出版物・パンフレット等

この一冊 Vol.135『燃えよ剣』上下巻


『燃えよ剣』上下巻
司馬 遼太郎
新潮文庫
上巻 853円(税込) 下巻 853円(税込)

学生時代、大河ドラマで新選組が取り上げられたことや、この大河ドラマの脚本を三谷幸喜さんが手掛けていたことから、ふと立ち寄った書店で、この本を購入しました。 物語は、「鬼の副長」として鉄の組織を作り上げた土方歳三を中心に、幕末を駆け抜けた志士たちの姿が江戸幕府側から描かれています。
初めてこの本を読んだ私は、歴史小説であるとはいえ、東京の多摩地域出身の近藤勇や土方歳三、長州藩(山口県)出身の桂小五郎(後の木戸孝允)、土佐藩(高知県) 出身の坂本竜馬らが、故郷だけでなく江戸や京都を奔走する姿にそれこそ胸を打たれました。
また、この物語では、組織の規律や局長・副長といった各役職のあるべき姿についても触れられており、幕末の時代の流れに新選組も否応なく取り込まれていく様が描かれています。その中でも興味深かったのが、戊辰戦争をきっかけに、これまでの日本刀での斬り合いを主とする戦い方が、フランスやイギリス等から輸入された近代の銃火器を主とする戦い方に切り替わったときのことです。
新選組の隊士たちは、実践の場でその変化を肌で感じることになったのですが、主人公の土方歳三の面白いところは、それを痛感するや、西洋の戦闘方法をすぐに研究し、隊士の中でいち早く、服装まで西洋式に切り替えてしまったのです。土方歳三自身は、時代の変化に柔軟に対応しているのですが、どことなくその様子がコミカルに描かれており、非常に魅力を感じました。何事も形から入ってしまう私の悪い癖は、このエピソードが影響しているかも知れません。 また、この小説では、人物だけでなく、当時の志士たちが携えていた日本刀についても触れられています。近藤勇の長曽祢虎徹、土方歳三の和泉守兼定、沖田総司の菊一文字則宗など、当時の日本刀が何本も登場します。
土方歳三が箱館戦争の終結直前まで使用していた和泉守兼定が公開された際には、すぐに見に行きました。
刀を使用しては研ぐということを繰り返した結果、私が目にした兼定は、それこそ懐刀のような短さになっていました。刃紋や刀身の魅力も素晴らしかったのですが、刀自体がそんなに短くなっていることそれ自体に、胸が締め付けられるような強い印象を受けたことを今でもはっきりと覚えています。 この小説を読んでから、京都や函館など幕末の関連スポットを巡る旅をするのが趣味になりました。また、包丁や鋏といった刃物作りそのものにも興味を持つようになり、家の包丁にも凝るようになりました(そこまで料理はしませんが)。 この小説は、私に様々な変化を与えてくれました。私も、幕末の志士のようにとはいかないですが、自身の仕事にまい進しなければと思っています。

当弁護士会会員 高橋 和弘(66期) ●Kazuhiro Takahashi