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仮想通貨業界の自主規制と現状(後編)

後編 全2回

福井崇人

認定取得後の協会の活動

協会としての最重要項目は、仮想通貨の安全管理です。いかにハッキングを防ぐかというところかと思いますが、仮想通貨の安全管理を高度化するために、外部の有識者、専門家や協会の会員の技術責任者によって構成される技術委員会で安全管理の基準を議論しています。

公表されているものですが、Cryptoassets Governance Task Force(CGTF)というセキュリティの専門家等の集まりがあります。暗号資産のカストディアン*1のセキュリティー対策などについての考え方をまとめていますので、CGTFにも参加いただき、どういった形で行えば仮想通貨を安全管理できるのかという項目を網羅したチェックリストを策定しています。こちらは基本的には、会員自身がチェックする目的で使用する予定です。また協会の方で実地検査、モニタリングを行う際に、チェックリストの内容がきちんと満たされているのかを確認することも想定しており、今後、当協会のウェブサイトで公表していきたいと考えています。

参考までに、現状の内容は、コールドウォレットの定義や、コールドウォレットで管理する仮想通貨の数値目標を設定するということ、署名用秘密鍵(仮想通貨の移転のために用いるパスワードのようなもの)に関する消失対策、あるいは消失、漏洩、不正利用、内部不正といったリスクについて具体的な対策を網羅的に記載しています。

それから仮想通貨の外部への送金に関するモニタリングということです。異常値があればすぐに分かるようにするということ、仮にシステムに侵入されたとしても、仮想通貨が奪われるまでには一定の時間がありますので、それまでに分かるようにシステムのモニタリングを行うこと、またネットワークの分離措置として、仮想通貨を動かすための署名用秘密鍵を管理しているウォレットと、その他のシステムを分離しておくことが重要と定めています。

その他、一般的なシステムのセキュリティーも重要になってきますので、JIS基準等を参考にセキュリティー対策を行うことも、チェックリストの内容にしています。

もう1点、協会としてもマネロン対策が非常に重要だと考えています。今年のFATFの第4 次審査で、仮想通貨交換業に関しても恐らく対象になるだろうといわれています。

具体的には、実地検査においては、取引時確認及び疑わしい取引の届け出の検知方法等実務フローや疑わしい取引をどうやって検知しているのかを確認し、金融庁のガイドライン等に即しているのかを確認していく、必要に応じて改善指導を行うということに取り組んでいます。

疑わしい取引の届け出に関しては、金融庁より仮想通貨に関する参考事例が報告されましたので、そちらに基づいて協会でモニタリングを行っている状況です。

その他、スタディグループなどで、マネロンの各業者の担当者に定期的に集まっていただき、情報交換やベストプラクティスに関する議論をしています。警察当局や財務省、金融庁にもご協力いただき、意見交換を実施している状況です。

スタディグループのテーマとしては、リスクベースアプローチをどうやって運用していくか、利用者格付をどうやって行うのかといった具体的な方法に関しての議論、あるいは内部監査の方法など、トピックごとになるべく具体的に議論を進めています。

FATFのウェブサイトで、仮想通貨交換業者に対して、銀行のSWIFT*2で行われているような業者間の情報伝達を義務付けるような内容が案として示されており、これはかなり業界全体にインパクトを与えると思われます。当協会では金融庁とも議論しながら、仮想通貨と銀行の違いも踏まえて、現状ではこういった形ができるのではないかという意見を提出しています。

具体的には、業者間での情報の伝達を銀行と同じように行うことは、現状においては難しいため、各業者においてCDDや顧客の管理を行っていく、あるいは、リスクベースで送金人・受取人と、送金取引に関して送金人・受取人の情報を深く確認していくといったことが考えられるのではないかという意見書を提出しています。

改正法案の概要

改正法に関しては、資金決済法と金融商品取引法、それから金融商品販売法の影響が大きいので、そこに限って順にご説明します。改正法の概要としては、大きなところでは、仮想通貨から暗号資産に呼称が変更されること、それから、暗号資産の管理業務、カストディ業務と言われますが、そういった業務への規制が導入され、暗号資産交換業に関する各種規制が強化されます。

金融商品取引法に関しては、暗号資産のデリバティブ取引に対する規制が導入されます。それから、電子記録移転権利、こちらは収益配当を行うようなトークンを電子記録移転権利と定義して、有価証券として位置付ける内容です。また、暗号資産を用いた相場操縦等の不公正な行為に関する規制を導入する内容にもなっています。

