出版物・パンフレット等

少年とともに

新潟少年学院訪問記

はじめに

子どもの権利に関する委員会では、定期的に少年院の見学会を実施しています。今回は、近年、少年が特殊詐欺に関与するケースが増加傾向にあることから、特殊詐欺再非行防止指導を導入している新潟少年学院を訪問することにしました。

新潟少年学院の沿革・概要

新潟少年学院は、昭和24年に新潟県農民道場の施設を改修して少年の収容を開始したのが始まりで、平成27年には社会適応課程Ⅰ(A1)の少年院に指定されました。現在では、東京高裁管区の家庭裁判所において、第1種少年院送致の決定を受けた16歳5か月以上の男子少年を収容しており、令和元年8 月2日時点では、定員80名に対し在院者58名でした。非行名は、詐欺が28%と最も多く、次いで傷害が24%、窃盗が19%となっています。建物は、平成16年10月に起きた新潟中越地 震の被害により補修工事を余儀なくされ、更に平成22年9月には全面改築工事を行った関係で、とてもきれいでした。建物が新しいため生活環境は良く、雪が降っても外に出ずに院内を移動できる造りになっているとのことでした。

新潟少年学院の特性等

(1)特殊詐欺再非行防止指導

新潟少年学院では、指導対象者全員に対して「必須プログラム」を実施しており、これは、個別指導、講義、ワークシートを活用した演習及び集団討議、老人ホーム等における社会貢献活動等で構成されています。老人ホーム等における社会貢献活動を必須としているのは、特殊詐欺の被害者になりやすい高齢者との交流を深めることで、被害者の痛みや苦しみを想像させることを意図したものだそうです。

また、平成29年に作成された「特殊詐欺少年に対する鑑別・指導の手引」では、特殊詐欺少年を、①「生活全般問題タイプ」(保護者との関係性、社会適応力、自己統制力、逸脱親和性の4つの領域全てに問題があるもの)、②「家庭機能不全タイプ」(4つの領域のうち特に保護者との関係性に問題があるもの)、③「生活全般低調タイプ」(4つの領域の全てに顕著な問題はないが、生活全般に充実感や明確な将来展望を持てないもの)の3つのタイプに分けているところ、同院では、これを参考に個別事情も考慮した上、「選択プログラム」を選定し、対象者の個人別矯正教育計画を実施しているそうです。

手引は個別指導を中心に構成されていますが、同院では集団指導を基本としているとのことでした。集団指導には、悩みや将来の不安感を共有でき、自分の夢に向かって頑張りたいという気持ちを同じ境遇の者が後押ししてくれる心強さを感じられるという利点があることが理由だそうです。

(2)情操教育、季節のイベント

新潟少年学院では、クラブ活動(書道、音楽、美術等)、瞑想、ミニコンサート等の情操教育に力を入れており、特にミニコンサートは2か月に1度行われる伝統行事です。少年たちは頑張っている姿を保護者に見せられる機会なので、毎日張り切って歌唱練習を行っているそうです。

また、春は八方台をハイキング、夏は柏崎の海岸で臨海訓練、秋は保護者も交えて運動会、冬はスキー場でスキー訓練を行うなど、豊かな自然の下で四季の移り変わりを実感することができるのも特色です。

(3)高卒認定試験指導

新潟少年学院は、高卒認定試験受験指導モデル庁に指定されたことを受けて試験対策コースを設けています。教室には電子黒板が用意されていて、板書した内容は全てプリントアウトできるため、受講生はノートをとる必要がなく、講師の話に集中できるようになっていました。また、国語、数学、英語は外部講師を招いているとのことでした。

在院者の多くは高校を卒業していないことから、高卒認定試験の受験を望む者が多いようで、昨年は全科目合格者15名、科目合格者9 名という実績でした。

(4)意見箱

意見箱を設置しており、その意見を院内に反映させる体制をとっているそうです。例えば、「本が古いから新たに買って欲しい」との意見があったため、昨年は1300冊もの古本を買ったとのことでした。

施設内見学

新潟少年学院は今の建物になって10年も経っていないため、とてもきれいで過ごしやすい印象を受けました。
また、陶芸科などの作業場も見せていただきました。お皿や茶碗等が置いてあり、中には素人目には売物と見間違えるほどの完成度のものもありました。同院は、長岡市内にあることから、作品には長岡花火の絵が描かれているものが多かったです。

