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英文契約・米国法実務入門(続編)英文契約の実務 ~NDAなどのサンプルを用いて~(後編)

後編 全3回

サンデス 赤羽根 神庭

10、秘密情報の開示可能範囲について

The Receiving Party undertakes to keep confidential and not disclose to any person, the fact that Confidential Information has been made available or that discussions or negotiations are taking place or have taken place between the Parties or between the Disclosing Party and Receiving Party in connection with the Purpose ...
(受領当事者は、秘密情報が利用可能になっている事実、本目的に関して両当事者間又は受領当事者と開示当事者の間で協議又は交渉が行われているか又は行われていた事実...につき、秘密を保持し、いかなる者にも開示してはならない。)

この条項が述べていることというのは、秘密情報以外にも、現時点で、ある取引に向けて交渉している事実自体、あるいは当事者間で秘密情報の提供がなされたこととか、そういう事実自体を第三者に開示しないでくれという内容です。

この条項の中で、"undertakes to keep"という表現が用いられていますが、この"undertake" という表現が、"shall"という義務を表す表現を本来使うべきところに使われているわけですが、この点についてサンデス教授から伺いたいと思います。

サンデス教授

ときに法律的な意味を深く考えずに何げなく英単語が用いられることがあります。例えば、契約書中において"undertake"という単語は、基本的に「ある行為をする」という意味なので、"undertakes to keep"という契約書でよくみるフレーズは「ある行為をするためにある行為をする」ことを意味する冗長な表現となります。ですから、行為を表す単語又はフレーズは簡潔に1個のみとし、例えば"the parties will keep information confidential" 又は"the parties should do some action"とする方がよいでしょう。

次に、相手方に義務を課すために"shall"を用いるのはどうかという点です。現代の英文契約書では、"shall"のかわりに"must"又は"should"を用いる傾向があります。"shall"は、受け取り方によっては、必ずしも義務を表すと感じない場合もあるからです。例えば、"shall we dance?"は、誰かにある行為を義務付けるというより、何かをしてくれないか尋ねるフォーマルな表現です。ですから、"undertakes"は余分であり、"must"、"will"又は"should"に置き換えるべきです。

11、秘密保持義務の期間、期間経過後の取扱い(返却・消去等)について

① The obligation and responsibility of the Receiving Party under this Agreement shall commence from the date hereof until[ ]year (s) after the date of this Agreement. The provisions of Article (s) ... shall survive the termination of this Agreement.
(本契約に基づく受領当事者の義務及び責任は、本契約締結日から本契約締結日の[ ]年後まで効力を有するものとする。なお、第... 条の規定については、本契約終了後も有効に存続するものとする。)

次に契約期間はどうなっているかということです。"commence"というのは始まるということですね。"... from the date hereof"、契約締結日付から始まり、"until[ ]years after the date of this Agreement"ということで、契約締結日付から何年間、受領当事者の義務と責任は存続するという形で書かれているので、これが契約期間に関する規定ということになります。

日付から何年間かという点だけ見て、受領当事者としては安心できません。なぜかというと、その後を見てください。"The provisions of Article (s) ..."と列挙された規定が"shall survive the termination of this Agreement."つまり、この契約の終了後も、これらの規定は、契約期間の終了後、契約の終了後も存続すると書いてあるんですね。だから結局、例えば、契約締結日付から2年間と書いてあっても、その次の文章に挙げてある条項というのは、その後も存続してしまうということになるので、この中に存続してほしくない規定が入っていないかということに注意する必要があります。

あとは秘密情報の定義の中で、秘密情報自体に当たるかどうかということは、契約締結日付より前に開示された情報も含むという定義になっていました。そうすると、ここで規定している契約期間というのが、この期間内に交換した情報以外は守秘義務の対象にならないかというと、それも違うことになります。だから、期間についての規定も当然見るべきですが、他の規定に、期間に関わる条項が入っていないかというのも注意して見なければいけないということです。

