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国選弁護の「くすぐったいところ」、お答えします

はじめに

2018年11月号の国選日誌では、「刑事弁護の『かゆいところ』、お答えします」として刑事弁護の「外側」の「かゆいところ」が紹介されています。今回の国選日誌では、「国選」に着目して、「国選」弁護の「外側」の「くすぐったいところ」を紹介してみたいと思います。国選弁護が私選弁護と大きく異なるのは、 法テラスに報告をしなければ報酬等を受け取れないし、弁護士会からある程度の監督を受けるということです。そこで、法テラスや弁護士会との関係で生じやすい疑問点を中心に、場面別にお答えしようと思います。

なお、字数の関係で、記述が正確ではない部分があることをご了承ください。参照条文等を記載しますので、詳細は、条文等をご参照いただければと思います。法テラスの条文は法テラスのサイト、第二東京弁護士会の規則等は、第二東京弁護士会の会員サービスサイトで見ることができます。

全般について

質問1 法テラスへの報告と重複する部分は、弁護士会には報告しなくてもよいですか?

国選弁護を終えると、法テラスへの報告が必要です((法テラス)国選弁護人の事務に関する契約約款(以下「約款」といいます。)11条)。そして、法テラスへの報告とともに弁護士会への報告も義務付けられています((第二東京弁護士会)国選弁護人の遵守すべき事項に関する規則(以下「国選規則」といいます。)14条)。

この点に関して、法テラスへの報告と重複する部分は、弁護士会への報告は不要ではないかというご意見をいただくことがあります。しかし、弁護士会としては、法テラスに国選弁護人を推薦している((第二東京弁護士会)会則82条の2第1項)こととの関係上、著しく不適当な弁護がなかったかを確認する必要があります。そして、法テラスと弁護士会とは別機関であり、法テラスへの報告の内容が当然に弁護士会に共有されるわけではないので、法テラスへの報告書を含めた資料の提出をお願いしています。

被疑者段階

質問1 初回の接見は急ぐ必要がありますか?

法テラスからの指名打診を受諾した場合は、指名打診後、速やかに、被疑者と接見する必要があります((第二東京弁護士会)国選弁護、当番弁護士及び弁護人紹介に関する規則(以下「国選規則」といいます。)7条1号)。できる限り、当日中には接見に行くようにしてください。

なお、被疑者国選の基礎報酬の基準となる被疑者弁護期間は、初回の接見を初日としてカウントされますので((法テラス)国選弁護人の事務に関する契約約款(別紙)報酬及び費用の算定基準(以下「算定基準」といいます。)12条1項)、初回接見の遅れは、報酬の低下にもつながる可能性があります。

質問2 接見の際に気をつけることはありますか?

接見の回数は、被疑者国選の基礎報酬額に影響することとの関係で(算定基準12条)、警察署の留置施設、刑務所、拘置所、鑑別所で接見する際には、法テラスの接見資料を受け取ってください((法テラス)接見資料及び事実証明書に関する細則2条)。裁判所や検察庁での接見に接見資料は不要です。

ただし、接見資料の要否にかかわらず、接見の日時及び場所は法テラスへの報告書に記載する必要がありますので(約款20条本則別表A1)、記録するようにしてください。

質問3 示談が成立しましたが、検察官には、電話で示談の事実を伝えたのみで、示談書は提出しませんでした。加算報酬は支払われますか?

被害者に対して示談等をした場合であっても、特別成果加算報酬が支払われるためには、成果に係る事実を証明する文書(示談書等) を検察官に提出することが必要です(算定基準30条1項)。検察官に電話で示談の事実を伝えただけでは、加算報酬は支払われません。

質問4 不起訴処分になった場合の報酬加算はありますか?

ありません。被疑者の特別成果加算報酬を定めた算定基準別表G1の活動内容に含まれないからです(算定基準30条1項)。

質問5 被疑者事件終了後に、弁護士会に提出する書類はどのようなものですか?

