区切りながら一つずつ理解していく勉強をすると、だんだん慣れていきます。

最後に、難しくて分かりにくい文章は英文契約書でも出来が良くないものです。これは結構、重要なことです。
サンデス教授が先ほどからおっしゃっていたように、シンプルで、分かりやすい英語の文章というのは、いい文章です。
これは日本語の契約書でもそうですが、昔ながらの分かりにくい文章というのは、どうしても解釈に争いが出てきます。
したがって、英語力の巧拙にかかわらず、平易な言葉で誰でも分かる文章を書き、レビューすることを第一に考えてもらえればと思っています。

(次号へつづく)