② Upon the request of the Disclosing Party, the Receiving Party shall destroy or return all Confidential Information in any tangible form ... and other writings ... . containing the Confidential Information.
(受領当事者は、開示当事者からの請求に応じ、 あらゆる有形の形式による全ての秘密情報及び秘密情報を含むその他の書面を、破棄又は返還するものとする。)

次は秘密保持契約でよく入っている条項ですけれども、秘密情報がいらなくなったら破棄し てください、返却してくださいということを示しています。これは主に情報を出す当事者の側であれば、こういう条項がしっかり入っているかということは見ないといけないということです。この条項を見ると、"Upon the request of the Disclosing Party"、まず、どういう場合に破棄、返却しなければならないのかということですが、この条項では、開示当事者の要求があったら返却しなければならないとなっています。他にバリエーションとして考えられるのは、契約を終了するときに破棄又は返却しなければならないという場合もあり得ます。しかし、上記の条項は、開示当事者が要求をしたら、契約期間中であっても破棄又は返却しなければならないということになるわけです。

破棄又は返却に関する文章がその後の、"the Receiving Party shall destroy or return" という部分です。"destroy"は破棄、"return" は返却ですね。有形的な形式の場合は秘密情報を破棄、データの場合には消去"erase"と することもあり得るでしょうが、返還する義務が定められているわけです。
ここでもう1つ、特に開示する当事者からすると、破棄してくださいということを言ったときに、本当に破棄されていることを確認できるのかという問題があるわけですね。結局、相手当事者の内部の問題なので、本当に破棄されているかというのを、開示当事者が確認するのは結構難しいわけです。
そこで追記することが考えられるのが、"The Receiving Party shall provide the Disclosing Party with a written certificate of such destruction"です。つまり、受領当事者に対し、破棄したことの証明書を出せということを要求するものです。これは契約書によっては入っていたり入っていなかったりというレベルの条項ですが、開示当事者になる場合が多いのであれば、こういう条項を挿入することも検討すべきでしょう。

12、秘密情報の漏洩の場合の責任(損害賠償、差止め等)

①If either Party causes damages to the other Party or a third party by its willful misconduct or negligence in connection with any performance under this Agreement, such Party causing the damages shall indemnify the other Party for the said damages.
(両当事者は、本契約の履行に関して、故意又は過失により相手方又は第三者に損害を与えた場合には、その損害について補償しなければならない。)

本条項は、契約に違反してしまった、秘密情報を漏らしてしまった場合にどうなるのかということを定めています。"If either Party causes damages to the other Party or a third party"で、損害を相手方の当事者、又は他の当事者、第三者に与えた場合ですね。どうやって与えた場合かというと、"by its willful misconduct or negligence"、故意又は過失で損害を与えた場合には補償しなければいけないということで、金銭での補償が原則になっているわけです。

②The Receiving Party understands and agrees that any breach of this agreement will result in irreparable harm to the Disclosing Party and monetary damages may not be an adequate remedy. In the event of any breach hereof, the Disclosing Party shall be entitled to injunction for relief from any damages or any expenditures which the Disclosing Party has suffered.
(受領当事者は、本契約のあらゆる違反が開示当事者にとって回復しがたい損害をもたらすものであり、金銭的賠償が開示当事者にとって十分な金銭手段とはなり得ないことを理解し同意している。本契約のいかなる違反があった場合においても、開示当事者は受領当事者に対し、開示当事者が被った損害又は費用を回復するために差止めの権利を有するものとする。)

金銭賠償以外の差止めについて規定しています。秘密保持義務を破った場合、開示当事者としては、金銭賠償のみならず差止めを要求することもできるという内容です。

13、反社会的条項の追加

Each Party represents and warrants to other Party as follows :
①Neither Party ...(i)is any of the Anti-Social Forces, or(ii)has any relationships with any of the Anti-Social Forces ...
②Neither Party ... does engage in ... assault, battery, threat, blackmail, fraud ... or any other violent actions ... stipulated in the Japanese Act on Prevention of Unjust Acts by Organized Crime Group Members... or other illegal or unjustifiable actions
(両当事者は、相手方に対し、次の各号の全てについて表明し、保証する。
①(i)自己が反社会的勢力でないこと、(ii) 反社会的勢力に一切の関係がないこと
②暴行、傷害、脅迫、恐喝、詐欺...その他「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」に定める暴力的行為、その他の違法行為又は不当な行為を行わないこと)

