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スポーツ仲裁の現状と展望(後編)

後編 全2回

スポーツ仲裁代理人業務の実務

1. 自己紹介

後半は私(高松)が代理人としての視点からお話をします。まず、自己紹介がてら、私とスポーツ法との出会いをお話しします。
今から約10年前に、当弁護士会のスポーツ法政策研究会で、サッカーの我那覇選手のドーピングの冤罪事件に関わっていらした代理人の先生のお話を聞き、非常に興味を持ち、同研究会に関わるようになりました。弁護士の集まりとしては、東京や大阪、愛知、横浜などには単位会ごとにスポーツ法の研究会があります。全国レベルでは、学者の先生と弁護士の集まりである日本スポーツ法学会というものがあり、今、私は事務局次長を務めています。
(公財)日本スポーツ仲裁機構(JSAA)のスポーツ仲裁に関しては、選手の側で代理人を務めることが多いです。ほかには、スポーツ調停も担当していますし、仲裁人としても関わっています。
2014年4月から2015年3月までJSAAの理解増進事業専門員として活動しました。この立場では、主に各競技団体や都道府県の体育協会等から呼ばれて研修や講習会をしていました。対象はアスリートや指導者が中心です。2015 年には、そのJSAAから派遣される形でイタリアの法律事務所に行き、更にスポーツ法の勉強をしました。
さて、私からは、初めに、スポーツ法の体系とスポーツ団体の構造を確認し、次に、アスリートや競技団体から相談を受けた場合の注意点、手続選択の悩み、訴訟による紛争解決の可能性について、JSAAでの具体的な紛争事例として件数的に多い代表選考の事案と懲戒の事案をご紹介します。
そのうえで、スポーツ仲裁を活用する場合の注意点とスポーツ仲裁の問題点、そして最後に弁護士業務拡大への展望についてお話しします。

2. スポーツ法の体系とスポーツ団体の構造

(1)スポーツ法の体系

まず、スポーツ法の体系として、どういう法律、規則が適用されるのかを見ていきます。唯一、スポーツ基本法というスポーツ界の憲法的な法律がある以外は、実定法としてのスポーツ法というものがあるわけではなく、いろいろな法律が問題になります。例えば、労働の問題であれば労働関係の、学校の部活動の問題であれば教育基本法など学校関係の法律が問題になるなど、幅広いです。
特に気を付けなくてはいけないのが、スポーツ固有法です。狭義の意味のスポーツ法は、私的自治の中にあります。最狭義は、スポーツのルール、例えばサッカーではオフサイドはいけませんとかそういうものがFIFAのルールとしてあって、それが一番根本的なルールなのではないかと欧米では議論されています。そこから派生して、団体の規約があります。倫理規定や懲戒の場合は、この倫理規定の何条に基づいてどのように処分するのかなどが決まっています。
それから、代表選考の事案であれば、代表選考基準をあらかじめ規約の中に定めてあります。また、抽象的なルールとして、フェアプレー精神やスポーツマンシップなどもスポーツ法として欧米では議論されています。
そういった一般的な法律の実定法としては使わないような規約、規則についても精通していなければなりません。相談を受けたときに、どの規約が問題になるのかをリサーチし、問題点を見落とさないようにするためには、スポーツ法の体系を理解しておく必要があります。

(2)スポーツ団体の構造

それから、スポーツ団体の構造についてよく理解していないと解決方法を見誤ってしまうことがあります。スポーツ団体は、基本的にはピラミッド構造になっています。例えば、サッカーでは、日本サッカー協会の下に、東京都サッカー協会、神奈川県サッカー協会等、都道府県ごとに協会があり、その下には横浜市のサッカー協会等、市区町村ごとの協会があります。
国内はピラミッド構造になっているのですが、競技団体はこれを国際的な基準で運営していく必要があります。オリンピックとの関係もあるのですが、ある競技を統括する団体がいくつもあっては収拾が付かないので、基本的にはピラミッド構造になっています。サッカーであれば、国際サッカー連盟(FIFA) が「国際競技連盟(IF)」に該当します。
オリンピックに関する理念をつかさどるものが国際オリンピック委員会(IOC) です。国内では、日本には日本オリンピック委員会(JOC)があるように、各国にオリンピック委員会があるわけです。また、日本の場合は日本スポーツ協会というものもあり、A競技、B 競技がそれぞれ加盟しているという構造になっています。
仲裁機関との関係で言うと、日本国内での問題についてはJSAAが司ることになるわけですが、例えばドーピングの事案などでは国際レベルの選手はスポーツ仲裁裁判所(CAS) に行かなければならず、国内レベルの選手はJSAAというように決まっています。

