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座談会「企業内弁護士の手引き」

企業内弁護士の急増に伴い、本誌2016年6月号においては、企業内弁護士を特集記事として取り上げ、企業内弁護士の現状、課題等について紹介した。本特集は、前回の特集を踏まえ、最新の企業内弁護士の実像を紹介するものである。本特集前半では、日本組織内弁護士協会(JILA)の榊原理事長、村瀬理事より、企業内弁護士の推移、男女比等に関する最新のデータをご紹介いただいた上で、日本企業における企業内弁護士の特徴等についてご説明いただいた。また、本特集後半では、4名の企業内弁護士から、法律事務所における弁護士との役割の違い、今後のキャリアプランなどについて議論してもらった。企業内弁護士に興味のある方に、ぜひお役立ていただきたい。

榊原 美紀 村瀬 拓男

1、データで見るインハウス

1、身近にいるインハウスローヤー

第二東京弁護士会において、インハウスローヤーがどのくらいいるのかご存知でしょうか。2018年12月末時点で、549名です。同時期の二弁登録者数は5744名ですから、約一割がインハウスローヤーということです。この数字は、国と地方自治体を除くあらゆる法人に役員または従業員として勤務しており、当該法人所在地を事務所所在地として登録している弁護士の総数です。
ご存知のように、東京都をはじめとして弁護士や有資格者が勤務する地方自治体は増えており、また中央官庁でも主に任期付公務員として多数の弁護士が勤務しています。加えて、近年は法律事務所がクライアント企業に所属弁護士を出向勤務させているケースも増えてきています。これらの数字は上記のインハウス登録には表れてこないものです。また、以前インハウス登録をしていたが、現在は法律事務所登録としている弁護士も多数いますので、二弁においては、数名に1名がインハウスまたはインハウス経験者ということになります。
もちろんこのような状況は全国的に同じというわけではなく、大都市圏に偏っており、同じ昨年末の数字で、東京784名、一弁549名、大阪146名、京都52名、愛知42名となっている一方、1名もインハウス登録がない単位会は20 以上存在します。

2、この15年で20倍に増加

インハウスローヤーの全国での登録総数が 100名を超えたのは2004年で、2018年末に2275名ですから、約15年で20倍以上に増えたことになります。なお二弁だけで100名を超えたのは2010年です。2004年から2018年までで弁護士登録者数は約2倍となっていますが、弁護士全体の増加率を一桁上回る増加率で、インハウスローヤーが増えたということになります。数年前に新規登録弁護士の就職難が問題と なったことは、皆さんの記憶に新しいところかもしれません。当時インハウスの急増は、企業が法律事務所就職難の受け皿になったため、といった言説が流布されましたが、実態はそうではありません。
たしかに、2018年6月の時点で、60期台18310 名中1568名がインハウス登録をしており、その割合は約8.6%になります。そこだけ見れば急増した新人がインハウスに流れたように見えますが、就職難とは関係ないはずの50期台で、2007年に100名だったインハウスが2018年には417名に増えており、一貫して右肩上がりとなっています。

3、企業の採用傾向は新人から経験者に

これは、企業が新人弁護士だけでなく、ある程度キャリアのある弁護士を採用しているということを意味します。実際、年度ごとのインハウス登録者の実増数のうち、2012年頃までは新人が占める割合が50パーセントを超えていましたが、その後は漸減し2018年には32.8%と、3分の1を下回りました。企業の採用傾向は、新人から経験弁護士に徐々にシフトしているようです。
これらの数字から何が読み取れるか、ということですが、企業等がその組織内に弁護士を置くことのメリットを認識し、積極的に採用を拡大していることは間違いありません。しかし、2018年末のインハウス登録者2275名に対し、インハウスを置いている法人数は実に1079法人に及びます。多くの法人で、登録インハウスが1名だけという状況があり、組織的に育成する体制がなく、「法律家」としても「社会人」としてもある程度出来上がった人を採用したいと考えているのではないでしょうか。

4、一貫して保たれている高い女性比率

インハウスローヤーに関して指摘しておくべきことは、その女性比率の高さです。2010年頃からほぼ一貫して40%前後を維持しており、全弁護士の中での女性比率が18.7%であることに比べ、倍以上の比率です。ちなみに、全弁護士中の女性比率が10%を超えたのは21世紀に入ってからです。今年の東京大学入学式の式辞で上野千鶴子氏が東大生の女性比率が2割を超えないことに触れ、「性差別」問題を指摘して話題となりましたが、数字だけを見れば弁護士の世界も同じ状況かもしれません。
二弁はその中でも、副会長の選出にあたってクオータ制を導入するなど、女性の活躍の場を広げる努力を続けていますが、インハウスローヤーの世界は、はるかその先を行っていることになります。JILAは5名の副理事長のうち3名、24名の理事のうち10名が女性であり、インハウスの女性比率が反映されています。JILAが定期的に行っているアンケート調査では、現在の職場を選んだ理由として「ワークライフバランスを確保したかったから」との回答が、常に半数以上存在します。この点は女性比率の高さに関係がありそうですが、「男性優位」であった弁護士の世界で、フロンティアとなっていたインハウスの領域に、女性が積極的に出ていったということかもしれません。
アメリカなどでは、クライアントからダイバーシティの反映をローファームに要求される流れがあるとされていますし、インハウスの女性比率の高さを考えると、日本でも同様な流れとなることも考えられます。

