出版物・パンフレット等

この一冊vol.140『NO LIMIT ノーリミット 自分を超える方法』


『NO LIMIT ノーリミット自分を超える方法』
栗城史多 著
サンクチュアリ出版
1,400円(税別)

今回私が紹介するのは、登山家の栗城史多さんが自身の経験を通して書いた『NO LIMIT ノーリミット 自分を超える方法』です。
栗城さんは、世界七大陸最高峰の単独無酸素登頂に挑戦し、いくつもの名だたる山々に無酸素で登頂していました。登山中の映像はYouTube 等にも残されていて、「冒険の共有」がされています。ただ、栗城さんは、8回目のエベレスト登頂中の2018年5月21日に帰らぬ人となりました。
私が栗城さんのことを初めて知ったのは、司法試験に3 回目の挑戦をした後でした。私の世代は、5年で5回の受験が可能な制度になっていましたが、かつては3回目は最後の受験であり、3回目の受験を終えて精神的にもかなりきつい状態でした。受験後も、勉強を続けなければなりませんが、モチベーションが上がらず、毎日だらだらしていました。その中で、弟から栗城さんの本を薦められ、手に取ることになりました。
この本は、いわゆる自己啓発のカテゴリーに入る書籍で、私はこれまでそういった類いの書籍を読んだことがありませんでした。
しかし、私は、この書籍を通して、「普通の人」である栗城さんが壁を乗り越え、自分が決めつけた限界のその先に進んだことに私自身を重ねて共感しました。栗城さんは、身長162センチ、体重60キロで、恵まれた体格や体力を備えているともいえなかったため、北米最高峰のマッキンリーの挑戦にも反対されていました。それでも、栗城さんは見事登頂しました。「普通の人」の「限界を超える挑戦」が、当時の私にとってとても共感できたのです。
新司法試験になってから中には複数回受験をする人もいますが、受験回数を重ねるごとに合格率は下がっていきます。そのため、途中であきらめる人も多くいたかと思います。私も同様に3回目の受験を終え、自分の進路に悩んでいました。
そのときにこの書籍を読んで、「できるか、できないではなく、やりたいか、やりたくないか」、「絶対に成功すると思い続け」る、「自分の心は何に反応するのか?何をしていたら、満足しているのか?素直になろう」等、栗城さんの言葉を受けて、自分の進路の悩みを払拭することができ、弁護士になりたいという思いを改めて強く抱きました。
それぞれの状況によって、自分にとって必要な言葉は必要なときにシンプルな言葉でなければスッと入ってこないと思います。そういった意味で、この書籍で栗城さんの言葉は私に響いて、自分を奮い立たせることができました。
栗城さんが自分の指を凍傷で切断してからも登山をあきらめず、書籍や登山映像を通して、「冒険の共有」をし続けてくれたことに非常に感謝しています。書籍の紹介をもって栗城さんのご冥福をお祈りいたします。

当弁護士会会員 中島 一精(70期) ●Issei Nakashima