出版物・パンフレット等

花水木

神田秀斗

神田 秀斗(68期)
●Hideto Kanda

弁護士4年目になって、いま私が感じる弁護士像を恥ずかしながら思うままに記載しようと思います。
ロースクールの授業では、常々、「法律要件に事実を当てはめ、法律効果を導くことができて、やっと法曹の卵になれる。」と教わってきました。そして、司法試験の勉強においても、「淡々と事実を評価し、法律要件に当てはめていけば点数が出る。」とも言われてきました。そのため、私が法曹になった最初の頃は、法律要件に対し、いかにきれいに事実を当てはめられるかが法曹の力だと考えていました。

しかしながら、法律要件に証拠から判明している事実を当てはめたとき依頼者の不利な結論にしかならない場合はどうするのか、そんな場面に何度も出くわしてきました。そのとき、「あなたの請求は無理です!」とはっきり言ってしまうことは簡単ですが、それでは元も子もありません。逆に、「あなたの言っていることは正当です!是非訴訟をしましょう!」と言ってしまっては、法律家として失格です。

現在では、このときに悩むことができるか否かが「法曹力」なのではないかと考えています。幾人もの弁護士に相談したものの、全ての弁護士から「無理だ。」と一蹴されて私に辿り着いてもらったとしたら、そこで悩みを見せることが、依頼者への誠意だと思うからです。結論としてやはり無理だと考えざるを得ないことも勿論ありますが、厳しい見込みであることは素直に伝え、事件において少しでも依頼者の意向をくむ余地があるのであれば、そこに配慮し、「簡単に」無理だと言うことだけは絶対に避けたい、そう考えています。

もっとも、これは、「そこを何とか。」というクライアントの場合です。法律的には主張が難しい事案においてさえ、弁護士としての見解又は意向に一切耳を貸さず、「俺の言うことが聞けないのか。」的な方も一定数います。別に「先生!先生!」とよいしょしてもらいたいわけではないのですが、法律家を便利屋か何かだと勘違いしている方に対しては、冷めた視線を向けてしまうこともあります。これは私自身が依頼者を救いたいと思うか否か(端的には波長が合うか否か)という極めて利己的な基準に支配されているからであり、このような考え方をしていると、まだ若いなぁと諸先輩方からは笑われてしまいそうですが...。 ところで、クライアントの 個性も様々ですので、強気な姿勢を好むクライアントもいれば、冷静かつ穏やかな話し方を好むクライアントもいます。私が学生時代に、弁護士事務所で採用担当をしている先生から「事務所の経営者が欲しいと思う人材は、八方美人ではない。特定の熱烈なファンがつく人だ。」との言葉をいただき、今でも私の胸の中に残っています。私は性格上、激情的になることは難しいですが、青い炎というか、冷静さの中にも闘志が宿る、そんな弁護士になりたいと考えています。そして、こんな私にクライアントというファンが付いてくれればこれほど嬉しいことはない、そう考えながら毎日仕事をしています。