5、日本企業におけるインハウスの特徴

最後に、データ等から読み取れる話をもう一つ。JILAはインハウスを多く抱える企業上位20社を、2001年以降毎年集計して公表しています。このリストを見ると、2010年頃を境に、上位企業がいわゆる外資系金融機関から日本企業に入れ替わっていることがわかります。その後も外資系の数字はあまり増えないまま、日本企業の採用数が増加しています。
修習期ごとの数字を見ると、2007年6月時点で、30期台は12名、40期台は69名のインハウス登録者がいますが、2018年でも、30期台は12名、40期台は66名と、ほとんど変化がありません。つまり、外資系企業のインハウスの多くが30期台、40期台で、その数に変化がなく、50期台、60期台が日本企業のインハウスを構成していると見ることができます。
これは、外資系企業において、インハウスをゼネラルカウンセルやそれに準じたシニアな存在として位置付けている一方、日本企業は既存の法務部員の強化や置き換えという形でインハウスを拡充している、ということではないかと考えられます。「法務」という機能を企業内でどのように位置付けるのか、という問題とも関係しますが、日本企業で増えているインハウスローヤーの企業内でのポジションがどう変化していくのか、注意深く見ていきたいと思います。

座 談 会

木内 秀行 仲村 文博 鍛治 美奈登 岡野 光孝

1、はじめに

司 会

本日はお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。まず各先生方に現在のそれぞれのお立場をお話しいただければと思います。

木 内

木内です。修習期は47期です。弁護士生活の前半およそ10年間は、いわゆる渉外事務所での渉外実務に従事しておりました。後半およそ10年は、外務省への出向を皮切りに、役所や企業内で執務していました。
外務省から始まって、石油会社、証券会社、エンターテインメント会社、電子機器の会社を経て、現在はアクサ損害保険株式会社のゼネラルカウンセル法務の最高責任者であり、また役員として経営に関与するという立場におります。

鍛 治

キリンの鍛治と申します。私は61期で、弁護士11年目になります。最初の約6年間は銀座の中堅事務所で一般民事や医療訴訟を中心に担当し、企業法務では主に中規模企業の支援をしていました。その後、キリン株式会社(法務部)に入社し、海外法務チームに所属しています。海外子会社の管理、M&A、英文契約書の作成・確認に加え、国内外の訴訟や係争の解決を担当しております。

仲 村

ビズリーチの仲村と申します。
修習期が64期で、修習が終わった後、そのまま地方の企業に入りました。その会社には、法務という部署があるわけではなく、経営企画的な部門の中で法務的な業務を行っていました。
2014年の4月にビズリーチに転職いたしました。当時、従業員数は約150名で、まだ管理経営部門も数名程度でしたが、現在の従業員数は1,400名程に増えています。最初の2、3年は法務をメインで担当していましたが、その後社長室に異動して、コーポレート系の業務や内部監査室長も兼務し、弊社の内部監査業務の立ち上げも行っております。

岡 野

第一三共の岡野です。修習期は66期です。弁護士になる前から第一三共で法務を担当しておりました。弁護士登録後は外資系のジョーンズ・デイ法律事務所にしばらくおり、現在は元の会社に戻りました。ジョーンズ・デイではM&A等を中心に扱っていました。現在は、グローバルの子会社の法務管理を中心に、契約書のチェック、訴訟・紛争管理を行っています。

2、企業内弁護士を志望した経緯

司 会

まず初めに先生方がインハウスになられたきっかけを教えてください。

木 内

法律事務所での執務というのは、クライアントが案件の法律問題をスパッと切り取って、ご相談に見えるのですが、インハウスの場合は、案件の始めから終わりまで、事業を行っていく人と一体となってビジネスの当事者になる。そこに魅力を感じてインハウスに転じました。

鍛 治

法律事務所時代に小さなベンチャーのクライアントから「タイに出店したい」との相談がありましたが、その時に、海外に話が及ぶと自分が何の役にも立てないことに気付きました。弁護士が国内の取引にしか対応できないと、海外展開したい会社のニーズに応えられないと思いました。そこで、海外法務ができる環境で執務したいと考えたのがきっかけですね。当事者としてビジネスを進める側でサポートしたいというのも理由の一つです。