反社会的条項について秘密保持契約に入れるかはまちまちだと思います。これはどちらかというと、日本で一般的な反社会的条項を英文化したものなので、そのまま海外の当事者に分かってもらえるか、また必要な範囲がカバーされているかという問題もあります。そこで、最近は例えば"OFAC"というアメリカの財務省の下部機関ですけれども、そこが制裁リストを作っていて、それを引用するパターンもあります。

秘密保持契約についてはここまでですけれども、取引の過程で結ぶその他の契約について、神庭先生からお話しいただきます。

14、その他の契約

  • Letter of Intent(LOI)
  • Memorandum of Understanding(MOU)
  • Term Sheet

神庭

NDAの話はひととおり、駆け足でご説明させていただきましたので、NDA以外に契約の初期段階でよく出てくるものとして、上記3つを挙げさせていただいております。
実際に様々なビジネスの中で、これらの契約書に携わっている方は、ご理解されている方も多いかもしれませんけれども、いきなり"LOI"と出てきても、なかなか初心者の方には分からないかもしれません。分かりやすくするために、ビジネスにおける契約締結までのイメージについてご説明いたします。

まずAさんとBさんが何か取引をするとしましょう。この場合、AさんからBさんに何かデータや、テクノロジーとか、サービスを売り、Bさんはお金を払います。Bさんとしては、Aさんからの技術が欲しいのだけれども、具体的にどんな情報か分からないと、なかなか金額もつけられないし、お金を払えないですよね。そこで、Aさんとしては、「分かりました、触りだけお出ししますので、NDA を結んでください。情報の開示を他にはしないでください、これは我々のサービスのテクノロジーですからね。」と述べてNDAを提案します。Bさんはこれについて「分かりました。」と締結し、その後に対象物の情報が少しBさんのほうに開示され、Bさんは「なるほど、こういうサービスを提供しているのだな。これについていくらで買おうかな、いくらでサービスを受けようかな。」と検討することができるようになります。しかし、Aさんとしては、1か月待てども2か月待てども、Bさんから、買います若しくは、使いますという連絡がない。Bさんに対して、「そろそろ回答してください。我々のサービスを他の人にも売りたいです。Bさんだけじゃなくて他にも欲しいと言っている人がいますので。」と言ったとします。これに対して、Bさんは、「待ってください。このサービス、独占的にうちで欲しいのですが、社内的な稟議もまだ通っていないし、うちの会社は大きいので、すぐ確定的な答えを出せません。そこで、まずは"Letter of Intent"、"LOI"を出して、我々がそのサービスの提供を受けようとする意向があることを示します。」というときに出すのが、"Letter of Intent"になります。意向表明書というふうに訳すと分かりやすいかもしれません。

実際に、意向表明書とは何か。我々の会社はこのサービスの提供を受ける意向がありますけれども、まだ決まっておりません。したがって法的な拘束力は持たせたくないが、何か月間はこのサービスについて、我々が独占的に検討する時間が欲しい。この"LOI"の有効期間には独占的な拘束力を持たせたいが、金額はこれからの検討で変わるかもしれない。我々は現時点では100万円でこのサービスを受けようと思っていますが、金額の確定はもう少し待ってください、というようなときの段階で出すのが"LOI" です。「分かりました、上記了解しました。」とAさんにもサインしてもらうことで、"LOI"の具体的な定めにもよりますが、拘束力のある独占的交渉権を得ることが考えられます。

その次の段階で"MOU"です。Aさん、Bさん、お互い100万円、もしくは別途両者で合意した金額で、この技術を提供することを、後日締結する具体的な契約書でもって定めましょうという暫定的な理解合意書を"Memorandum of Understanding"として締結します。両者の理解内容をメモとして書面に落とし込んだものというのが、一般的に"MOU"と呼ばれるものです。

