出版物・パンフレット等

少年とともに

LINE相談を実施しました

はじめに

東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会では、去る令和元年8月29日、30 日の両日、「弁護士による子どもの悩みごとLINE相談会」を実施いたしました。近年、LINEに限らずSNSを利用した相談事業は弁護士会以外の他業種でも実施されていますが、やはり顔も声も分からない相手からの相談を受けるというのは、従来の弁護士の法律相談とは異質で、大分県弁護士会の有志がLINE相談を実施している以外に、弁護士会を挙げてLINE相談を実施したという例は報告されていません。

これまでも、多摩支部子ども委員会では、二弁本会同様、子どもの悩みごと電話相談を実施してきました。にもかかわらず、なぜ、今、LINE相談を実施するのかと問われれば、それは、「子ども自身の声を聞きたい」という一事に尽きます。

これまでの電話相談は、子どもの悩みごと相談といいながら、実際にはその多くが親族など周辺の大人から寄せられているのが現状です。もちろん大人からの相談であっても、子どもに関することであれば相談の趣旨には反しないのですが、やはり子どもたち本人の声を聞かなければ、本当の意味で、子どもたちに寄り添った活動を実現することはできません。

子どもの声を聞くことの意義(相談事例を通じて)

私が相談を受けた中で、子ども本人の声を聞くことの大切さを改めて考えさせられたケースをご紹介します。相談者は高校生の女の子でした。相談内容は、学校の先生から性被害を受けたという深刻なものでした。性被害に限らず、学校の教員から体罰や不適切な扱いを受けた、という相談は多く寄せられます。もっともこの種の相談でも、多くは親からの相談であり、その場合、相談者は弁護士を介入させ学校側に改善を求めたい、あるいは損害賠償を求めたい、当該教員を刑事告訴したい、という法的対応を求めるケースが多くあります。

しかし、私が相談に乗った少女は、当初からそうしたアクションを起こすことには慎重でした。自分が弁護士を入れて動けば、友人たちに性被害のことを知られてしまい、自分が学校で居場所を失うことを心配していました。

私は当初、「加害者である先生を学校から辞めさせるために、弁護士が学校に行って話合いをすることはできるけれど、そのためにはお父さん、お母さんにも相談しないといけない」と一般的な説明をしてしまいました。しかし、彼女は自分の受けた被害を、親にも知られることを嫌がっていました。親が知れば、親は必ず、自分の意思を無視して、裁判や刑事告訴など、事を大きくすると考えていたのです。後から分かったのですが、彼女は電話相談の際に自分の名前や年齢を偽っていました。彼女はそれだけ、自分のことを特定されることを警戒していたのです。

結局、彼女は、刑事告訴や損害賠償を求めているわけではなく、一番の願いは平穏無事に学校を卒業することで、その間、辛い記憶を理解して、共有してくれる話し相手を求めていたのです。

私は、そのことに気付いてからは、自分から彼女に事件のことをアドバイスしたり、何かを尋ねたりはせず、彼女に聞かれたことに答えるだけに徹しました。事件とは関係ないメールにも応じて、弁護士らしいことは何もしていません。それでも、彼女は私とメールをするようになってから、精神的に落ち着いたようで、「おかげで勉強に集中できるようになった」と答えてくれました。彼女の生活が安定してくるにつれ、メールの回数はだんだん減っていき、今ではほとんど連絡はありません。少し寂しい気もしますが、彼女は楽しく学校生活を送れているのだと思います。

さて、このケースで、仮に、同じ相談を彼女の親から受けていたとしたら、きっと私は彼女の親に、損害賠償や刑事告訴といった方法があることを説明し、親からの委任があれば彼女にもそうした法的解決を強く勧めていたと思います。確かに弁護士としては、それによる被害賠償や加害者に対する適切な処罰が実施されて、それなりに達成感を得られたかもしれません。しかし、他方で、万一彼女の事件のことが友人たちの間で噂になり、彼女が懸念していたような事態が発生していたら、とも想像してしまいます。仮にそんなことにならなくても、彼女が卒業するまでには訴訟や刑事事件は終わらないでしょうから、どちらにしろ、彼女が平穏な学校生活を手に入れることはできなかったと思います。