仲 村

私は修習後すぐに企業内弁護士になったのですが、面白そうだと思ったというのが一番の動機ですかね。

岡 野

私は、資格を取って法律事務所に勤務していたのですが、しばらくしてから、インハウスに戻ってプロジェクトを進めていく仕事をしたいと思い、現在の職場に戻りました。

3、勤務形態・業務内容

司 会

それでは、勤務形態・業務内容について、先生方からお願いします。

木 内

定時が9時から17時半までで、だいたい19時ぐらいには帰りますね。業務内容は、一つはプレーヤーとして法律のアドバイスをすることですね。もう一つはマネージャーとして、リーガル・アンド・コンプライアンス本部を統括し、かつ、執行役員として経営会議に参加して、経営上の事項について議論し、意思決定を下すという仕事をしています。
私の仕事は、管理職及び経営者の仕事にだいぶ軸足を置いています。ですから、予算やプロジェクトの決定など、経営上の事項について、法的観点からだけでなく、経済合理性を考慮して議論する立場にあります。
つまり、私の基本的なスタンスは、右手に法律、左手に経済合理性、頭に戦略があって、最後、心に人間や社会への思い、こういったものを持って仕事をするというものです。

司 会

うーん、ものすごくカッコいい。

木 内

まずは、ちょっと決め文句で。

司 会

続きまして、鍛治先生からも勤務時間、業務内容、さらに現在取得されている育休制度についてご説明いただけますでしょうか。

鍛 治

コアタイムのないフレックスなので固定勤務時間はないのですが、多くの人は9時から10時頃に来て、18時から19時頃に帰っていますね。部署にもよりますが、在宅勤務も週1 〜 2回可能です。
弊社の法務部には、国内法務、海外法務、コーポレート法務、商標管理の4つのチームがあります。私が所属している海外法務チームでは、英文取引契約書の作成・チェック、海外子会社の管理をしています。私の担当子会社はヨーロッパやアジアが中心でしたが、リーガル部門がない子会社が多いので、子会社のコンプライアンスを向上する制度設計の検討もしていました。
また、私が元々、法律事務所では紛争処理を経験していたこともあって、訴訟案件や大型の交渉案件、あるいは労務問題など、所属チームを超えて担当していました。

司 会

鍛治先生以外に弁護士資格をお持ちの方はいらっしゃいますか?

鍛 治

日本の弁護士有資格者は全部で5名います。うち3名の修習期が61期で、 あとは62期、64期ですね。他に、海外の弁護士有資格者が2名います。

司 会

全員が法務部に所属しているのですか?

鍛 治

全員法務部です。弊社の場合は、有資格者は基本的には法務部という流れがありますが、希望とニーズが合えば、他部署への異動もあり得ます。それから、ご質問のあった育休制度は、法律事務所よりも企業の方がずっと充実していると思います。弊社の場合は、子どもが2歳になるまで育休を取ることができるため、1年から2年近く休む人もいるので、育休が取りやすい環境です。育休中も保険で給料の3分の2(一定期間経過後には2 分の1)の収入が保証されますので、安心して休めます。最近は男性で育休を取る人も増えてきています。

司 会

仲村先生は、業務内容、勤務時間等はいかがですか。

仲 村

会社が急成長していく中で、業務の内容も制度も変化が激しいという印象ですね。現在の会社に入社した当初は、管理本部の法務室というところで、法務機能を全部見ていました。ただ、従業員150名程でしたから、総務周りを手伝ったり、契約書を見たり、法務以外の部分でもフォローするというのが2年くらい続きました。その後、会社の規模がある程度大きくなってきたところで、分業化が進みました。現在は社長室で、法務室とは異なる事業側の支援をメインで担当しています。
特徴的なのが、投資事業の責任者も兼務している関係で、窓口対応や、投資対象としての判断、適格性まで幅広く担当しているところです。
勤務時間については、何もなければ、9時半に来て18時過ぎに帰ることにしています。

司 会

先生以外に有資格者はいらっしゃいますか。

仲 村

1名いますが、法務の業務にはほとんど携わっていないですね。

仲村文博先生
仲村文博先生

司 会

岡野先生は元々いらした会社に、資格を取得してから戻られて、以前と業務の内容等に変化はあったのでしょうか?