では具体的に、いつどこでこの技術を提供するのか、一回で提供しておしまいなのか、毎月提供するのか、メンテナンスをどうするのか、保守契約について別途結ぶのかなどのしっかりとした契約書を締結する場合に、その契約書の内容を詰めるのに何か月もかかったりしますよね。大きな会社、大きな取引ですと、更に時間はかかります。そのときにまず、重要なところ、金額をいくらにしましょう、期間は何か月にしましょう、契約書の中に反社会的勢力排除の条項を入れましょう、そういう具体的な文章まではいかないですけれども、項目とポイントをリスト化したものが"Term Sheet"です。"term"というのは条件、条項、ポイントという意味です。"sheet"がいわゆる、リストと同じ意味ですね。ポイントをリスト化したものとして"Term Sheet"といいます。

この"Term Sheet"で大枠を合意して、その後で弁護士の方々にお願いして具体的な文章化をして、しっかりした契約書を作る。この契約書のことを"Definitive Agreement" と呼んだりします。"definitive"、最終的に確定された内容の、"agreement"、契約書という趣旨になります。
"LOI, MOU, Term Sheet"は上記のイメージでご理解いただければいいと思います。ただこれは日本法のときもそうですけれども、契約の法的な内容及び効果というのは、タイトルだけでは決まらないですよね。中身を見るのが重要です。タイトルが"LOI"といいながら、中身が法的な拘束力のある細かい契約書だったら、それはもう"Definitive Agreement"と同じだよねと考えられます。当然、後々の紛争なりで裁判所において最終的に解釈されますが、このタイトルというのは、日本法と同じように、参照、参考までのものとしてご理解いただければいいのかなと思います。

赤羽根

タイトルではなく中身を見ないと、どの条項に法的拘束力があるのかというのは分からないわけですね。法的拘束力がないですよということを言っている条項の例としては、"This MOU is not intended to be binding on the parties"、つまりこの"MOU"については、法的拘束力がないと記載されています。しかし、例外が規定されている場合があり、例としては、"except for the section of this MOU entitled Governing Law" のように、準拠法の条項には法的拘束力があるとする場合などです。どの条項がここに挙がっているかに要注意ということですね。

15、その他の留意点

神庭

最後に、海外企業との取引における交渉ポイントについてです。当然ながら海外では忖度は通用しないというのを肝に銘じておいてください。交渉経緯、内容は、書面で残すのが重要になります。日本の場合には、口頭の内容が、後々の証拠になるという側面が残っている場合もありますけれども、海外の場合ですと、書面として残しておかないと、証拠としては不十分です。面倒臭くても、依頼者が嫌がっていても、これは強く説得していくことが重要です。

次に曖昧な部分は残さず、必ず確認してください。少しでも意味が分からない箇所というのは、一般の方はもっと意味が分からないことが多いです。少し意味が分からないなと思うところは、書き直すなり、やり直すなり、再検討したほうがいいということが多いです。結局、後日紛争になりやすい点になります。
相手方の国内法の規制が関係する場合、必ず現地法を扱っている弁護士に確認してください。日本法の感覚で考えると、全く異なる法制度の場合や、規制が適用される場合があります。例えば、中国における2017年の海外投資規制の厳格化やインドにおける2017年の税制改革など、最近でも結構大きな改正が海外でも行われたので、これは現地法の弁護士に確認することが必要です。

最後に海外企業と契約を締結する場合のアドバイスです。手続面の話ですけれども、最近は意思表示が表れていればいいとされることから、お互い署名した書類のPDFを交換するということも多いです。ただ、証拠として残すには、紙で残しておいたほうが安全です。捺印(なついん)か署名かについては、印鑑がない国においては署名しかないですけれども、基本的にはどちらであっても両当事者の契約締結の意思表示が表れていればよく、それをしっかり証拠化しておくということが大事です。本人確認については、少しでも怪しいなと 思う案件やご相談がありましたら、現地国の弁護士に具体的な確認手段を相談することが重要かなと思います。