3. 相談を受けた場合の注意点

スポーツ関係の相談があった場合の注意点について確認します。
大別して、(1)相談内容を正確に把握すること、(2)対象となる「処分」を正確に把握することの2つです。

(1)相談内容を正確に把握すること

1つ目は、当たり前ですが、相談内容を正確に把握することです。特にスポーツ関係の相談で難しいのは、相談者である選手やコーチ、監督、指導者、それから競技団体から相談を受けることもありますが、何を求めているのかいまひとつはっきりしないときもあり、そのバックグラウンドを正確に把握しないまま突き進むと、相談者である選手にとって却って不利益になる可能性もあります。
例えば、選手が「自分が代表選考に入らないのはおかしい」と言ってきたとき、バックグラウンドとして、もしかしたら、そこには派閥争いがあるかもしれません。残念ながら、競技団体にはよくあることなので、そういったことも全て把握するために、かなり時間をかけてヒアリングをする必要があります。
それから、相談者である選手、指導者、競技団体が、前述したピラミッド構造のどこに所属しているのか、どこの加盟でどの部分の争いなのかということを正確に把握しないと、どこを相手方にすべきなのか、どういうことを求めるのかが分からないわけです。

(2)対象となる「処分」を正確に把握すること

これには3つあります。
1番目として、対象となる「処分」の内容を正確に把握する必要があります。
スポーツ仲裁規則の第2条1項では、通常のスポーツ仲裁について、「スポーツ競技又はその運営に関して、競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定」について不服がある競技者が対象になるというように、「決定」が前提になっているわけです。つまり、どういう内容の処分が問題になったのかを正確に把握しないと的外れな主張になってしまいます。

それから2番目に、「処分」に必要な手続の把握です。例えば、理事会決定でこういう判断がなされましたというときに、その理事会決定が対象となる処分だと考えるなら、その処分には一体この理事会の規約上どういう手続が必要なのかということを見ていかなければなりません。
3番目に、実際に行われた「処分」の手続を正確に把握する必要があります。これは、相談者の話を一方的に聞いていると事実とは異なる場合もあるので、いろいろな方面から実際に行われた手続がどうだったのかということをヒアリングして把握する必要があるということです。

4 手続選択の悩み

以上のようなヒアリングを通して、どういう処分が行われ、誰が何に対して不服を持っていて、その処分の手続は実際こうあるべきなのにこうだったのだということが分かれば、次は解決手段を洗い出していく作業に進みます。スポーツ界にはいろいろな相談窓口がありますので、ルートもいくつもあります。
まずは、任意の交渉が考えられます。そのうえで、第三者による解決が欠かせないという場合は、裁判に持ち込むという可能性もあれば、民事調停や、今回のテーマのようなスポーツ仲裁やスポーツ調停も考えられます。関連団体の相談窓口も複数あります。
最近、相談の際、スポーツ庁に直接訴えたらどうですかとリクエストされることもあるのですが、マスコミに大きく取り上げられることにもなりますので、その方法が相談者にとって有益なのかどうか、慎重に見極める必要があります。
今日はスポーツ仲裁とスポーツ調停が主なテーマですので、まず、それらについてご説明します。

(1)スポーツ仲裁

まず、スポーツ仲裁のメリットとして、専門性のある第三者による判断が期待されるということです。

JSAAはスポーツ界では信用を得ていますので、同機構の判断なら仕方がないということになりやすく、かつ、公開もされているのでインパクトもあるわけです。
また、緊急仲裁の利用による迅速解決が可能であり、手続費用の支援制度による経済的負担削減の可能性があります。
他方、デメリットとして、争いの対象が競技団体による決定に限定されているという点があります。ある競技団体による決定というのがいまひとつあやふやなケースもあり、パワハラの問題などは、スポーツ仲裁にはなじまないということになるわけです。
それからもう1つ、仲裁なので合意が必要なのですが、あらかじめ競技団体の規約にJSAA で解決するという自動応諾条項が入っていない場合があり、相手の競技団体が受諾しないとそもそも仲裁自体ができないという点が決定的なデメリットとなります。