岡 野

歴史のある会社なので、業務がわりと安定しているんですよね。弊社の法務では、法務グループとコンプライアンスグループという2つに分かれていて、私は法務グループに属しています。いわゆる契約・紛争と、組織再編の対応など、業務内容がだいたい固まっているので、そんなに仕事の質が変わったということはないですね。変わったところといえば、海外子会社の法務の再編です。中国は大きな市場なので、ちゃんと法務部を作りましょうということで、今年一年、上海に行くことが多く、東京から法務部員1名を出向いただいて、きっちりと立ち上げようというプロジェクトに取り組んでいます。弁護士の仕事と余り関係ないのですが、そういう組織の立ち上げのようなことも今年はありました。
勤務時間は、朝は早く出るようにしていますが、19時〜 20時には、退社するようにしています。

司 会

会社全体で資格をお持ちの方は?

岡 野

会社全体で4名います。コンプライアンスに1名、私を含めて法務に3名です。

4、事務所と比較して、企業内弁護士のメリット・デメリット

司 会

続いての質問に移ります。仲村先生以外は、元々、一般の法律事務所にも所属されていたそうですが、インハウスと一般の法律事務所との業務の差異や、それぞれのメリット・デメリットについてお話しいただければと思います。

木 内

法律事務所ですと、クライアントが案件の一部を法律問題に限ってピンポイントで聞いてくる。ところが企業においてはそうではなくて、案件の始めから終わりまで、しかも法律問題だけではなく、経営企画的なもの、例えば部門の再編、プロジェクトの構築など、法律以外の多領域にまたがって仕事をすることもあります。
もう一つは、コミュニケーションを取る方々の数も違います。企業にいると、法務関係者だけでなく、事業部の方々とも接点を持ちますし、管理部門でもヒューマンリソースとか、財務・経理とか、経営企画とか、そういった多種多様な部門の方々と接触を持つことになります。あくまで客観的なロイヤーではなく、事業の当事者として、様々な立場や価値観を使い分けながら一つの案件を進めていくというところが、圧倒的に違うと思います。したがって、インハウスを続けていると、 人間として伸びる余地がすごくあることを実感します。法律事務所では、「先生!」という感じですが(笑)、会社ではただの「木内さん」ということで、ちゃんとコミュニケートできないと相手に自分のことを分かってもらえないし、また、相手の価値観もきちんと理解しないと相手は納得してくれない。法律にとらわれずに、様々な価値観を使い分けることによって、自身の視野を広げたいという人には、とても楽しい仕事だと思います。

5、外部事務所の選択要素について

司 会

続いて、外部の法律事務所と、どういう関係を取られているのかについて、お話しいただけますか。

木 内

僕の場合は3つファクターがあります。専門性、客観性、力仕事、こういったことについては、外部事務所に頼みます。
法分野によって様々な専門領域があって、その専門領域の知見が自分を超えるときには、専門性を持った外部事務所に頼むということです。
また、客観的な法的意見を求めるときにも外部法律事務所に頼みます。もちろん私自身も弁護士ですし、企業の利益を離れた客観的な意見を述べる立場にありますが、それでも、第三者的な立場から見ると、あれは会社の弁護士だから会社に寄った意見を言っているのだろうというバイアスを持って見られることもあります。そういうときには、客観性を担保するために、外部事務所に意見を求めることがあります。
最後に、労力や人員を要する力仕事が必要な案件については、それ相応の人員を備えた法律事務所にお願いします。
選択のファクターは「速い」「安い」「うまい」ですね。「安いというのは、単に弁護士費用が安ければいいというものではなく、コストパフォーマンスの問題です。次に、「速い」は、本当に仕事の速さです。ただ短に速いだけで、質が伴わなければ意味をなさないので、それも仕事の質の関係から論じられます。それから「うまい」というのは、文字通り、仕事の質で、専門性+アドバイスの的確性も含まれます。どんなに立派な法律論を語っていても、それがこちらの疑問やソリューションにマッチしていなければ意味がありません。そういう質の問題があります。

司 会

一般の法律事務所の弁護士業務との 差異について、鍛冶先生はいかがでしょうか。

鍛 治

外部の第三者ではなく、当事者として、経営者のビジネスパートナーの立ち位置で仕事ができる点は違うところだと思いますし、入ってくる情報量と質も違います。外部の法律事務所にいたときは、会社の法務部が情報をまとめて相談に来るため、ビジネス背景が分かりにくい面がありました。今は、ビジネス背景や目的を知った上で法務サポートに入れます。逆に、自分が外部の法律事務所に頼むときは、必要な情報をまとめて、法的に意味がある事実をピックアップしてお伝えしたり、必要な人を連れていったりしており、これらは法務部の役割の一つだと思っています。ほかに事務所時代との大きな違いは、営業しなくていいというところですね(笑)。法律事務所に所属している以上、一事業者として、大きい事務所であってもパートナーになれば、クライアントを獲得しなければならない、顧客関係を維持しなければならないというのが、大きく違うところだと思います。
逆に、どんなに頑張っても、組織に属する以上、自分だけの業績にはならないので、得意・不得意や自分の生き方に合っているかどうかによっても違うと思いますね。

