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【当番・国選日誌】意外なところに潜む落とし穴

はじめに

刑事事件には、思わぬところに落とし穴があります。何件か事件をこなして少し慣れてきた頃、このような落とし穴にはまるときが度々あります。今回は落とし穴がどのようなところに潜んでいるか、どのように対処すればよいかをお話しし、今後の弁護活動に役立てていただきたいと思います。

1、被疑者段階での落とし穴

1、出動の際

当番・国選問わず、事件の配点は基本的に待機日に連絡が入ってきます。配点の連絡は、基本的には被疑者国選待機日は勾留質問が行われる13時頃から17時頃まで、当番待機日は10時から17時半までです。この日に予定をできるだけ入れないことは基本ですが、夜遅い時間の予定も入れないようにしましょう。というのも、配点の連絡を受けてすぐに警察署に行こうとしても、被疑者が警察署にいないことが往々にしてあるからです。被疑者国選の場合であれば、勾留質問を終えた後一斉にバスで各警察署に送られることになります。バスは勾留質問が全て終わり次第出発しますが、方面別に出発し、各警察署で人を下ろして行きます。その結果、早いところは18時過ぎに被疑者が帰っていることになりますが、遅いところですと19時過ぎや20時過ぎになることもあります。その時間を見計らって警察署に行ったとしても、前に接見を待っている弁護人がいれば待たざるを得ません。そうこうしているうちに就寝準備が始まることもあります。また、当番事件でも、当番の要請が夜遅くの場合には翌日に配点がなされます。したがいまして、実際の配点の日に、被疑者が実況見分等に出ている場合には、警察署に行ってもすぐに会うことができない場合があります。
このようなことから、夜も念のため空けておきましょう。そして接見に行く前には警察署に連絡し、被疑者がいるか、いなければいつ帰って来る予定かを問い合わせましょう。

2、警察署にて

(1)接見について
前述のとおり、接見のために警察署に行っても、前に他の弁護人が待っている場合があります。特に接見室が1つしかないような警察署(古い警察署に多いです)では、複数人待っていることも珍しくありません。これまで私の経験した最多は4人待ちです。くれぐれも時間に余裕を持って行きましょう。特に終電の時間を念のため調べておくこともときには必要です。なお、自分の後ろに接見を待っている他の弁護人がいる場合には、大体の接見時間の目安を話しておくと、その弁護人が待つか帰るかの判断ができるためよいでしょう。これ以外にも接見に行ってもすぐに会えない場合があります。いくつか例を挙げます。まずは押送(警察署から裁判所等へ連れて行く)と逆送(裁判所等から警察署に帰って来るとき)のときです。このとき警察署は職員総出で押送等を行うため、終わるまで接見はできません。特に7時から8時頃は、起床の準備と押送の手続とが重なり、接見するまでに時間がかかることがあります。この時間に接見に行くときは時間に余裕を持った方がよいです。
次に、新しく留置場に入る人の手続を行っているときも、終わるまで接見はできません。この手続は相当時間がかかる場合(30分を超えること)もあります。

(2)物の授受について
弁護人は被疑者にいつでも会うことができます。しかし物の授受はいつでもできるわけではありません。金銭そのほかの貴重品は警察署の金庫に保管されます。したがいまして、平日の夜や休日等警察の一般事務が開いていないときは貴重品の宅下げができません。事前に宅下げの手続を被疑者に依頼しておき、平日の昼間に被疑者が手続をしておけば、休日や平日の夜間でも貴重品の宅下げを受けることができます。
なお、被疑者に接見禁止が付いているときであっても、物の授受に関しては公刊物等の差し入れができることもあります。接見禁止命令の内容を被疑者に見せてもらい確認することも重要です。