(2)スポーツ調停

スポーツ調停のメリットは、専門性のある第三者が対話をあっせんしてくれる点にあると考えています。
他方、デメリットは、結局調停なので、合意がないとその手続は利用できないという点です。
もう1つ、今の規則上、調停期日は原則1回、調停人選任後3カ月以内に終了となっているので、挨拶と争点整理ぐらいで終わってしまうということもあるかもしれません。ただ、これはあくまでも原則1回なので、必要に応じて何回か行うこともあるとは思いますが、今のところは、裁判所のように何回か和解期日を重ねるというイメージではありません。

(3)裁判

では、裁判はどうかというと、仲裁合意の必要がなく、競技団体による処分か否かも問わないので選択しやすいというメリットがあります。
他方、審理に時間がかかるうえ、裁判官がスポーツ団体の構造などを余り理解されていないことが多く、紋切り型の判断になりがちという印象があります。

また、部分社会の法理で切られる可能性はかなり高いです。例えば所属クラブからお金が払われないなどの場合は裁判を利用するということはできると思うのですが、代表選考や懲戒事案ではなかなか難しいです。

(4)その他

スポーツ界では近年何件かの不祥事が起こったため、自浄していこうという意識が強く、最近はいろいろな団体が相談窓口を設けています。そこで、スポーツに関わる相談を受けた場合、まず一度その競技団体のホームページなどをぜひ見ていただきたいのです。
また、監督官庁に対する申立てについては、最後の手段として、どうしてもらちが明かないというときにはあり得るのかなと思います。なお、ドーピング違反に関する件は、手続 があらかじめ決められているので、それにのっとって進めることになります。

5 訴訟による紛争解決の可能性

訴訟による紛争解決が適しているのかについて、スキー連盟の事件を例にとります。東京地裁の平成22年12月1日の判決です。これはX大学スキー部の男子部員が強姦傷害で逮捕されたことを契機にしており、全日本学生スキー連盟理事会がX大学スキー部に対して2つの処分を下しました。
1つは、スキー部男子全員、全日本学生スキー選手権大会への出場を無期限停止とする処分です。もう1つは、スキー部の卒業生を全日本学生スキー連盟の役員・専門員に推薦する権利を無期限に停止するという処分です。
この処分の結果、X大学スキー部の男子は2 年間大会にも出場できず、1部校から3部校に格下げになりました。そこで、法人格のあるX大学が全日本学生スキー連盟を被告として、東京地裁に提訴したのです。
請求の趣旨は、1項は理事会決議が無効であることの確認、2項は1部校としての資格を有することの確認です。しかし、請求の趣旨1項は部分社会の法理で切られ、請求の趣旨2項は法律上の争訟ではないということで、いずれも不適法という結論でした。

6 JSAAでの具体的な紛争事例(代表選考)

次に、JSAAの紛争事例のうち、まず代表選考の事例についてご紹介します。

(1)事実の概要

申立人は競技者、被申立人は日本ボート協会です。紛争の概要は、日本ボート協会が2012年ロンドンオリンピック、アジア大陸予選の男子軽量級ダブルスカル日本代表クルーを決定するに当たり、申立人を選ばず、補欠としたのに対し、申立人が、選考方法が著しく不公正な方法によるものだとして、同内定を取り消し、代表2名を新たに決定してほしいという内容の申立てを行ったものです。
事前に公表された選考要領では、「6人総当たりの10レースを実施して個人の平均タイムを算出し、その上位2名を代表クルーとし、次点1名を補欠とする」とされていました。A、B、C、D、E、Fといた場合、A、Bチーム、A、Cチーム、A、Dチームと1回ずつ行い、それぞれどの組み合わせが一番良いかを見る選考方法でした。
選考の結果、申立人は含まれず、AとBが代表として選出されました。実際の選考では、A と若手のEがペアとなった第7レースで、タイムが極端に遅いという事態が生じました。この結果を受けて、協会側がこれをイレギュラーと判断し、Eが若手で委縮して力を発揮できなかったなどの理由により、Eが関わるレースは全部除外して判断しました。しかし、もとの基準であれば、申立人は選出されたのではないかというところが争点になりました。

(2)競技団体の選手選考決定が取り消される場合

競技団体の選出選手選考決定が取り消される場合には、①処分・決定の根拠となる規則自体が法秩序に反するか著しく合理性を欠く場合、②処分・決定が自ら制定した規則に違反している場合、③処分・決定が規則に違反していなくても、著しく合理性を欠く場合、④処分・決定に至る手続に瑕疵がある場合の4 つの基準があります。

