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少年とともに

はじめに

本件は、少年による強盗致傷事件ということで複数選任の2人目としての受任です。
事案の内容としては、少年が少年院で知り合った少年Aと成人Bの計3名が、少年院出所後、連絡を取り合って新宿歌舞伎町に赴きいわゆるオヤジ狩りを連続して2件行い、被害者それぞれに対して暴行を振るい、傷害を負わせた上、金員を強取したというものでした。
少年が逮捕された時点で、既に少年は19歳7 ヶ月となっており、成人まで半年を切っているという状況でした。

少年との面会

勾留後、少年と警察署において面会したところ、少年の主張としては、自らのオヤジ狩りの経験を他の共犯者である少年Aに話したところ、Aが興味を持ち、やろうと言い出したのがきっかけで、少年自身としては捕まりたくないので、やるならAだけでやってと言ったものの、Aがどこでやればよいのか分からないと言ったことから、新宿まで案内した。

新宿で知人のCや同じく知人の少年D、同じ く知人の少年Eと合流した後、少年はAとBに対して自分はオヤジ狩りはやらないと言ったところ、AとBも了承したとのことであった。その後、しばらく新宿を歩き、少年はDと話 していたところ、前を歩くAとBが通行人に声をかけたりしていた。しばらくして、Aから助けを求められたので近づいていったところ、Aが被害者から攻撃されているように見えたことから、Aを助けようとして被害者の頭部を蹴った(第1事件)。その後、少年はその場から離れたのでAやBがお金を取ったかどうかは知らない。
さらに、その後、AとBがもう一度オヤジ狩りをやろうというような話をしていたが、少年としてはやめた方がいいと言っていた。しばらく新宿を歩いていたところ、A、B、Eがいなくなっており、少年が気づいたときにはB が被害者を引っぱっていたのが見え、被害者の声が聞こえた(第2事件)。少ししてA、B、Eが戻ってきたので全員その場からは離れたというものでした。

初回面会時においては、第1事件について被害者を蹴ったことはあるが、お金をとったかどうかは知らないしもらってもいないから強盗にはあたらないはずだ、第2事件については自分はそもそもオヤジ狩りはやらないと言っていたし、実際に被害者に対して暴行を加えたこともない、気がついたらAとBとEがやっていただけであるとの主張でした。

上記の少年の供述において、第1事件については強盗が成立する可能性が高いと感じましたが、初回接見においては、少年との信頼関係を築くため、まずは少年からの話を聞き、黙秘権の確認、調書についての注意事項など伝えました。

その後の接見を通じて、少年に対して、第1事件については、AとBがオヤジ狩りをすることを知っており、実際に少年自身、暴行を加え、AとBがお金を取っていることからすると、現場共謀は認められて強盗は成立してしまうとの話をしました。少年自身、その点は納得し第1事件については強盗致傷罪の成立はやむを得ず、第2事件については非行事実なしと主張する方針となりました。
勾留期間20日間が満了し、観護措置決定において観護措置はとられませんでした。これは、少年が少年院入院中とのことで、鑑別所ではなくもともと入院していた少年院に戻されることとなったためでした。

家裁での審理

家裁において、本件が検察官関与事件となったことから国選付添人、複数選任が認められ、否認事件であることから、証人尋問を行うこととなりました。少年院から東京家裁まで少年を連れてくる人員が確保できないとのことで東京家裁における審理には少年は立ち会わず、少年の証言の際には少年院で行うこととし、それ以外の尋問は付添人のみ出席することとなりました。

証人尋問は、検察官が主尋問、付添人が反対尋問、裁判官が補充尋問といった通常の刑事事件における形式で行われました。少年A の尋問では、少年が主犯的な役割で全て知った上での犯行であるとの趣旨の証言がなされてしまいました。
少年Dは水戸の鑑別所に在監していたことから、水戸鑑別所での証人尋問となりました。 少年自身に対する尋問では、少年自身の認識に基づいた証言がなされました。
審判の言渡しも、少年院で行われました。付添人としては、保護処分を求めていたのですが、残念ながら少年の主張は認定されず、結果としては逆送となってしまいました。
この審判言渡しの際に、裁判官から、「正直にきちんと話をしてくれていれば、逆送ではなく、保護処分も十分考えられたのに、残念だ。」と述べられました。付添人としては、ジレンマを感じたところです。

逆送後の手続き

逆送された後、改めて少年は強盗致傷罪として起訴されました。
通常の裁判員裁判として公判前整理手続が行われ、弁護人としては家裁におけるのと同様の主張となりました。
公判前整理手続が行われている中で、Eが少年院に入院しており、このEが退院してしまえば、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるとして、Eが入所している少年院においてEの期日外尋問が行われました。

裁判員裁判本番

裁判員裁判の本番では、犯行当時未成年であった少年や少年Aについては、全て実名は出さず、甲や乙、A、Bといった呼称で呼ぶこととなり、少年については、罪体についての証人尋問を行った後、情状についての証人尋問を行いました。

判決とその後

裁判員裁判の判決では、残念ながら少年の主張は認められず、第1事件については事前共謀が認められ、第2事件についても共謀が認められてしまうという結果となりました。刑の重さとしては、3人の共犯者のちょうど真ん中で8年(他は9年、7年)というものでした。

まとめ

少年自身は、小学校の頃から非行傾向にあり、児童自立支援施設にも入り、その後2度少年院に入院し、本件は少年院で知り合った者らとの犯行であったことから、保護処分の限界を感じる事案でしたが、期日外尋問などの手続があったり、裁判員裁判では他の弁護人の冒頭陳述や弁論を聞くことができたりと、色々と勉強となる事案でもありました。

2018年度子どもの権利に関する委員会 委員
中村 仁志(55期) ●Hitoshi Nakamura

NIBEN Frontier●2019年8・9月合併号