付添人活動との関係

特殊詐欺事案により入院した少年の特徴を伺ったところ、自己イメージが低く、自負と自信喪失のギャップを補おうと特殊詐欺に加担している(居場所を創出しようとしている) ケースが非常に多いそうで、特殊詐欺に加担して成果を出すことで達成感や満足感を得て、内的自己イメージを充足していたと考えられるとのことでした。

付添人としては、特殊詐欺に関与する以外の方法でも少年の自己イメージを高められるように環境調整等を行う必要があると感じました。

おわりに

新潟少年学院は、過ごしやすい環境や熱意のある職員の方々の様々な取り組みにより、少年の更生や成長を促す体制が整っているように感じました。また、特殊詐欺事案により入院した少年の特徴やその少年に対するアプローチの仕方についての説明も受けられたので、付添人活動にも活かせる多くのことを学べた大変貴重な機会となりました。

今回お世話になりました新潟少年学院の皆様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

荻原 篤史(71期) ●Atsushi Ogiwara
青塚 貴広(71期) ●Takahiro Aotsuka

社会的養護の子どもたちとアフターケア~その現状・課題~

子どもの権利に関する委員会の悩みごと相談チームは、相談窓口を開設して相談を待つだけでなく、支援を必要とする子どもたちに積極的に支援を届けることを模索して、3回にわたり、NPO法人ライツオン・チルドレンとの事例研究・意見交換の機会をいただいた。

同法人は、平成26年5月に、子どもたちの支援のためには、個人が一人で援助を試みるだけでなく、より多くの個人や企業を結びつけて支援体制を整えることが必要だという理念により設立されたとのことで、現在は、子どもたちへのスキル支援などの教育・研修、企業等に対する社会的養護や児童養護施設に関する啓発等の支援活動を行っている(詳しくは、同法人及び社会で子育てドットコムのHP参照)。

今回は、令和元年9月18日、同法人の理事長立神由美子氏・事務局長石井宏茂氏をお迎えして、社会的養護の現状、児童養護施設を退所した子どもたちのアフターケアの現状や課題について講演していただいた内容を紹介したい。

社会的養護について

現在、日本には、親と一緒に暮らせない子どもたちが約35,000人(里親・ファミリーホーム・乳児院・児童養護施設の児童の数)いるが、その理由は、大きく①家庭での虐待・育児放棄、夫婦間の暴力、②親の健康問題、③ 親の経済的困窮、④事件・事故や自然災害で親が死亡に分類できる(参考:資料集「社会的養育の推進に向けて」厚生労働省・平成31 年4月)。中でも①虐待等が社会問題化しているが、実際には、例えば、離婚に伴い母親が子どもの親権者となったが、子どもに養育上の難しさがあり、父親から養育費の支払も受けられず、母親が生活や子育ての負担を受け止めきれなくなってしまったり、子育ての辛い思いから精神的な不調に陥ってしまったりして虐待に至るなど、社会的養護が必要になる理由は複合的である。

そもそも、社会的養護は、①保護者のいない子どもや、保護者に監護させることが適当でない子どもを、公的責任で社会的に養育し、保護すること、②養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことを柱とする。子どもの養育を、親の自己責任や子どもの運が悪かったためと片付けるのではなく、子どもの立場に立って国が養育していこうという考え方である。

施設入所又は里親委託がなされるまでは、 ①発見→②一時保護→③入所等という流れである。①は、現状では警察による身柄保護の場合が最も多い。②の一時保護所は、場所によっては定員に対して140 ~ 150%の入所率に達するところもあり、更に、勉強道具や衣類も含め私物を一切持ち込むことができず、原則として入所中は通学もできない。触法少年も一緒に入所しているためトラブルが多く、最近の報道でも入所者同士が目を合わせることもできないなど、運営方針が虐待を受けて傷ついた子どもにとっては厳しすぎると指摘されている。また、厚生労働省は、平成30年3 月に東京都目黒区で5歳女児が虐待を受けて死亡したことを受け、同年7月、原則として通告受理後48時間以内に安全確認ができない場合は立入り調査を実施することとしたが、現実には、訪問しても不在や拒絶などの理由で安全確認ができない事例も多く、上記48時間ルールは徹底されていない。③入所等についても、一つの学校に施設入所の子どもが増えることは望ましくないと判断する教育委員会もあり、小中学校の空き状況によって一時保護が長期化してしまう事例もある。

