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この一冊 Vol.137 『宝島』

宝島
『宝島』 真藤順丈 著
講談社 1,850円(税別)

私が選んだのは『宝島』。スチーブンスンの古典ではない。直木賞の受賞作である。私はおよそ文学賞に関心がない。しかし沖縄の米軍基地が題材の作品が直木賞を受賞したと聞いて、興味津々でさっそく手に取った。
作品完成まで構想7年・執筆3年という力作だが、著者は沖縄出身ではない。
1952年から1972年の沖縄本土復帰までのコザ(現沖縄市)が舞台である。主人公は子ども時代に沖縄戦で孤児となった幼なじみのヤマコ、レイ、グスクら男女3人である。彼らは戦後間もなく「戦果アギヤー」と呼ばれる、米軍物資の略奪者の一員となる。一員の中でも彼らが「ヤッチー(兄貴)」と呼び慕う「オンちゃん」は、いつもスケールのデカイ「戦果」を挙げ、義賊的に人々に配分し、さらには「戦果」で小学校まで作ってしまった「英雄」だった。デカイ山をはった「カデナ」 (嘉手納米軍基地)を狙い忍び込んだ晩、警備の米兵の追撃を受け、逃走途中でオンちゃんは行方不明となった。オンちゃんの恋人ヤマコ、弟レイ、幼な友達グスク達の、オンちゃん探しが物語の軸となる。オンちゃんの行方の秘密の解き明かしはミステリー小説を思わせる。

レイ、グスクは「戦果アギヤー」がもとで服役した。出所後レイは沖縄ヤクザ(コザ派)となって裏社会の抗争に明け暮れる。他方グスクは有能な警察官となり、同時に米軍の諜報員として米兵軍属の犯罪摘発にも力を発揮する。はらはらさせられる展開である。他方でヤマコは教員となるが、組合活動や本土復帰活動に熱心に取組む人になる。
3人ともウチナー( 沖縄) を愛しアメリカー(米国)と対峙することは共通ながら、方向性が違い対立する。
小学校への米軍機墜落事故(ヤマコの目の前で児童2人が焼死する!)、カデナの毒ガス漏洩事故(レイが絡む)、米兵の島民轢殺事故、コザ暴動など、実際にあった米兵軍属による事故・犯罪や、本土復帰運動が描かれる。これらを軸に、ヤマコら3人が傷つけ合い引かれ合って、苦悩や葛藤を乗り越え、成長していく過程が物語のテーマである(青春小説さあ!)。

現実に生起した事件や実在の瀬長亀次郎の登場、随所に出てくるウチナーグチ(沖縄言葉)が、物語や登場人物のリアリティを支えている。
沖縄の米軍基地をどうするか、意見の違いはあれども、私は沖縄の歴史は知っておいてほしいと思う。そのために好適な作品と推薦したい。
沖縄の本土返還の年、私は 中学生だった。「核抜き本土なみ」のスローガンを、久しぶりにこの作品で目にした。今般、米国大統領が来日し、日米首脳夫妻が空母「かが」に乗艦した。自衛官達を前ににこやかに訓示する姿は、私には本土の「沖縄なみ」を暗示するとしか思えなかった。作品の締めくくりはこう だ。「そろそろほんとうに生きるときがきた」。

(私)そのとおりさあ...。

当弁護士会会員 佐藤 誠一(38期) ●Seiichi Sato