司 会

岡野先生は、お二人の先生方と違って、もともと企業にいらしたので、見方も違うのではないかと思います。もともと企業でのご経験が長く、それから法律事務所に行って、どのように違いを感じたのでしょうか。

岡 野

鍛治先生のお話にあった営業の件は同じように感じるところはあります。事務所としては当然、少しでもタイムチャージでの見積りは多めの方がいいのですが、クライアントの立場になれば、それは安い方がいいわけで、そこが一番悩むところですね。
もう一つは、色々な制度を作ったりするのが好きなので、新しいものを作れるのは、やはり会社の法務部に属していることのだいご味だと思います。自分で作って回していくというのが、私はわりと好きなので、私にとってはインハウスの長所の一つという感じがします。

仲 村

私は小さいベンチャーを経験して、今の規模になってきたというところで、法律事務所にお願いするものが変わってきたのは事実です。
小さい会社は、お金がないので、まず社内でできることは社内でやり、外に聞くのは、力業が必要なパターンや、本当に社内では手に負えないものなど、かなり厳選していました。その後、ある程度規模が大きくなり、資金に余裕が出て来たので、法務が必要だ、人を採用しよう、予算を付けようという動きになって、外部の法律事務所には今まで聞きたかったことについての相談や債権回収をお願いするようになりました。
また、弊社は非上場でベンチャーキャピタルからの出資をいただいているので、特にベンチャー界わいで定評のある法律事務所をベンチャーキャピタルからご紹介いただくこともありますね。

木 内

企業の方々が弁護士に接することは、そう多くはないので、弁護士のクオリティの判断は、インハウスでないとなかなか難しい場面もあるんですよね。弁護士が外部弁護士を選別することによって、コストカットする。そういうことが、企業内弁護士の役割だと思います。

岡 野

見積りがしっかりしている先生を選ぶというのはありますね。見積りがブレる先生は、経験がないと見ます。弊社は、外部の先生を選ぶときに、一応基準のようなものは法務部で持っているのですが、毎年アンケートを書きます。金額、サービス内容をストックしているんです。見積りがしっかりしていて、コミュニケーションがしっかり取れる先生は評価が高いです。

鍛治美奈登先生
鍛治美奈登先生

6、弁護士を新卒で採用する場合と中途で採用する場合の違い

司 会

新卒と中途採用の違いについてお伺いします。

鍛 治

私はまだ採用には携わってないので明確には言えないのですが、会社としては、試行錯誤の最中だと思います。中途採用でも大手事務所から採るか、中小規模の事務所から採るか、悩みながらやっているように思います。
弊社法務部には、私と同期で、新卒で入社した弁護士がいるのですが、彼の方が、社内ネットワークや事業理解が中途入社の私と比べて遥かに充実していると思います。一方で、自分が外の法律事務所にいた経験が生かせていると思うのは、訴訟実務や交渉実務を知っているということです。紛争解決を知っているので、契約前の注意事項や、契約書文言をこうしておいた方がよいということは言いやすいです。

司 会

鍛治先生はグローバルな仕事を志向されてインハウスになられたとのことですが、転職に際してどのような準備をされたのですか。

鍛 治

法律事務所には約6年間いましたが、英文契約の仕事はほとんどありませんでした。そこで弊社の採用面接では、「私が力になれるのは国内法務や訴訟の案件ですが、自分が転職を志したきっかけを踏まえ、この会社で挑戦してみたいのは海外契約です」と正直に言いました。採用者がチャンスを下さって、国内法務の仕事もしつつ、海外法務は勉強させてもらいながら覚えていったという感じです。英文契約については、基礎知識がないまま、OJTで学んでいったので、最初は本当に大変でした。英文契約の基礎から本で勉強して、海外との電話会議も、何を言っているのか全然分からなくて、外国人の法務部の弁護士に、後から「さっき、何て言ってたの?」と聞きながらキャッチアップし、仕事をしていきました。

司 会

英語を習得するための研修などはないのでしょうか。

鍛 治

英語レッスンはありますが、法律英語や英文契約の研修は特に設けられていないです。ですから、上司や同僚と一緒に、契約書のどこをどう見ていくのかを、案件を通じて勉強するしかありませんでした。あとは、弊社人事部のシステムで、グローバル人材を育てるためのグローバルマネージメントプログラムというのがあったので、それに応募して、その選考を通り、半年間みっちり英語漬けにしてもらったことがあります。それ以外は、自費で外部の専門学校に通学し、英文契約講座を受講しました。
やるしかなかったので、やりましたね。英文契約は、最初は何が書いてあるのか訳が分からなかったのですが、慣れると、日本の契約よりも読みやすいというのが、1年ぐらいで分かってきました。勘所が分かればある程度の習得は可能だと思います。

