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この一冊 vol.138『完全版 本能寺の変 431年目の真実』


『完全版 本能寺の変431年目の真実』
明智 憲三郎 著河出文庫
定価 853円(本体 790円)

数年前に、ぶらりと本屋に入って、おもしろい本はないかなあと探していたときに、題名を見てすぐに手に取ったのがこの本でした。
「本能寺の変」といえば、あえて説明するまでもないことですが、天下統一を目の前にした織田信長が、明智光秀の謀反により本能寺において暗殺されるという、戦国時代の行く末が変わった最も重要な事件の一つですよね。でも、本能寺の変を起こした光秀の動機について、なんとなく違和感を覚えたことはありませんか。よく聞く動機としては、①徳川家康の饗応役を取り上げられたため、②信長に難クセをつけられて大勢の前で殴られたため、③大切な領地を取り上げられたため、④信長のせいで母親を殺されたため、⑤自分も天下が欲しかったため等。しかし、信長の最も信頼を受けた側近中の側近であり、戦国時代を生き抜いてきた武将の動機としては、なんとなく子供っぽいというか、「ぴん」と来ないと感じませんか。他方、信長も、少ない家臣と本能寺に宿泊し、あっさり暗殺されてしまって、とても不用心でしたよね。天下統一が目の前だったとしても、周りにはまだ、上杉、毛利、長曾我部等の敵がいたことを考えると、余りにも油断しすぎですよね。なぜ、こんなに不用心だったのでしょうか。
この本は、そんな私の本能寺の変に対する違和感に答えをくれるものでした。
著者は、本能寺の変の真実を追求していく自らの手法を「歴史捜査」と呼んでいます。まず、その時代の背景を前提としながら、信用できる資料とできない資料をしゅん別し、事実を推認していきます。そして、推認された事実が、ほかの客観的な資料や事実と矛盾しないかを確かめていくという手法です。私が特に興味をひかれたのは、信用できる資料として、イエズス会やイスパニア商人が残した資料を重視している点でした。確かに、光秀を討ち取り天下統一を果たした豊臣秀吉は、本能寺の変の顛末を自分の都合の良いように残すことができるので、秀吉の残した資料は信用性が低いですよね。他方で、イエズス会やイスパニア商人が記録し本国に送った資料は、日本の統治者に気を使う必要がないため、客観性があり信用性があるという点は納得しました。もっとも、私は歴史に精通しているわけではなく、様々な資料の原本を見ているわけでもないので、それが本当に信用できる資料なのかを確認することはできません。しかし、なぜ、光秀は信長暗殺を企てたのか、なぜ信長は不用心だったのかに対する結論とそれに至るまでの論法は、私が本能寺の変に対し抱いていた違和感をすっきりさせるのに十分なものでした。
さて、本能寺の変の真実の内容については、ここでは触れません。歴史好きの人であれば十分に楽しめる本であると思いますので、興味があれば是非読んでみてください。

当弁護士会会員 飯島 康央(52期) ●Yasuo Iijima