出版物・パンフレット等

この一冊 Vol.134『科学革命の構造』


『科学革命の構造』
トーマス・クーン 著中 山 茂 訳みすず書房
2,800円(税別)

「この一冊」の執筆を引き受けたとき、僕の頭にはこの本以外なかった。なぜなら、これこそ、僕の人生を変えた本だからである。決して、この場を盛り上げようと大げさに言っているわけではない。全く誇張なしに、大学4年生のときにこの本に出会わなければ今の僕はない。この本は、僕が子供の頃からずっと抱き続けていた、科学に対する信仰を見事なまでに打ち砕いてくれたのである。
僕は、幼稚園児の頃から星と宇宙が大好きで、将来の夢は宇宙飛行士であった。そして、小中学生の頃から科学というものに、えも言われぬ魅力を感じていた。科学こそが真理である、そう信じていた。進化論を学んだときには衝撃を受けた。人類はどのように誕生したのか、という小さな頃から抱いていた疑問に対し、進化論は明確な答えを与えてくれるものであった。幼い頃に聞いた、神様が人間を造ったという話はただの「神話」なので信頼できず、進化論は「科学」なので信頼できる、そう思った。
また、大学生のときに『ホーキング、宇宙を語る』が出版され、世界中で話題となった。宇宙大好き少年であった僕は、直ちに買って読んだ。ホーキングが描く宇宙論は、その当時、僕が求めていた「科学」に他ならなかった。かつての僕にとって、「科学」は真理であり、絶対的なものであった。言い換えると、その頃の僕にとって、科学こそが神であったと言っても過言ではない。
その僕に対して、「科学は絶対的なものではない」と教えてくれたのが、トーマス・クーンだったのである。
この本のテーマは、科学は、過去の研究成果の上に更に成果を積み上げることによって継続的に進歩するのではなく、パラダイムの転換によって革命的に進歩する、というものである。
パラダイムとは、トーマス・クーンが提唱した専門用語であり、「一般に認められた科学的業績で、一時期の間、専門家に対して問い方や答え方のモデルを与えるもの」とされている。そして、パラダイムは、科学者たちがそれを前提として受け容れることによって成り立っているが、ある時期、それに疑問を持つ科学者が現れ、既存のパラダイムを否定して新しいパラダイムを構築する。そういう「革命」によって科学が進歩するというのである。
科学は信仰によって成り立っている。その指摘は、僕にとって、とてつもなく大きな衝撃であった。
信仰を土台としているのであるならば、科学と宗教の違いは一体どこにあるのか。その思いから、僕は科学に代わる新たな真理を求めるようになった。そして、それからしばらくして、キリストこそが真理であると知った。『科学革命の構造』に出会うことがなければ、僕がキリストを救い主として受け容れることはできなかったであろう。この本が、僕の人生を変えたのである。

当弁護士会会員 ダニエル(藤田 充宏)(53期) ●Mitsuhiro Fujita