木 内

僕は採用する立場ですが、採用する立場からすると、中途採用の方がいいと思っています。新卒は、社会人としても、法律家としても、育成に手間がかかるんですよね。中途の方ですと、ある程度法律家としての知見がありますし、クライアントとも接していますから、社会人としての常識や立ち振る舞いも分かっています。あとは何を鍛えるかというと、企業独特のコミュニケーションですよね。そこだけ気を遣えば、それほど教育には手間はかからないと思います。
それからもう一つ、新卒の方が一人法務部のような形でいきなり会社にポンと入ってしまうと、やはり社長と議論したり、いろいろな人と話したりするのも結構大変ですし、広い意味では法的知見についても駆け出しのところがあり、苦労していますね。

仲 村

当該会社の社長が、「インハウスを採用したから顧問先と契約しなくていいよね」という方だったら、たぶん相当しんどいだろうと思います。
私は、今の会社に入ったときは一人法務でしたが、基本的に外の法律事務所のパートナーの先生に教えてもらったというのが正直なところです。入社数日で契約交渉に同行することになり、M&Aなどの知識が一切なく戸惑った記憶があります。

7、弁護士のキャリアプランについて

司 会

企業内弁護士のキャリアプランのモデルについて、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。年次が上がっていくと、やはりマネジメントの方に進むことが望まれるものでしょうか。

木 内

新卒で入って、順調にステップを重ねてゼネラルカウンセルまで至るというモデルはあると思います。他方、指揮命令系統のラインからは外れますが、法的知見を持つ専門職として、法的アドバイスをするスタッフという立場もあるかもしれません。
ただ、ラインとして上がっていくにしても、ゼネラルカウンセルのポジションは会社に一つしかありませんから、大勢の新卒が集まるような会社では、なかなか到達しにくいかもしれません。そこでほかに働く場所を求める選択肢もあろうかと思います。私のように転職を利用して他業種を経験するのもよし。その辺りはもう自分の生き方と能力と趣味嗜好と相談してくださいということです。

司 会

スタッフとして会社にずっと居続けることは可能なのですか。

木 内

担当部長といって、例えば部下を持たない部長で、専門性を持って知見を提供するやり方もあります。

8、企業内弁護士の資質について

司 会

企業内弁護士に向いているのはどのような方でしょうか。

木 内

三会合同の就職説明会のフィードバックも見たりしますが、面接に来たけれど、いい人がいなかったというコメントが散見されます。コメントには、コミュニケーション能力や、企業研究が不足している、志望動機が明確でない、英語力が足りないというものがありました。
仕事に関するミッションを研究して見抜けない人、つまり、相手が何を求めてこれを聞いていて、それに対して何を返すのかということが分かっていない人は企業内弁護士には向かないと思います。これは通常の弁護士も同じことだと思いますけどね。企業が異文化の人、異業種の人から成り立っていることに鑑みると、コミュニケーション能力の要請は通常の弁護士よりも高く、それができない人は就職でもはじかれることが多いと思います。

岡 野

私は合同説明会のブースでしゃべったり、質問を受けたりしましたけれども、皆さん、とてもしっかり考えておられるというのは感じました。

木 内

私が採用したい人は、さまざまな価値観を使い分けられる人ですね。企業内でやっていることは、サービスや商品を社会に提供して、社会貢献をすることによってお金をもらうことです。事業に対する関心が必要だと思います。一緒に仕事をする人に対するシンパシーと、企業活動に対するリスペクト、こういったものが根底にあり、そこで自分の法的知見を生かして会社に貢献するというのが、企業内弁護士のあり方だと思います。
民法94条2項類推適用をとうとうと語れる人はいると思いますが、そういうことをビジネスマンに語ったところで何の意味もありません。だから、ビジネスマンの要請、つまり、私はこの仕事を進めていいのか悪いのか、私はここで何をすればよいのか、こういうことに的を絞ってピンポイントのアドバイスができる、そういうコミュニケーションができる人が企業内弁護士の資質のある人だと思います。

木内秀行先生
木内秀行先生

司 会

仲村先生の方で何か付け加えることはありますか。

仲 村

扱う範囲を決めない方がよいというのはあると思っています。とりあえず法律だったら相談されるので、法律論なのかどうか分からないものもあれば、そもそもこれはビジネスのモデルの話ではないかということもあります。しかし、一度断ってしまうともう次は持ってきてくれません。そこで、法務マターではないと思っても、一度は受け止めて、一緒に考えるということが必要です。大きく分業が進んでいる場合は別として、そうでない小規模な法務部門の会社では、法務マターではないとして断っていたら確実に仕事がなくなってしまいますよね。
そういう意味で、特に小規模な会社の場合、一緒に事業を考えるなど、余り境界線を決めずにやれる人のほうが向いていると思います。