もちろん、被害者である子どもが「泣き寝入り」をするという選択に対して、弁護士として何もできないのは非常にもどかしく思います。また、単なる相談相手になることが、精神科医でもカウンセラーでもない弁護士の仕事なのか、という疑問もあります。しかし、「泣き寝入り」することのメリット、デメリットを適切に判断し、子どもの意思をどこまで尊重すべきかという判断は、やはり弁護士でなければできなかった、と考えています。

まとめ

とにもかくにも、「子どもに寄り添う」という子ども委員会としての活動の理想に近づくために、子どもの相談においては、やはり「子どもから直接話を聞く」ということがとても大事だと改めて実感しました。そもそも、今回のケースでは、親にすら相談していないのですから、子どもたちの抱える問題を全て拾いあげようとすれば、やはり子どもたちに直接アプローチするほかありません。

そして、現在の「デジタル社会」、「スマホ社会」において、電話相談という形態では、その目的達成において限界があることははっきりしています。LINE相談は、これまでの弁護士が行ってきた法律相談とはかけ離れているため、課題もたくさんあります。しかし、子どもの分野に携わる弁護士は、それを理由に新たな相談の実現を躊躇している時間はない、という問題意識で、今回多摩支部子ども委員会ではLINE相談の実施に至りました。どの程度の需要があり、どんな問題が発生するか、手探りではありますが、子どもの問題に限らず、弁護士会全体として避けては通れない課題だと思いますので、是非ご注目いただきたいです。

志賀 野歩人(65期) ●Nobuto Shiga

付添人体験記 -- はじめての少年事件 --

初めての付添人活動

平成30年10月中旬、弁護士会より、「少年に初回面会に行った男性弁護士がいたが、その少年が女性弁護士を希望している。面会に行って、担当可能か確認してもらえないか。」と電話がありました。

私はずっと少年事件を担当したいと考えていたので、貴重な機会だと思い、少年に会いに行きました。
少年は、児童自立支援施設で生活している中学校3年生の女の子でした。少年は、児童自立支援施設の規則を守らず、施設を抜け出し、ドラッグストアで万引きをしたことで保護され、将来窃盗の罪を犯すおそれがあるということで、ぐ犯事件として家裁送致されました。最初の面会時には、少年は緊張しながらも 話をしてくれ、私に「付添人になってほしい」とのことであったため、付添援助を受けて、付添人として活動することになりました。少年と面会をしてすぐに、家庭裁判所の裁判官、調査官、付添人での話合いが行われました。

少年は、保護者とは何年も会っておらず、施設で生活をすることが決まっていたため、少年にとって現時点でどのような施設で生活をするのが適切か慎重に検討する必要がありました。
初回の話合い時には、それぞれの立場で少年との面会を行い、少年の状況や気持ちについて適宜情報共有し、少年にとって一番良い処遇は何かについて考えていくことになりました。

裁判官、調査官、付添人での話合い

配点から約1週間後、調査官、付添人(私と社会福祉士の方)がそれぞれ少年に会いに行き、少年の様子について審判前に情報共有し合うための話合いが行われました。
少年に対する処遇については、「少年院送致」「児童自立支援施設」の2択があり、また、「強制的措置」を付けるか否か、付けるのであれば何日付けるかについて検討が必要でした。私は、その話合いの前に少年に何度か面会 しており、少年の今回の行為や少年の将来について話していました。

私は、少年が明るい性格で、かつ、何でも気さくに話してくれ、悪い印象がなかったこと、今回の行為について、少年なりに言い分はあるものの悪いことだとは思っていて、「こんなところに来るくらいならもうやらない。」等と述べていたことから、指導は必要ではあるものの、少年の非行はそれ程進んでいないという軽い見通しを持っていました。

