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裁判員裁判レポート 裁判員の声を聞いて弁護活動を振り返る

本稿では、裁判員裁判における弁護活動について、裁判員の意見をもとに振り返る方法や、過去に裁判員から指摘された弁護活動の問題点について、最近の変化等も踏まえながら具体的にご紹介します。

1. 裁判員の意見を知る方法

●裁判員アンケート

裁判所は、裁判員裁判実施後、裁判員及び補充裁判員に対し、裁判員裁判に関するアンケートを実施しています。
このアンケートの中に、当事者の法廷活動のわかりやすさや問題点について問うものがあります。
そのうちの一つは、弁護人、検察官の法廷での活動についてそれぞれ三段階で「わかりやすかった」「普通」「わかりにくかった」のいずれかに評価するものです。もう一つは当事者の法廷活動について感じられた印象を問うもので、①話し方に問題があった(早口、声が聞き取りにくい、言葉が難しかった等)、②説明が詳しすぎた、③話す内容がわかりにくかった、④証人や被告人に対する質問の意図、内容がわかりにくかった、⑤その他(自由記載)、について回答を求めるものです。
①の話し方の問題は、形式的なことなので、アンケートを見ただけで問題があることはすぐにわかりますし、⑤の欄に具体的な問題点を書いてくれる方もいますので、それも参考にしやすいと思います。
もっとも、「わかりにくかった」という評価については、何がわかりにくいのか(主張自体に無理があるという意味か、それとも説明の仕方に問題があるという意味か)が必ずしもはっきりしないこともあります。

●反省会

裁判員裁判の判決後には法曹三者での反省会が行われ、公判前整理手続から判決に至るまでの当事者の法廷活動について振り返り、改善点がないかについて意見を出し合う機会があります。
この反省会の中で、裁判所から、アンケートに記載された当事者の法廷活動に対する評価に関連し、裁判員が実際に述べていた当事者の法廷活動に対する具体的な意見について聞くことができます。
例えば、上に述べたような「わかりにくい」という意見は、主張自体に無理があるということなのか、あるいは説明がわかりづらいのでなかなか意味が理解できなかったということなのか、ということも、裁判所から具体的に説明があります(裁判所から特に説明がなかったとしても、聞けば教えてくれます。)。とある裁判官の意見では、「説明がわかりにくいわけでも、主張に無理があるということでもなくとも、最終的に結論として受け入れなかった主張をしていた当事者の法廷活動についてはわかりづらいという評価をされることがあるようである」というものもありました。このように、当事者の法廷活動に対する裁 判員の具体的な意見については、裁判所での反省会を通じて把握することができます。 以下、アンケートや反省会で実際に指摘された問題点について、例示します。

2. 話し方

極めて基本的かつ形式的なことですが、「話し方に問題がある」という指摘は制度開始時から指摘されることが多く見られます。
個人の癖などもあり、特に意識して改善を試みるのでなければ、改善することが難しいところかもしれません。
小さな声で話していると、裁判員から、弁護人はやる気があるのか等と熱意を疑われてしまうことさえあります。そして、やる気がないと判断した弁護人の主張について、裁判員は受け入れなくなるようですので、形式的なことではあるものの、重要な点であると言えます。

3. 冒頭陳述、弁論のスタイル

●書面の朗読

「弁護人の弁論は次に述べるとおりです。第1 総論...」というような、A4の10ページを超える原稿をひたすら朗読し、その原稿を提出するスタイルは、裁判員制度開始時には多数報告され、酷評されてきました。
最近でも、まれですが、このような弁論であったと指摘されている事件があります。
書き言葉の原稿を延々と読み上げられても、理解しづらく、評議の際に弁護人の主張を確認しようと思っても、10ページを超える原稿のどこに何が書いてあるのかを探すことも難しいということで、弁護人の主張を受け入れてもらえない原因となってしまうようです。

●立ち位置等

弁護士会の法廷弁護技術研修で指導されているような、弁護人席ではなく裁判官と裁判員の前に立ち、視覚資料を用いながら冒頭陳述や弁論をすることについて、2017年頃まではほとんどの検察官が検察官席で原稿を読み上げるスタイルをとっていたこともあってか、違和感を覚えるような意見もありました。
裁判官の中にも、このようなスタイルを好まず、「裁判員向けのパフォーマンス」等と評する人もいました。
もっとも、最近では検察官も裁判官と裁判員の前に立って冒頭陳述や論告をすることが増えてきたこともあり、裁判員からの違和感という指摘もほぼなくなっているようです。
ただし、弁護人の主張内容自体に無理があると判断された場合には、ペーパーレス等での弁論が、「形ばかりである」という風に見られて、裁判員から強く反感を買うということもあるようです。裁判員の目にはパフォーマンスでごまかそうとしているという風にうつるのかもしれません。
「わかりやすく伝える」ことの大前提として、証拠を分析した上でのケースセオリーの組立てと、それに基づく説得的な主張がなくてはならないということであろうかと思われます。


