出版物・パンフレット等

~この一冊~Vol.136 『私が愛する世界』


『私が愛する世界』
ソニア・ソトマイヨール 著長井篤司 訳
亜紀書房(2018年)
2,600円(税別)

合衆国連邦最高裁判所には現在3人の女性判事がいる。ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)、ソトマイヨール、エレナ・ケイガン(元ハーバード・ロー・スクール学長)である。
RBGは日本でも3月に若き日の活躍を描いた映画「ビリーブ」が、5月にはドキュメンタリー「RBG最強の85歳」が公開された(どちらもお薦め)、アメリカで最も人気のある最高裁判事である。
本書の著者ソニア・ソトマイヨールは初のヒスパニック系最高裁判事である。1954年に、ニューヨークで貧困なプエルトリコ(PR)移民の家に生まれた。7歳で1型糖尿病(小児に多いが、メイ英国首相は56歳のときに診断された)と診断され、8歳から自分で毎日インスリンの注射をする生活を続けている。9歳の時にアル中だった優しい父親が死亡。看護師の母がひとりでソニアと弟を育てた。母は教育が重要と考え、経済的に無理をして、カトリック系の私立学校(移民の子が多い規律が厳しいだけのところだが)に通わせ、ブリタニカ百科事典を買う。
ソニアは10歳の頃テレビ番組のペリーメイスンを見て弁護士・判事を将来の目標と考える。ソニアは勤勉と楽観主義を武器に勉強し、当時始まっていたアファーマティブ・アクションのおかげで、名門プリンストン大学に進学する。もっとも、この政策への反発も根強く、第1世代の苦労は大きかった。知識層の子弟達との教養の蓄積の差や文化的ギャップを埋める努力も半端ではなかった。ソニアは、積極的に教員の指導を仰いで優秀な成績を収め、またPR移民の学生のための活動などさまざまな学内活動を行ったことも評価され、最優秀学生に贈られるパイン賞を受賞し、首席で卒業した。
イエールのロースクールに進学し、ロールモデルとなる優れたPR出身の弁護士に出会う。ロー・ジャーナルにPRの法的地位に関する論文を執筆するなど活躍したが、大手事務所の採用面接でPR 出身であることで差別されると、これを学内機関に訴え、謝罪させるなど毅然とした対応をとった。
卒業後ニューヨーク州地区検事局で検事として多数の刑事事件を担当した後、パヴィア&ハーコート法律事務所で弁護士となり、フェンディの代理人として知財の分野で大きな成果を上げる。
1992年に連邦地方裁判所の判事に指名される(この経過も興味深い)ところで回想録は終わる。
祖母を中心とした大家族的な貧しいながらも愛情深い親族の姿が親しみを込めて描かれている。ストーリーの展開は巧みであり、翻訳も読みやすい。本書はアメリカでベストセラーになり、若者向けにリライトした本もノンフィクション賞の最終選考に残った。アメリカの司法に関心のある人にお薦めの1冊。