弁護士会へは、法テラスへ提出した国選弁護報告書(接見資料は不要です。)を提出する必要があります(国選規則7条3号)

第一審被告人国選

質問1 接見の際に気をつけることはありますか?

被疑者段階と異なり、接見資料を受け取る必要はありません。被告人段階での基礎報酬は、接見の回数ではなく、選任に係る被告事件の種類及び公判前整理手続の有無に応じて定まるからです(算定基準15条2項)。

もっとも、弁護士会に提出する書面(被告人国選弁護報告書(第一審補充))で接見日時・場所を記載する必要があるので、日時・場所は記録しておいてください。

質問2 検察官請求証拠や任意開示証拠を謄写する際の謄写費用は支払われますか?

検察官請求証拠や任意開示証拠を謄写する際の謄写費用について、自白事件であれば、謄写枚数が200枚を超える部分について、法テラスより記録謄写費用が支払われます(算定基準31条1項)。否認事件であれば、謄写枚数の全部について、法テラスより記録謄写費用が支払われます(算定基準31条4項1号)。

記録謄写費用が支払われる場合であっても、その金額は、白黒1枚40円まで、カラー 1枚80 円までという制限があります(算定基準31条 1項、2項、4項)。なお、東京地方検察庁にある東京謄写センターの謄写費用は、白黒1枚25 円、カラー 1枚50円です(2019年7月現在)。

質問3 公判期日で終了時刻を記録する必要がありますか?

実質公判期日の立会時間が一定の時間を超える場合には、立会時間に応じて法テラスから公判加算報酬が支払われます(算定基準20 条3項、4項)。そのため、公判の開始時刻と終了時刻を法テラスに報告する必要がありますので(約款20条4項)、記録を忘れないようにしてください。

質問4 法テラスの資料には、判決宣告の日が「終了日」と記載されていますが、判決宣告後の保釈請求に特別成果加算報酬は支払われますか?

保釈による特別成果加算報酬は、判決宣告の前後を問わず、1回に限り(算定基準30条3 項柱書)支払われます。ただし、請求は、(釈放の日ではなく)判決宣告の日から14営業日以内にする必要があります(約款19条2項1号、3項、18条)。いったん報告書を提出した後でも、判決宣告の日から14営業日以内であれば、報告書を補正することができます(約款19条4 項、18条)。

質問5 第一審終了段階で弁護士会に提出する書類はどのようなものですか?

①起訴状の写し、②弁論要旨の写し、③法テラスへ提出した報告書、④被告人国選弁護報告書(第一審補充)を提出する必要があります(国選規則7条4号)。また、弁護士会では、研修開催等の参考にするため、判決書の写しの提出もお願いしております。
判決書の写しについて、係属部によっては、弁護士会に提出する旨を説明すると、無料で交付してもらえることもありますので、担当書記官に相談してみてください。判決書の謄本の交付請求をする場合は、判決書の謄本交付手数料は訴訟準備費用として請求が可能です(算定基準35条2項)。ただし、訴訟準備費用の請求は、判決宣告の日から14営業日以内にする必要がありますので、ご注意ください(約款19条2項1号、3項、18条)。
④の書式は、第二東京弁護士会の会員サービスサイトからもダウンロード可能です。

上訴審の被告人国選

質問1 記録を謄写した場合、費用は支払われますか?

記録を謄写する場合、法テラスへ請求できる費用は、基本的には200枚を超える部分に限られ、否認事件等の場合には全枚数分の費用を請求できる点は、第一審の場合と同じです ( 算定基準47条、31条2項、4項、54条)。それに加えて、控訴趣意書や上告趣意書提出前に上訴が取り下げられた場合などは、謄写枚数の全部について費用が支給されます(算定基準45条1項、54条)。

1枚当たりに支給される費用は、第一審と同様、白黒1枚40円まで、カラー 1枚80円まで支払われます。東京高等裁判所構内にある司法協会を利用した場合、白黒1枚45円、カラー 1 枚80円です(2019年7月現在)。司法協会を利用した場合、否認事件等であっても、白黒の費用が1枚につき5円オーバーしますので、1枚について5円は自己負担となります。

質問2 原審の国選弁護人から記録を引き継ぐ場合、記録の送料は費用として支払われますか?