4. 配付資料

●配付するかどうか

冒頭陳述や弁論の際には、A4のメモ1枚あるいはA3のメモ1枚を配付することが一般的ですが、冒頭陳述ではメモの配付自体しなくても、弁護人の述べた内容を理解してもらえ、特にメモがないことで支障はなかったと評価されているものもありました。
ただ、裁判員が、冒頭陳述を聞いたそのときには理解しても、あとで弁護人の言っていたことを思い出そうとしたときに、メモがないと思い出せなくなってしまうということもあるので、裁判員が後で確認し、思い出すための資料として、簡単なメモを配付しておくのが良いという指摘があります。

●配付時期等

メモの配付時期については、反省会で、事前に配付することを求める意見が繰り返し出されてきました。その理由は、メモの事前配付がないと、弁護人の言った内容を裁判員が全てメモにとろうとしてしまって負担だということなどにあるようです。
もっとも、メモを後で配付する旨を予告しておけば、後に配付するのであっても問題点として指摘されないようです。ただ、メモの内容が十分でない場合、後でメモを配付すると言ったのに必要なことが書かれていないということで、弁護人の主張を思い返すのが大変だったという問題が指摘されています。
なお、メモの事前配付をする場合、メモに書かれているどこの部分について話しているのかを明示するとともに、メモに記載されている表現と話す表現を一致させないと、メモがあることで、かえって裁判員が混乱したという指摘があります。

●資料の形式

前述のような10ページを超えるA4の原稿を配付することが多く指摘されていた時期には、検察官の配付する冒頭陳述メモや論告メモに比べ、弁護人の配付資料が見劣りするという指摘が多く見られましたが、そのような指摘はかなり減ってきました。

5. 尋問

尋問においては、裁判員から、弁護人の質問の意図がわかりづらいという指摘がなされることが多くあります。
弁護人は主尋問より反対尋問をする機会が多く、また初めて裁判に参加する裁判員にとって反対尋問の意図がわかりづらいことがあるのはやむを得ないように思われますし、裁判所からも同様の指摘が見受けられます。
ただ、本来、尋問は最終的に弁論で指摘する事実を得るために行うものです。したがって、尋問により得た供述の位置づけや意味が弁論で明示されない場合には、結局尋問の意図が不明のままになってしまいます。そのような場合は問題があるという指摘が裁判所からもされています。

6. 量刑について

●量刑の考え方について

量刑について言及する事件において、行為責任の観点から弁論が行われず、一般情状のみを列挙するケースが問題として指摘されています。
裁判所は、行為責任の観点から量刑評議を行うため、この考え方を一切考慮しない弁論ですと、弁護人の科刑意見を受け入れてもらうことが困難になるということです。
なお、量刑評議が実際にどのように行われているかについては、過去6回にわたり実施されてきた東京三会裁判員制度協議会主催の模擬評議が大変参考になります。過去の模擬評議のDVDは人権課で借りることができますので、模擬評議をご覧になったことがない方は、1度見ることをおすすめします。

●量刑グラフについて

量刑について言及する事件で、弁護人が量刑グラフを示しながら、科刑意見を述べたものの、その際に、検索条件が事案と一致していないケースがあったとの指摘がありました。また、量刑グラフの検索条件を正確に示さずにグラフを呈示した事案の指摘がありました。なお、量刑検索システムについては、刑法 改正を踏まえて改修され、2018年12月より改修済みのものが運用を開始していますので、改修後のマニュアルをご確認されることをおすすめします。

7. 最後に

裁判員制度が開始してから今年で10年です。アンケートや反省会での裁判員の意見を見ると、裁判員裁判における弁護人の弁護技術は徐々に向上しているといえると思います。裁判員センターで実施している法廷弁護技術研修でお伝えしている内容は、これら裁判員の意見も踏まえています。さらなる弁護技術の向上のため、ぜひこちらの研修をご活用ください。

また、冒頭陳述や弁論については、本番の前に、実際に誰かの前で実演してみることで、理解される内容になっているかを検証することができます。裁判員センターでは、冒頭陳述や弁論のリハーサルと、それに対し委員等からアドバイスをする機会を設けています。ご希望の方は、人権課(03-3581-2257)までご連絡ください。