(3)仲裁パネルの判断

本事案での争点は、事前に公表された最終選考基準と異なる選考方法を採用したことが、自ら最初に制定した規則に違反しないのかという点と、規則に違反していなくても合理性を著しく欠いているのではないかという点の2 つです。争点に対する仲裁パネルの判断は次のとおりです。
1つ目の争点について、仲裁パネルは、原則として、競技団体が事前に選考要領を明示し、選考基準を明確にした場合には、選考要領そのものが著しく不合理なものでない限りは、その選考要領に従って選考がなされるべきだとしました。他方、例外として、最終選考要領に明記されていないイレギュラーな事態が生じた場合には、別途合理的な選考方法をその場で設定して、それに基づいて最終的な選考判断をすることもあながち不当とは言えないとしました。
2つ目の争点について、被申立人の主張について見てみると、この第7レースの結果だけを除外すると不公平な結果になるため、Eが関わったクルーの全ての記録を除外することは、最下位の選手を除外した上位5人によるタイムを集計するもので、どの選手にとっても同一条件で公平だと主張しました。
その点について、仲裁パネルは、Eと組んだ際に良いタイムを出した選手は不利になり、悪いタイムを出した選手は平均において有利になると、また、イレギュラーの事態に対応するための選考方法はほかにもいろいろあり、そこを十分に検討したとは認められないということで、著しく合理性を欠くとして決定は取り消されました。
決定の取消しで、その後は仲裁判断として、この申立人を代表にすることまではせず、あとは競技団体の方でもう一度選考レースを設定するなどという内容でした。結局、申立人はロンドンオリンピックに出場しました。

7 JSAAでの具体的な紛争事例(懲戒事案)

次に、懲戒事案について、ぜひご紹介したいのは、ホッケーの事案で、2つの仲裁判断がなされています。

(1)2015年5月7日仲裁判断

これは女子ホッケー日本代表チームの監督が申立人で、被申立人は日本ホッケー協会です。被申立人が業務執行理事会において申立人を解任する決議をしたことに対し、申立人が決定取消しを争った事案です。
ポイントは、業務執行理事会という、理事会とは別の運営委員会のようなところで決定したというところです。解任理由は、監督の所属会社と競技団体との間の覚書きの第7条に
「目的達成に不具合が生じる可能性が発生した場合、甲(=被申立人)は本人の監督委嘱を解くとともに本覚書を解除することができる」と書いてあること。それから、選手へのパワハラがあったということでした。
争点は、①この解任決定にはそもそも理事会の決定が必要なのではないかという手続上の問題、②解任決定を行うについては覚書上協議が必要なのではないかという点、③覚書7 条の解除原因を満たすかという3つです。
仲裁パネルは、まず①の理事会決定が必要かどうかについて判断しました。定款の規定や過去のこの団体の実例からしても、監督解任には理事会決定が必要だと判断し、その余の点について判断するまでもなく、取り消されるべきだとしました。

(2)2015年5月25日仲裁判断

そうしたところ、すぐにもう1つ事件が起こります。この日本ホッケー協会が、そういうことならと、理事会決定し、また監督が申立てをしたというのが同じ5月のことでした。解任理由は同じです。
争点については、今度は、不利益処分だから聴聞が必要なのではないかという点と、倫理規定に従って手続が行われていないのではないかという点です。どちらも行われていないのですが、仲裁パネルは、そもそも本覚書

とそれに基づく監督と日本ホッケー協会との間の契約解除の問題なので、不利益処分であるとは言えず、聴聞手続は必須ではないとしました。
また、仲裁パネルは、パワーハラスメントを理由とする処分を行うものではないという認定をして、倫理規定の適用はないとしました。協議を必要とするとの合意も認められないということで、結論として、ほかに瑕疵もないので申立人の請求を棄却して、監督の主張は認められませんでした。

7 スポーツ仲裁を活用する場合の注意点

スポーツ仲裁を活用する場合の注意点についてご説明します。

(1)形式面について

まず形式面としては、前述のとおり、決定の有無を確認することです。
次に、通常の仲裁であれば6カ月、ドーピングであれば21日以内など、期間制限がありますので、決定からの期間を確認する必要があります。
それから、自動応諾条項の有無を確認します。これはJSAAのホームページである程度は確認できますが、更新されているかどうかについても確認する必要があります。
代表選考に関する争いの場合は、例えば、大会は来週でも、エントリー期間を過ぎてしまって、国際的な大会なので日本の競技団体ではどうにもならないということがあります。したがって、エントリー期間を確認したうえで、可能な限り早く申立てをしなければなりません。
それから、緊急仲裁を選択するか否かという問題もあります。例えば、大会が来週ということであれば緊急仲裁を利用しなければなりませんが、そこまでの緊急性がない場合、緊急仲裁は原則として仲裁人が1人なので、個人的には、合議体で判断してもらった方がよいケースが比較的多いと思います。
それから、通常仲裁の場合、合議体の3人の