上訴審弁護人が原審の国選弁護人からいわゆる着払いで記録を受け取った場合、送料は、訴訟準備費用として支払われます(算定基準47条、35条2項、54条)。ただし、支払われる送料は引継ぎを「受けるに要した費用」に限られますので、引継ぎを受けた記録を第一審弁護人に返送した場合の送料は、訴訟準備費用には含まれず、支払いはありません。

質問3 被告人は、東京拘置所ではない施設で勾留されているようです。東京拘置所ではない施設で接見する際に注意することはありますか?

控訴審において、被告人が東京拘置所以外の施設で勾留されている場合、被告人は、弁護人の上申がなくても、東京拘置所に移送されます。東京拘置所に移送される前に接見をする場合、東京拘置所への移送の日に注意する必要があります。東京高等検察庁に問い合わせをすると、(決まっていれば)移送の日を教えてもらえます。なお、移送の日は、施設によっては曜日が決まっている場合もあります。その場合には、移送の日が未定であってもある程度、移送の日を予測することができます。東京高等検察庁に問い合わせた際に「未定です。」と言われても、「移送の曜日は決まっていますか。」と聞いてみると良いと思います。

上告審において、被告人は移送されません(刑事訴訟規則265条)ので、勾留されている被告人と接見するためには、現地に赴く必要があります。

質問4 遠距離接見の際にタクシーを利用すれば、タクシー代が支払われますか?

遠距離接見(弁護人の事務所の所在地を管轄する簡易裁判所と目的地との直線距離が片道25キロメートル以上などの接見。算定基準27条1項参照)の場合の交通費(遠距離接見等交通費)は次のように算定されます。
原則として、民事訴訟費用等に関する規則2 条1項によって算定されます(定額方式。算定基準47条、32条2項3号、54条)。現実の移動が通常の経路及び方法による移動をして実際に支払った交通費が定額方式で計算した額を超える場合に限って実額が支払われます(実額方式。算定基準47条、32条2項1号、54条)。

ここでポイントなのは、実額方式による算定の場合、「通常の経路及び方法」による移動である必要があるということです。例えば、バス等の公共交通機関を利用できるのにタクシーを利用した場合は、「通常の経路及び方法」と認められないことが多くなります。通常の経路及び方法と認められないにもかかわらず、タクシーを利用してしまった場合、バスを利用していないので、バスを利用した「実額」を観念することができず、バス代が支払われるわけでもありません。

タクシーを利用しても通常の経路及び方法と認められるのかどうか疑問に思う場合には、事前に法テラスに問い合わせてみることをお勧めします。

質問5 上訴審における接見の際に注意することはありますか?

法テラスへの報告は必要ありませんが、弁護士会への報告は必要ですので、接見の日時を記録しておいてください。

質問6 上訴が取り下げられたことを知らずに遠距離接見をしてしまいました。その場合の交通費は支払われますか?

控訴が取り下げられた事実を知らなかったことについてやむを得ない事由が認められれば、遠距離接見等交通費が支払われる可能性があります(算定基準45条2項、54条)。

質問7 上訴審終了段階で弁護士会に提出する書類はどのようなものですか?

弁護士会へは、①控訴趣意書又は上告趣意書の写し、②法テラスに提出した国選弁護報告書、③被告人国選弁護報告書(控訴・上告審補充)を提出する必要があります(遵守規則7条4号)。また、第一審と同様、研修開催等の参考にするため、判決書の写しの提出もお願いしています。控訴審においては、弁護士会提出用であることを説明すれば、多くの部で判決書の写しを交付してもらえるような印象です。上告審においては、判決書は郵送されてきます。

③の書式は、第二東京弁護士会の会員サービスサイトからもダウンロード可能です。

弁護士 荻原 啓太(62期)●Keita Ogiwara

NIBEN Frontier●2019年11月号