児童養護施設の子どもの約6割が虐待(身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待) を経験しており、約3割が心身に何らかの障害を有している(「児童養護施設入所児童等調査」厚生労働省・平成27年1月・データは平成25年2月現在)。

施設入所中の親権等と子どもの権利擁護

児童養護施設に入所する法的な根拠は2種類あり、通称①(児童福祉法)27条ケースと② 28条ケースである。27条ケースは、親権者等の意に反して行うことができないが、28条ケースでは親権者等の意に反しても家庭裁判所の承認を得て行うことができる。

現在の実情としては、①27条ケースの場合、児童相談所は、入所後は家庭復帰を目標として、子どもと保護者の面会交流の機会をつくる等、親子関係の調整に入ることが多い。

児童養護施設入所児童で、親権者も未成年後見人もいない場合は、施設長が親権を代行するが(児福法47条1項)、親権者か未成年後見人がいる場合は、施設長は、監護、教育及び懲戒に関し児童の福祉のため必要な措置をとることができるとされている(同法47条3項)。そして、親権者等は、施設長による上記の 必要な措置を不当に妨げてはならないとされているが(同法47条4項)、実情では、様々な妨害が行われている(具体例として前掲「社会的養育の推進に向けて」96頁参照)。

子どもが生活していく上では、親権の範囲を超えて、携帯電話や施設退所後の住まいのための賃貸借契約の保証人、就職の際の身元保証人等が必要であるが、子どもに適当な親族がいない場合、施設長が保証人等になることが多い。最近では、このような実情を行政が追認し、施設長が身元保証契約を締結する場合に国や都道府県等が一定の補助金を支払う制度(身元保証人確保対策事業)が実施されているが、手続に時間が掛かるため、少なくとも都内では余り活用されていない。

子どもの発達と対人距離

児童養護施設に入所した子どもには、対人距離に課題を抱える子どもが多く、他人にベタベタくっつきすぎたり、人に困りごとを相談できず、抱え込んだり、孤立することがある。また、人と人との境界線の概念が弱い子どもが多く、他人の所有物を勝手に触ってしまう、持ち去ってしまうとか、ほかの子どものプライベート・パーツを触ってしまう、自分のを触らせてしまうということがある。

標準的な子育てでは、父母やきょうだい、祖父母、いとこ、学校・友だち・近所の人たちというように、子どもを中心とする同心円状に、親子の愛着関係から始まって、徐々に人間関係が広がっていくもので、対人関係における「親しさ」はグラデーション的である。

しかしながら、父母間の暴力・暴言・不仲等の理由で緊張感がある家庭環境で育った子どもの場合、対人関係における健全な距離感を学ぶことができず、密着するか、断絶するかのトラブルを生じやすいため、対人距離の微調整を学ぶ必要がある(参考:「その後の不自由『嵐』のあとを生きる人たち」上岡陽江・大嶋栄子・2010年9月・医学書院)。

改めて、相談とは

「外来」型の相談の場合、①「これは自分が対処すべき問題だ」と本人が考えている、②「これは専門家に相談すべきだ」と本人が考えている、③どうすれば専門家を活用できるか、本人が正しく理解している、という条件が満たされなければ、そもそも相談が起こらない。そのため、本人が問題の重要性を理解していな い場合においても、「とりとめのないグチ」を互いに 言い合えるくらいの人間関係を築き、事態が悪化 する前の段階で問題を察知できることが望ましい。

効果的な子どもの支援のためには、施設職員、学校の先生、施設の支援団体、地域・近所の人、職場等の多くの「応援団」で子どもを包んだ上で、弁護士等の専門家は、どうすればその輪に加わることができるかを考える必要がある。支援を必要とする子どもは、雪山でクレバスに落ち込んでいるようなものである。救出のためには、支援者が一人でクレバスに飛び込むのではなく、チームを組んで対応する必要がある。

上記のほかにも参考になる内容が多かったが、残念ながら紙幅の関係で割愛せざるを得なかったことをお詫びする。

馬場 和佳(52期) ●Kazuyoshi Baba