3、検察官との関係

被疑者・弁護人にとって検察官は対立当事者です。しかしこのことは常に検察官と敵対するということと同じではありません。常に敵対意識を持っていると被疑者の利益にならない場合もあります。自白事件で不起訴処分の獲得を目標とする場合には、どのような環境調整を行えば不起訴処分となるか積極的に検察官と連絡を取ることも必要です。また略式の場合には誰がお金を用意し、いつどこにそれを持って行くかについて検察官と連絡を取る必要が出てきます。皆さんの中には、検察官は忙しそうだから連絡するのは気が引けるという方もいらっしゃるかもしれません。しかし大方の検察官は弁護人と話すことを嫌がっていません。必要であれば是非積極的に検察官と連絡を取りましょう。
また、被害者と示談した場合、示談書を検察官にFAXで送ることがよくあります。検察官は示談の内容について原則被害者に確認します。そのため、勾留満期直前に示談を行う場合には、検察官が被害者に確認を取る時間を考慮するとともに、被害者から検察官に連絡することを依頼する等、工夫をしましょう。そしてときには示談金を被疑者の関係者から預り金口座に振り込んでもらうことがあります。この示談金を引き出す際に、ATMで引き出そうとすると一日の限度額との関係で全額を引き出せないことがあります。このようなことを避けるため、事前に一日の引出金額の上限を可能な限り高く設定しておきましょう。勾留の満期が近くなってくると、気になる のはいつ釈放されるかです。ここも検察官に確認しておきましょう。検察官に確認せず、釈放は勾留満期日だろうと思い込んでいると思わぬときに釈放となり、接見に行こうと警察署に連絡すると既に釈放されたと回答されることがあります。

2、被告人段階での落とし穴

1、接見や保釈について

被告人段階では、被告人の身柄が警察署から拘置所に移送されることになります。ただ、いつ移送されるかは事件によって異なります。起訴されて1週間程度で移送されることもあれば、最後まで移送されないこともあります。身柄が移送されると検察庁からその旨連絡が入ります。ただその連絡は移送当日であり、しかも移送の日には拘置所で面会することができません。被告人と接見の約束をしていても、身柄が移送されたことにより約束どおり接見できなくなることもあります(拘置所での接見は原則平日の9時から17時まで)ので気を付けましょう。
拘置所では、宅下げのタイミングに気を付けましょう。警察署では接見のときに宅下げを依頼すると接見終了後に宅下げを受けることができます。しかし拘置所では被告人が宅下げの依頼書を出してもその処理に時間がかかるため、接見後すぐには受けることができない場合があります。宅下げを受ける必要があるときは、事前に被告人に伝えておきましょう。
そして拘置所で一番気を付けなくてはならないのが、携帯電話の忘れ物です。弁護士待合室内にロッカーがあり、その中に携帯電話を入れ、接見後拘置所を出てからロッカーに入れたまま忘れたことに気付いた場合、拘置所が開いている時間であれば、戻って事情を説明すれば携帯電話を受け取ることができます。忘れ物をしたのが金曜日かつ気付いたときには既に拘置所が閉まっている時間だった場合、携帯電話を受け取れるのが月曜日になることもあります。
また、起訴後保釈の請求をし、保釈決定を得て保釈保証金を現金で納める際、ATMでの引出限度額を事前に上げておく必要があることは前述のとおりです。そして保釈保証金を納付してすぐに被告人の身柄が解放されるわけではありません。検察庁が釈放の手続をする関係で、早くても数時間はかかります。午後に納付した場合、釈放が夕方かそれ以降になることもあります。おおよその目安を検察庁に確認した上で、関係者に連絡をするとよいでしょう。

2、公判について

証拠の開示や証拠に対する意見、公判の準備等で気を付けるべきことは研修等でお聞きのとおりです。
公判で気を付けるべきことがあるとすると、執行猶予付きの判決を求めるときです。前に禁固以上の刑に処せられた場合、その執行が終わった日から5年を経過しない場合には執行猶予がつきません(刑法第25条1項2号)。この規定を忘れ公判で執行猶予付き判決を求める弁論を行い、裁判官や書記官から執行猶予がつかない旨指摘されるという場面を何度か見たことがあります。
執行猶予判決が出た場合に、被告人の身柄がどのようになるかについても注意が必要です。身柄が拘置所にある場合には拘置所に荷物があることが多く、そのときはバスと一緒に拘置所に戻ることになります。これに対し、身柄が警察署にある場合には荷物も一緒に裁判所に持ってきていることが多く、そのときはその場で釈放されます。
また、外国人事件で判決時に在留資格がない場合、法廷に入管の職員が迎えに来ていて、そのまま入管に連れて行かれることになります。被告人に聞かれた際には説明できるようにしておきましょう。