もっとも、話合いにおいて、他の方の話を聞くことで、少年については、行為自体の悪質性が高いとはいえないものの、自身の行いについて内省が足りているとはいえず、しっかりと自分の行ったことを見つめる必要があるのではないかという意見が出ました。また、少年が大人に対し、相手によっては反発的な態度を取ることもあると知りました。

私は、ほかの方々の意見を聞き、もっと深く少年と話をする必要があると感じました。
少年は、私に対しては大変気さくに話してくれていたので、少年の本音を聞きながら、少年の行為、少年の将来についてもう一度一緒に考えようと思いました。

少年との面会と少年の気持ちの変化

少年は、上記の話合い前の面会では、気さ くに話しはしてくれるものの、将来のことを聞くと「分からない。」と投げやりな発言をすることもありました。

また、施設の規則を守らないことや物を盗むことについても、悪い事であるとは言いつつも、「大人が勝手に決めつける」「意見を聞いてくれない」と大人に対しての否定的な考えを述べ、自分の行ったことについて深く考えていないところもありました。

私は、調査官や付添人の方との話合いを通じて、少年ともっと自分の行為や将来について深く話をする必要があると考えたため、まず、少年自身の行った行為について、「悪いと思っている。」という点については、「どうして悪いと思うのか。」「どうして自分がその行為をしたのか。」ということを問いかけ、少年に自分でしっかり考えてもらえるよう促しました。

また、少年の将来についても、「将来どんな仕事につきたいのか」、「今興味があることは何なのか」について一緒に何度も話しました。そうすると、少年は、今回の行為については、「最初から嫌いな人だと思って、反抗的な態度を取るのではなくて、一回話してみたらよかったかも。」等、少年なりに自分の行動について振り返るようになりました。

更に、万引き行為についても、犯罪であることを根気強く説明したことで、自分の行為は犯罪であることを自覚し、「誘われてやってしまうことが多いんだけど、どうやって断ればいいと思う?」等、自身の行動を変えるためにどうすればよいか考えを巡らせるようになりました。

少年は、自身の将来についても「美容師になりたい。」「高校に行きたい。」等、積極的な話をするようになりました。

私は少年と何度も面会しましたが、話をする度に、少年が自分のしたことや自分の将来について真剣に向き合うようになっていき、その気持ちの変化を強く感じました。

同時に、少年自身にとって自分のこれまでの行為や、将来について真剣に考える機会がとても大切であることを感じましたし、また、その機会を持ってもらうことへの難しさも痛感しました。

審判

審判においては、付添人として、少年自身で今回のことを振り返る機会を設けたことで内省も深まっていること、少年自身が自分の将来について積極的に考えるようになっていたことから、児童自立支援施設において少年を指導しつつ、強制的措置は不要であるとの意見を述べました。

少年は審判において、裁判官、調査官、付添人、それぞれからの質問にしっかりと答え、自分の行為や自分の将来についても真剣に考えて答えていました。

審判の結果は、児童自立支援施設送致で、強制的措置についても数十日間認めるというものでした。
もっとも、審判後に、調査官、付添人の方と少年について話したところ、最初に鑑別所でそれぞれが面会したときとは明らかに様子が違い、少年が自分の行動や将来についてしっかりと考えられるようになったとの共通の意見を持っていました。
また、審判後に少年と面会をした際には、まっすぐこちらを見つめて、「高校に行って、美容師になれるように頑張ります。先生ありがとう。」と言ってくれました。

最後に

私は、今回初めて付添人活動を行いましたが、少年との接し方等、大変勉強になることが多くありました。また、目の前にいる少年のために何ができるかを考え、少年と一緒に少年の行為及び少年の将来について考えたことで、少しは少年が自身のことを考えるきっかけを作ることができたのかなと思っております。

今後も、目の前にいる少年と真摯に向き合うことを忘れず、付添人活動に取り組みたいと思います。

髙畑 侑紀(70期) ●Yuki Takabatake