金融商品販売法に関しては、金融商品販売の定義に「暗号資産を取得させる行為」を追加する改正案が出ている状況です。

改正資金決済法の概要

まず、すでに前編にてご説明のとおり、資金決済法に関しては、暗号資産管理業務の規制が導入されます。

次に、登録拒否事由として金商法に違反する場合が追加されます。また、これまで事前届出制であった業務内容の変更や、新規の仮想通貨の取扱いに関して事前届出制が明記されることになります。ただし、内閣府令で軽微な変更の場合には除外規定が設けられるのではないかと思います。

また、広告、勧誘規制の整備が行われます。まず広告に関する表示義務についてです。リスクの告知等も含め表示義務が課されています。これまで資金決済法上、表示義務はかなり限定的でしかなかったのですが、規制が加えられました。禁止事項として追加されたのが、誤認させるような虚偽の表示のほか、支払い手段として利用する目的ではなく、専ら利益を図る目的で暗号資産の売買等を行うことを助長するような表示が禁止されました。射幸心をあおるような内容が典型的かと思いますが、あくまで仮想通貨、暗号資産に関しては、決済手段ということで、専ら利益を図る目的での表示が禁止されたというところが特徴的かと思います。

そのほか、不招請勧誘やフロントランニング*3なども禁止されることになると思われます。こちらは、内閣府令で定める内容であり、まだ出てはいませんが、今後そういった内容が定められると想定されます。また、このあたりの広告、勧誘規制違反に関しては、刑事罰が定められています。

仮想通貨の信用取引に関しては、現物取引として資金決済法で定めが置かれています。金銭による信用供与については、金銭の貸付けになるので、貸金業の登録が必要であると考えられます。一方で、暗号資産の信用供与は、貸金業法上の金銭の貸付けには当たらないと解されており、現行法上は貸金業登録がなくても貸付けはできます。しかし、仮想通貨を貸付ける形での信用取引についても恐らく内閣府令でデリバティブ取引と類似の内容が定められると考えられます。

利用者財産の保全義務も強化されます。金銭に関しては、利用者の金銭の信託義務が課されることになります。暗号資産に関しては、信託はかかっていませんが、原則として利用者の保護に欠ける恐れが少ないものとして、内閣府令で定める方法で管理する内容になっています。これがいわゆるコールドウォレットという、仮想通貨をオンラインではなくオフラインで管理するというものであり、原則的な義務内容になってきます。

ただし、利用者利便性の確保のために必要なものとして、内閣府令で定める要件に該当するものは除外されていますので、限定的にはホットウォレットでの管理が可能です。府令でどのように定められるかは分かりませんが、ホットウォレットで管理可能な一定の上限等が引かれるのではないかと考えられます。また、履行保証暗号資産、すなわちホット ウォレットで一部管理可能であるとしても、そこに関するリスクがあるという認識の下で、利用者のホットウォレットで管理する暗号資産と、同種、同様の暗号資産を別途、自己の資産として保有した上で、かつコールドウォレットで分別管理することが義務付けられる内容になっています。これは、もともと金銭で賠償するという案もありましたが、仮想通貨の引き出し、返還請求権は金銭債権ではないという理解であり、金銭債権ではなく、仮想通貨返還請求権を確実に弁済するための措置として、仮想通貨で安全に管理することが求められる内容になっています。

また、その分別している利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産に対しては、特別な先取特権が付与されるという内容が、資金決済法に入っています。ここに関しては、民事法の領域となりますが、最終的にこういった担保権が付与される形で法案が提出されたということになります。

*3 投資家から注文を受けた仲介業者が顧客の注文の前に自分の注文を先に出す行為。

金融商品取引法の改正案

まず、金商法上のデリバティブ取引に、暗号資産のデリバティブが規制されることになります。これにより、いずれの類型であっても、暗号資産のデリバティブ取引は金商法上の規制対象になります。

また、現物だけではなく、指標にも暗号資産の価格又は利率が取り込まれたので、指標を原資産とするデリバティブ取引も金商法の適用対象になります。スワップなどが含まれるかは、政令ないし府令に委ねられますが、こちらも対象とされる可能性が高いであろうと考えています。論点としては、金商法と資金決済法で重畳適用があるのか、どういった行為が市場開設行為に該当するのかという論点が出てくるものと思われます。