3、外国人事件での落とし穴

外国人事件では、被疑者との関係はもちろん、通訳人との関係に気を付けなければなりません。例えば、当番や被疑者国選事件の配点を受けてその日の夜に接見に行こうとしても、通訳人のスケジュールがいつも空いているとは限りません。お互いにスケジュールを調整し合う気持ちが必要です。それでもスケジュールの調整がつきにくい場合には、思い切って別の方に通訳をお願いするという方法もあります。
外国人事件で注意すべきは、通訳人と被疑者とが何を話しているか注意して聞くことです。通常は通訳人がおかしな通訳をしているとは考えられないでしょう。しかしながら、まれに通訳人としての資質に疑問がある方に出会うときがあります。このような通訳人を見分けるには、いくつか判断すべきポイントがあります。もちろん、通訳人と被疑者とが何を話しているか理解できることはほとんどないでしょう(もし理解できるならば通訳は不要)。しかし、被疑者がたくさん話をしているにもかかわらず通訳人が少ししか話してくれない場合や、弁護人が少ししか話していないにもかかわらず、通訳人と被疑者とがずっと話し続けている場合などは注意が必要です。このような場合には、通訳人にその旨指摘し、逐語の通訳をお願いすべきですし、弁護人としても質問を短くするなどの工夫が必要です。また、通訳人が勝手に事件の見通し等を被 疑者に話していることがあります。実際にあったケースとして、事情により通訳人が交替した際、被疑者から、「前の通訳人からこの事案は執行猶予になるから早く認めた方が楽になると言われた」と言われたことがありました。もちろん通訳人との関係を良好に保つことは大事ですし、場合によっては弁護人より通訳人の方が入管法その他の知識がある場合もあります。しかし何の疑いもなく通訳人を信じてしまうと後で思わぬトラブルになる可能性があります。何か違和感があるときには、一度別の通訳人を連れて接見を行うといった対応を検討しましょう。
また、在留資格の更新等を行う場合にも注意が必要です。身柄拘束されている被疑者被告人に代わって、入管に在留資格の更新等の手続を行う場合があります。しかし弁護人だからといって無条件で手続を行うことができるわけではありません。事前に弁護士会を通じて入管に手続の代理をするための届出をする必要があります。この届出をして届出済証明書を発行してもらうのに2、3週間かかります。被疑者被告人から実際に依頼されてから届出をしても間に合わない可能性があります。したがいまして、事件を受ける前から届出をしておく、又は、初期の接見の際に在留資格及びその有効期限を確認し、在留資格更新等の必要がありそうならば速やかに届出を行うといった準備をしておくとよいでしょう。

少年事件での落とし穴

少年事件で最も気を付けなければならないことは、家裁送致日がいつかを正確に把握することです。把握するためには、検察官に連絡を入れ、勾留が10日なのかそれとも延長されるのか、延長されるならば何日間延長されるのかを聞くことが大事です。これをしないと、知らないうちに家裁送致されてしまい、付添人の要望書を家裁及び法テラスに出せなくなります。そうすると、弁護人自身が付添人になれないという不利益もさることながら、家裁が国選付添人を選任しなかった場合に、付添人無しで少年審判が行われる危険性があり、少年側に重大な不利益が生じる可能性があります。
また、管轄についても注意が必要です。すなわち少年事件において家裁送致がなされると、少年の生活の本拠を管轄する裁判所に事件が送られることが多いです。例えば、勾留場所は都内区部の警察署でしたが、観護措置が取られ事件が移送されたのは少年の実家がある北関東の支部だったため、当該弁護士が付添人にはならず支部の弁護士が付添人に就任したということもありました。このような場合には、接見に来る弁護士が変わり少年が慌てないためにも、事前に付添人段階で人が変わる可能性があることを少年に話しておきましょう。
少年事件における記録の閲覧についても気を付けることがあります。成人の事件とは異なり、少年事件において記録の閲覧をするためには裁判官の許可が必要です。そのため、申請をしたその日には閲覧できないことがあります。また、記録も成人と異なり厳選されていないため、量がそれなりにあります。時間に余裕をもって行動しましょう。

最後に

ここに書いた以外の場面でも、落とし穴が潜んでいることがあります。落とし穴の多くは、時間に余裕を持った行動を取ることやちょっとした注意で防ぐことができます。しかしそれでも落とし穴に落ちることや落ちそうになることが誰にでもあります。そのようなときには、遠慮なく刑事弁護委員会にご相談ください。

弁護士 磯野 清華(61期)
●Seika Isono