木 内

本当にそうだと思いますよ。
例えば、さきほど岡野先生がおっしゃったように、プロジェクトを立ち上げる部分の法的側面だけではなく、プロジェクトチーム全体に関与する場合、自分の知見や能力に応じて、これは逆に自分が手を出すとストップしてしまう、あるいは効果的ではないので、これはこの人にやってもらったほうがよいと、自分の限界を示した上でほかの人に振るというのはありだと思います。

司 会

先程の仲村先生からの法務に持っていくとだめと言われると思ったというお話は結構興味深くて、シンプルに言うと、例えば営業と法務が逆のベクトルを向いていることが会社ではあると思うんです。その辺り、先生方が工夫されてきた点はありますか。

仲 村

私は社長室に属していることから、社内の法務を離れています。そこで、私から法務に対して、「普通できるでしょ、なぜできないの」と言う立場になったので、その難しさを認識するようになりました。ただ、自分が法務の部署にいたときの経験でいうと、やはり入り口で断らないんだと思いますね。
法務の部署に入り口で断られて、「何ができないのか説明してください」というと、結局、出てくる答えは別に大した話ではないし、「それはあなたたちが判断することではないでしょ」と。そういう意味で、みんなで一緒にやっている中で、みんなの頭で知恵を絞ってやりましょうという連帯感がコミュニケーションを円滑に進めるうえで大事だったように思います。
でも、今は、会社が大きくなって、人が増え、会社でできることが広がっていくことが面白いし、そうすると、何か自分が扱ったことのない領域の相談が来て、「あっ、こんなのあるんだ」と、いろいろな人に聞いて調べていくのがまた面白くて、どんどん広げてきたというのが実際のところです。

岡 野

もちろん「ノー」ということもたまにはあります。ただ、それまで一緒に仕事をして、いろいろなことをサポートしてきたので、一生懸命考えて、考えて、考え抜いた結果、「ノー」なんだということが分かってもらえるんですよね。
それまでの信頼関係のベースがあるから成り立つのかなという気がします。

岡野光孝先生
岡野光孝先生

木 内

そうですね。だから、「ノー」と出すときには、その理由として、なぜいけないのかというリスクを述べると、一番説得できるんですよね。例えば何かのプロモーションビデオを作るとき、著作権法違反や肖像権侵害で訴えられる可能性がかなりありますよと、その場合の損害としては何千万ですという具体例を出すと分かってくれますね。あとリスク評価の問題ですよ。その問題についてのリスク評価と、具体例を出した上で、本当にそれがクリティカルなリスクかどうかを判断して、それで「ノー」を出します。
そういう意味で、あれはだめ、これはだめという場合でも、なぜだめなのかを、リスクの具体例とその評価を示して、それを現場の人たち、事業部の人たちに分かってもらった上で「ノー」と言います。それが1つの工夫ですね。

岡 野

そうですよね。私も当然理由を言いますが、ただ理由を言って「ノー」と言っても、本当にダメなときは納得してもらえなくて、それはなぜだということになります。そういう事態を解消するためには普段のおつきあい、寄り添う部分が重要だと思います。

木 内

そう。だから、この人に「ノー」と言われたらしょうがないなという。

仲 村

しかたがないと納得してもらえる信頼関係が必要ですよね。

司 会

なるほど。ともすれば、ノーと言われるのを回避するために、事業部が情報にバイアスをかけてくるおそれもありますよね。法務として正確な情報を取る必要があるわけですが、その辺りで何か工夫はありますか。

岡 野

わざとかどうかはともかく、事実が抜けているというのは割とあるパターンです。そこはニュートラルに、「これ、何ですか」と純粋に質問しながら引き出すしかないと思います。それは普通の弁護士として身に付けるべきスキルだと思うんですけどね。向こうも警戒するかもしれませんが、純粋に聞けばいいと思うんですよね。

木 内

明らかに不自然だったら見抜きますし。

岡 野

不自然なのを分かっていて、あえて「何ですか」と言うこともあります。こっちは知らないふりをして聞くんですよ。向こうがだんだんいろいろ話してくれるようになると、少し前に進むような話にもなります。

仲 村

社内で一緒に同じ環境にいるので、社内のことをそれなりに知っているというのは大きくて、この事業部は割とそういう傾向があるとか、バイアスの程度とか、ここは非常にフラットな部署だとか、ある程度認識しています。その辺は社内にいるからこそ理解できるというところはありますね。その辺りの認識を踏まえて、聞き分けていますね。