して、新しく電子記録移転権利というものが定義されました。電子記録移転権利というのは、定義上は、いわゆる集団投資スキーム持分などの第2項有価証券に該当する権利のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものをいいます。いわゆるファンド規制とか、第2項有価証券と言われている匿名組合出資持分などに関しては、一般的には流動性が低いということで、金商法上は第2項有価証券として、開示規制などはかかっていないですが、トークン化することで流動性が高まるといえますので、こちらを第1項有価証券として扱い、開示規制の対象にしていく改正案が示されています。ただし、流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものに関しては除外するという内容になっています。株券や社債券といった、第1項有価証券に関しては、特別デジタルトークン化したものに関する規定は設けられていないという理解です。

また、不公正な行為の禁止として、厳密な暗号資産の売買、その他の取引、あるいはデリバティブ取引に関して、不公正な行為を禁止し、風説の流布や相場操縦等が規制対象となります。いずれも行為主体の限定はなく、業者も何人も規制対象となります。

こちらは金商法ですが、現物の規制も含めてここに入っています。一方で、基本的には有価証券に関する不公正の行為の内容と一緒と考えて良いのですが、条文は完全に分かれており、課徴金の規定の適用はないという内容になっています。また、安定操作に関する禁止規定がないのが特徴かと思います。こちらは、一定程度、発行体等が仮想通貨の価格、ボラティリティーを抑えるために何らかの操作を行っていることもあり得ますので、そこまでを禁止する趣旨ではないということで、少し禁止規定が書き換えられています。

最後に、施行時期と経過措置です。公布から1年以内ですので、おそらく来年の春に施行されると考えています。前回、資金決済法の改正のとき、こういった経過の中でみなし業者がありましたが、業務内容の制限はなかったことと、みなし業者たり得るための期間の制限もなかったということで、その反省を踏まえてか、施行後、登録までの間の業務内容を限定するという経過措置が定められています。業務範囲を施行時点の既存利用者のために、あるいは現に管理している種類の暗号資産について行うものに限定するという定めになっています。

質疑応答

【質問者】

よく消費者事件で、ある会社がトークンを発行し、それを販売し、「近く上場する。だからそのときにとても値上がりしてもうけが出る」ということを宣伝文句にしているが、よく中身を見てみると、例えば対象事業で出た利益を分配するということも特別なく、有価証券的な性質をもつわけでもなく、その会社の商品を買えるというわけでもないので前払い式支払い手段でもないというように、ただ、値上がりの話しかないといった場合があります。そのトークンは会社が発行はするが、会社は何の負担もしないという話になってしまうので、どうしても違和感を覚えるのですが、こういうトークンというのはあり得るのか、また、あったとして、そこに問題点はないのか教えていただければと思います。

【講師】

登録業者ではあり得ませんが、そういった業者がトークンを売る事例は結構あると認識しています。そういう意味では確かに前払い式や有価証券には当たらないのかもしれませんが、トークンとして売っているのであれば仮想通貨に該当する可能性はあると思います。

恐らくそういうものは詐欺も多いと思うので、それが仮想通貨に該当するかどうかというよりも、そういった値上がりするなどという宣伝文句で手を替え品を替え詐欺をしているような人たちもいるのだろうと思います。

仮想通貨に該当する場合、これを業として販売すれば、当然資金決済法で無登録営業になり刑事罰がありますが、摘発は金融庁や当協会ではなく、警察当局の所管となります。また、摘発には証拠が必要となるため、どのようにエビデンスを集めていくか、あるいはそういった危ない仮想通貨のようなものが売られているという情報提供をどのように実施していくかという枠組みを含めて、検討しているところです。

【質問者】

仮想通貨交換業者を第三債務者とする、民事上の差押え、捜査機関の差押え、税務署の差押えなど、そういうものについて規則などに何らかの定めはありますか。例えば弁護士法23条照会などについて何か自主規制機関として定めているのか、あるいは定める予定があるのかをまず1点目として教えてください。

2点目は、交換業者が安定操作取引をすることがあるとお話しいただきました。ボラティリティーを安定するためか、それを保つためか金商法では原則禁止で一定の要件の下で許容されるということだと思いますが、このあたりの実態を教えてください。