仲裁人のうち1人は選べるので、どの仲裁人を選ぶのか、慎重に検討する必要があります。仲裁は、仲裁人を選ぶ段階からスタートしていると思っています。

(2)実体面について

実体面については、法律構成をまず検討しなければなりません。前述した決定取消しの4 基準を意識する必要があります。
また、証拠収集も大切です。処分決定などを覆すための証拠を収集していくのですが、理事会の議事録などは基本的には競技団体の方で持っていますので、なかなか証拠がないのが現状です。この点は、協力してくれる方からも入手するなどの工夫が必要です。
あとは審問対策です。原則として1回審問が行われますが、これが結構ハードです。時間的にも長丁場で、証人が多くなれば1日がかりということもあります。代表選考、懲戒事案などでは、選手と監督や競技団体の理事の方が相まみえることもあるので、精神面でもハードです。しっかり対策をする必要があります。
それから、仲裁判断は公開されるので、公開後の対応も考えなければなりません。

(3)その他

その他として、手続費用についての支援制度があることを理解し、相談者に説明する必要があります。
それから実は、49条1項に仮の措置という規定もあります。仮処分のようなものですが、たぶん今まで1回も認められたことはないのではないかと思います。
また、審問後に仲裁人から和解の可能性などを打診されることも最近は多いと思います。個人的な意見としては、例えば、競技団体の方で仲裁判断を受けた場合、公開されて負のインパクトが出るおそれがあるため、その前に何らかの和解をしてしまうというメリットはかなりあるかなとは思います。和解の内容を仲裁判断として公開することもありますので、確認した方がよいでしょう。

9 スポーツ仲裁の問題点と注意点

自動応諾条項に関する注意点として、前述したピラミッド構造を思い出してください。トップの中央競技団体が自動応諾条項を持っていても、その傘下にある都道府県の団体はまた別なので、その団体が仲裁合意を持っているといえるかどうかは解釈の問題になります。そのため、慎重に自動応諾条項の有無を確認した方がよいです。
次に、手続上の諸問題については、ここに書いてあるように、スポーツ仲裁規則43条の規定により、法の一般原則に従って仲裁判断をなすべきとされています。したがって、時機に遅れた攻撃防御方法、伝聞証拠や違法収集証拠の排除等の問題は、基本的には仲裁人の判断になります。
また、決定のほかに付言というのが出されることが多く、その可能性を認識しておかないと、不意打ち的な付言を出されることもあるので、注意が必要です。

10 弁護士としての業務拡大の展望

今後、2020年に向けて、弁護士としての業務拡大の展望です。前回の冒頭に述べたとおり、CASのアドホック仲裁手続というものがあります。これは24時間以内に仲裁判断を行うことを前提に、その大会開催地に仲裁パネルを設置するというものです。東京オリンピックでもそれを設置予定なので、東京で審問が行われることになります。CASは、手続の種類もおおむねJSAAと同じです。
それから、もう1つ、オリンピック・パラリンピック期間中のプロボノ弁護士制度というものを進めようとしています。これは2012年のロンドンオリンピックのときのサービスを参考にしています。ロンドンオリンピック、リオオリンピック、平昌オリンピックでも実施したので、東京オリンピックでやらないわけにはいかないということで、それを計画しています。
ロンドンのときの特徴としては、24時間体制で相談を受け付けたこと、スポーツ法の分野だけではなく、ゼネラルセクションとスポーツ・アドボカシー・セクションということで、スポーツ部門のほかに、刑事や、ビザの問題、民事などにも対応できる弁護士のリストがあったことが挙げられます。そのリストや申込み内容、申込み用紙などを選手村に置いておいて、何かあったら、事務局を担っていたロンドンにあるスポーツ仲裁機関であるスポーツレゾリューションに電話がかかってくるという仕組みになっていました。こういうことを東京でもやろうとしているので、必ず弁護士の業務は拡大すると思います。