司 会

そこはインハウスの強みですよね。外部の弁護士事務所だと分かることに限りがありますね。

木 内

そういうことです。やはり社内の意思決定の仕組みであるとか、人の個性とか、そういうことまで分かりますからね。それらも踏まえた上で、我々はソリューションを出しますから、信頼してくれるんですね。

仲 村

ビジネスをやっている以上は、正しく進める中で、法律上の知見や第三者的なところも含めて、正しくできている、価値ある商品をきちんと作り、売れているというのを支援するのが企業内弁護士の法務としての基本的なミッションだと思っています。その範囲において、うまく社内を調整していくのが全体のイメージですよね。

9、弁護士会への要望及び企業内 弁護士を目指す方へのメッセージ

司 会

それでは、最後に弁護士会への要望及び企業内弁護士を目指す方へのメッセージをお願いします。

木 内

弁護士は、広い意味での法的知見を持っています。したがって、弁護士資格というのは、法律を職業とする人たちのパスポートだと思います。パスポートと法的知見を持っている人を法律事務所だけに閉じ込めておくのはもったいないんですよね。ですから、自由自在に、企業や役所や、いろいろな社会に飛び込んでいってもらいたいなと思います。

司 会

ありがとうございます。仲村先生、いかがですか。

仲 村

そうですね、私もまだいろいろ模索しているところなので、キャリア自体、偶然だと思っています。今やっている仕事に関しても全くの偶然です。ただ、特に何をやるかという軸が1つあって、私のキャリアを考えてみると、誰とするかというのが非常に重要だと思います。
そういう意味で、もし誰とするかというところで上司や社長など、合う人がいれば、特にITやベンチャー企業はおもしろい領域なので、チャレンジしてみる価値はあると思います。私は今もチャレンジを続けているところです。それが、私よりももっと若い、67期、68期の方に対してのメッセージです。

司 会

ありがとうございます。岡野先生、いかがでしょうか。

岡 野

業界に興味を持っていただければ、たぶん誰でもできると思います。むしろ、先程言いましたが、自分で何かを作ったり、自分で何かを推進したりできる、弁護士事務所ではできないようなこともできるので、面白いだろうと思うし、飛び込んでいただければと思います。また、法務部だけではなく、他の部署というのも当然キャリアとしてはあるはずです。私も昔、経営戦略というところにいましたが、今後は事業開発契約交渉をバリバリやったり、経営管理のようなところに行ったりすることもあると思います。海外だと製薬業界の同業ではインハウスでそのままCEOになった人もいます。

木 内

例えばインハウスに入って、それで法律事務所でまた働きたいという、そういう希望を持っている人も結構、いらっしゃると思います。昔だとなかなかそういう例はなかったのですが、最近はインハウスで働いた後、インハウスで培った知見を基にして、法律事務所に戻って働いている方もいらっしゃいます。このままインハウスでキャリアが終わるのかという不安を持たれている方は、そういう不安なく働くことができるということも強調しておきたいと思います。

岡 野

それはまさにそのとおりで、インハウスでその業界を知っている人に、その特殊なスキルで弁護士事務所をやっていただくと、そこにまたクライアントが来るわけですね。このように行き来するというのは、今後のロールモデルの1つだと思っています。実際に製薬業界にもそういう先生はいらっしゃるので、ずっとインハウスというわけではないと思います。将来のことも見据えながら、広く見ていったほうがよいと思います。自分のキャリアを余り狭くしないで欲しいと思います。

鍛 治

弁護士会への要望になってしまうかもしれませんが、会務活動の参加方法の工夫検討のお願いがあります。私自身、法律事務所にいるときは弁護士会務活動に積極的に取り組んでいた方でした。楽しかったですし、いろいろな先生とおつきあいができたのですが、企業に入ってから全然参加できなくなってしまいました。委員会や常議員会は平日の日中に開催されたり、ウェブ会議も、制度はあっても勤務時間中に参加することは難しかったりするからです。MLやチャットによる議論・web上で決議ができるシステムの導入など、もう少し、弁護士会に行かなくても会務活動に参加できるようになると、開かれた弁護士会になるのではないかと思います。特に、目前の仕事に集中する必要があり、弁護士会に知り合いもいない若い弁護士にとっては、会務に参加せず5万円を納めておしまいの風潮がまん延してしまいます。企業内弁護士だからこそ言える顧客目線や新しい弁護士の働き方など、多様な価値観を弁護士会務に反映させられるよう、弁護士会にも要望したいですし、これから企業内弁護士になられる方にも意識していただきたいと思いました。

司 会

本日はどうもありがとうございました。

座談会の様子
座談会の様子