【講師】

1点目ですが、現状は規約でどこまで定めているかというと結構まちまちではないかと思われますが、差押え等があれば凍結することは、当然書いてあるところが多いだろうと思います。論点としては、差押えがあるけれども、金銭債権ではないので取立てできないのではないかという話があると思います。では、勝手に差し押さえられたら換金して しまってよいのかというと、またそれはそれで議論の余地はあるかと思います。

ここは自主規制規則でどこまで定めるのか、債権者の方が仮想通貨で差し押さえたいという場合があるのかどうか、一律で換金してしまってよいのかというのも若干迷いはあるところなので、どういった形でまとめればよいのかということを今後、議論していきたいと思っています。

一方で、弁護士会照会に関しては、これも各社まちまちの対応というところが現状と思います。これに関しては全部答えればよいということでもないだろうと思いますので、各社である程度判断し、具体的な事例を見なければ分からない部分もあると思います。

2点目の安定操作に関しては、業者が安定操作をするというのは、相場操縦に当たる場合もありますが、もともとコインの種類によっては、例えば価格が1ドルに近くなるように発行体が注文を出して、ボラティリティーが高くならないように設計して出しているという場合もあります。つまり、もともとそのような商品設計でやる場合です。

そういう商品設計をする場合に、例えば発行体がその範囲で注文を出していくことは禁止しなくてもよいのではないか、という理解ですので、業者が勝手に貼り付けさせるとか、そういうことは恐らく相場操縦に該当するものと思われます。

【質問者】

2点教えてください。
1点は、仮想通貨に関して価格操作の疑いというか、価格の適正性がどうなのかという議論があり、価格の適正性を確保するために自主規制の方では確か価格の状況についてモニタリングをするような制度を導入されていたと思うのですが、その辺の運用状況、徹底状況を教えてください。

それからもう1点、改正法の中の言葉遣いで言うと、電子記録移転権利でしょうか、投資型のICOという呼び方をしていたかと思いますが、こちらについては議論の中で非上場株式と同様に一般への流通を抑制した方がよいのではないかということがあって、報告書の中にもそういったことが書かれているかと思います。

非上場株式については、基本的には自主規制で対応されているので、法律よりも恐らくは自主規制での対応ということになろうかと思いますが、その辺りの対応についてどのような議論状況になっているのか教えてください。

【講師】

1点目の価格操作に関しては、自主規制でも定めており、これに関しては現時点では各社でシステム開発をして、あるいは人力でのチェックをしているところもありますが、そういった閾値を定めて取引を抽出し、例えば価格を釣り上げているなどの不適正な行為がある場合にはそれを抽出しているということで、場合によっては口座を凍結するような措置を取るという理解です。

ただ、各社統一的な基準で運用というところまではいってはおらず、この仮想通貨の取引の監視システムのようなものも業界として何か導入すべきかという議論はしています。いずれにしても、そういった運用状況を実地検査でチェックするということは行っています。

2点目の電子記録移転権利に関しては、金商法上も第1項有価証券扱いになりますので、市場で扱っているものに関しては取引所、あるいはPTSで扱わなければならないということになると思います。

勧誘規制等に関しては、日本証券業協会(日証協)の方で株式は規制していると思うのですが、電子記録移転権利に関してはどの団体が持つのかというのがまだ決まっていないという状況です。

質疑応答風景

【質問者】

マネー・ロンダリングの関係については、これも警察との間で意見交換や交流をされると思います。例えば今、ほかの金融商品では金融庁が窓口になっていると思いますが、そういうものも交換業協会として受け付けして、それをまとめて警察と連携されるということがあるのか教えてください。

【講師】

疑わしい取引の届出については他の金融機関も同じですが、当協会としては見ることはできないという立て付けになっていますので、直接金融庁に届出が行われています。犯罪収益移転防止法上、漏らしてはいけな いという規定があるという認識なので、当協会としてはどういった基準で届出を抽出しているのか、何件ぐらい出したのかなど、そう いった質を高める取組みを行っています。

【質問者】

苦情相談や紛争解決について、例えばどういった苦情や紛争が多いのか、それに対して協会でどういった対応をされたのかを教えてください。

【講師】

苦情で多いのは登録業者との入出金について、時間がかかるなどの内容です。
その他は、例えば価格の関係で、異常値が出ているとか、システム障害に関する苦情も散見されます。また、登録業者ではない業者が実施している違法なICOではないかと思われるようなコインの販売を受けたという苦情も多く受けています。